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魔法少年になった仙人じいちゃんの驀進譚(ばくしんたん)◆11/14書籍第一巻発売◆ESN大賞7奨励賞受賞◆  作者: 相有 枝緖
第五章

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207/210

200 魔法青年は会いに行く

よろしくお願いいたします。



コーディは、週に一度は休日とした。

ジョギングも散歩も朝のうちに軽く済ませて、あとは自由である。


「自由、ですか……」

朝食の片づけを終えたカーヤは、所在無げに立ったまま言った。


「はい。さすがに迷いの樹海に出るのは危険なのでお勧めしませんが、村の中であれば安全です。家でのんびりしてもいいですし、村の中を散歩して色々な店を見てもいいでしょう」

「……村にあった、図書館でも?」

ふと思い立ったらしいカーヤは、ちらりと窓から外を見た。


「もちろんです。カーヤの、好きなように過ごしてください」

「はい。……こういうことは初めてなので、どうしたらいいのかわたくしにはさっぱりわかりません」

右手で左手を握るようにしながら、カーヤは困ったように首をかしげた。


「しなければいけないことは特にないということです。万が一の連絡用に、この魔道具だけ持ってくださいね。昼食を外で食べるなら、これを持って行ってください」

コーディは、通信の魔道具を入れた小さな巾着と、もう一つ別の小さな巾着をカーヤに手渡した。


「この石が魔道具なんですか?」

巾着から小石を取り出したカーヤは、興味深そうに魔法陣を眺めた。


「はい。僕のこの石と連携していて、遠く離れていても会話できます」

「手紙ではなくて、声を届けるのですね」

やはりカーヤは理解が早い。


「ええ。こっちは昼食代です。図書館の近くなら屋台も出ていますし、食堂もあります。お金の使い方はもう覚えたと思いますから、好きにしてください」

「まあ……。わたくしが、自分で選んで買って、食べていいのですか?」

黄色い目をきらめかせたカーヤは、コーディと目が合った瞬間にふと気づいたように瞬きをした。


「あの、コーディ様はどうなさるんですか?わたくしだけ外に出てしまって、お困りになりませんか?」

優しい子だ。

コーディがどうするのか気にしてくれているらしい。

「僕は前から読みたかった本があるのと、少し魔法で検証したいことがあるから家にいる予定です。昼食は買ってくると思います」


「……では、昼食はわたくしが買ってきましょうか?午前中は図書館で本を選んで、午後からはこちらでゆっくり読みたいと思いますので」

ぎゅっと握りしめられた手は、カーヤが思い切って提案したことを教えてくれる。


コーディは、にこりと笑顔を見せた。

「それは、とても助かります。二人分買ってきてくださるのなら、それでは少し足りませんね。財布を貸してください」

「はい」

カーヤは、ほんの少し自信を滲ませてうなずいた。

財布を受け取ったコーディには、初めてのおつかいを頼まれた子どもに見えた。





カーヤが出かけてから、コーディは自室で瞑想する体勢をとった。

魂の世界に行くだけなら、時間の経過があいまいである。

しかし、あそこを通って別の世界に行く場合はどうかわからない。


だから、まずは試してみるべきだ。


この世界の指標として、カーヤに持たせた魔道具の片割れを持っておく。

一つの石から削りだしたペアなので、繋がりがわかりやすい。


そうして、コーディはまず魂の世界へと向かった。


体はまだホリー村の自室である。

ゆるりと意識を動かし、別の世界の方を注視して、元のコーディの居場所を探った。

コーディ自身の魂の力を分けたので、残滓のようなものを辿れそうである。


そうしてたどり着いた世界を把握して、コーディは心中で苦笑した。

(なるほど。わしと繋がりができたからかのぅ)


元のコーディは、どうやら地球に生まれているらしかった。


コーディにとっては当然馴染みのある世界なので、行き来もしやすそうである。

魂と肉体が細く繋がったままの状態で地球世界を目指し、世界の縁のようなところに触れると同時に肉体を呼び寄せた。

衝撃などは一切ないが、イメージはテレビで見たことのあるゴムパッチンだろうか。



そうして体が魂に重なった瞬間、コーディは山中の廃墟の前にいた。



「ここは……。ああ、わしの家だったところか」


それは、鋼として最期を迎えた家だった。

懐かしい、日本家屋の平屋である。


庭は草がぼうぼうになっており、鶏小屋のあったところにも生き物の気配はなく、アスファルトの道だけが地面として開けていた。

電線は一応繋がっているようだが、家は閉ざされたまま。


「そういえば、誰かが弔ってくれたのかもしれんな」

一応、事前に準備はしておいたので、役所の方で葬儀などはしてくれたと思う。

しかし、亡くなった鋼を見つけた人には気の毒なことをした。

「……見つけられておる、よな?」


魔法で鍵を開けてこわごわと家の中へ入ると、古い家特有の匂いがした。

そっと歩けば、床板がギイ、と鳴る。


「ああ、やはりちゃんとしてくれたようだ」

鋼が最期に朝焼けを見た部屋は閉ざされ、何もなかった。



家を出て鍵を閉め直したコーディは、改めて元のコーディの気配を探った。

「……少し遠いか。とはいえ、空を飛ぶわけにはいかんな。転移するほかないか」


元のコーディとの繋がりがうっすらと感じられるものの、距離はかなりありそうだ。

少し考えてから、コーディは転移するべく魔力を取り出した。

「そうか。魔力も気も、元は同じじゃったか」


仙人が使う『気』と、魔法世界での『魔力』は、捉え方や貯え方が違うだけで、エネルギーとしては同じ存在。

突然理解したコーディは、納得とともに満足してから転移した。



転移した先は、閑静な住宅街。

新しい家と少し古い家が立ち並び、近くには公園が見える。

生まれ変わった元のコーディは、今は公園にいるらしい。


そちらに向かって歩き出してから、ふと自分の格好を見下ろした。

白いシャツに黒いズボン、黒いローブに茶色の靴。

「……ローブはいらんな」


杖はもう持ち歩いていないので、ローブさえなければ地球でも誤魔化せそうだ。

手ぶらなのも気になるかもしれないので、アイテムボックスから肩掛けの鞄を取り出し、ローブをしまった。

アイテムボックスの場所には、世界を越えても同じようにアクセスできると、今わかった。

「面白いもんじゃのぅ」


そこは比較的大きな公園だった。


親子連れが多いので、今日は休みの日かもしれない。

小学生くらいの子たちもいれば、もう少し年かさの若者たちもいる。

コーディが紛れ込んでも、特に問題はなさそうだ。


歩いてそちらに向かうと、小さな子ども向けの遊具がいくつか並んでいた。


カラフルで、角を削り取った柔らかなフォルムの遊具の間から、黒髪の男の子が飛び出してきた。


「おっと」

四歳くらいに見える男の子は、ふっくりした頬をバラ色に染め、コーディの足にぶつかった。



読了ありがとうございました。

推敲が甘いので、後で修正するかもしれません。

2025/11/27 微修正しました。


続きます。

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