◆書籍発売記念SS◆ ヘクターとスタンリーは友人を思う
2025年11月14日、「魔法少年になった仙人じいちゃんの驀進譚 ~もしくは、仙術オタクが魔法オタクに転身して魔法学園で無双する話~」と副題をつけて、書籍を発売いたしました。
今回は、書籍発売記念の番外編です。
よろしくお願いいたします。
「よう、スタン」
「久しぶりだね、ヘクター」
仕事や諸々の対応を終え、久しぶりに落ち合った二人は、王都の落ち着いたレストランにいた。
そろそろ結婚の準備があるということで、ヘクターが一時的に帰国しているのだ。
スタンリーは、その時期に合わせた出張で王都に来ていた。
妻のチェルシーは、領地で留守番だ。
「それで、オレたちは書類上は来月結婚で、改めての式はほぼ一年後ってことになったんだ」
ナイフとフォークを手に持ったまま、ヘクターが肩を落として言った。
スタンリーは、仕方ないとうなずいた。
「まさか、ズマッリ王国の王弟が出席するとはね」
「断ったのに押し切られたんだよな……」
ズマッリ王国の魔法陣研究所で一定の地位を築いているらしいヘクターは、本当はブリタニーとの結婚を機にプラーテンス王国に戻るつもりだったらしい。
しかし現状では、両国の魔法交流の中心的な立ち位置になってしまい、抜けられなくなっているようだ。
「まあ、向こうだったら逆にスタンたちの領地が近いし?会いに行くのも楽でいいんだけどな」
「距離は近いね。いつ来ても大丈夫だよ」
「マジで?じゃあ、また近いうちにリットと一緒に行こうかな」
リットとは、ブリタニーの愛称らしい。
「うん、歓迎するよ」
スタンリーは、笑顔でうなずいた。
一通り食事を終えて、ゆっくりとワインを口に運んでから、二人は顔を見合わせた。
「なあ、コゥのこと、どう思った?」
ヘクターが、口火を切った。
これは、ヘクターと話したかったことの一つだ。
「うん。突然結婚するって手紙がきて、びっくりした」
「だよな!驚くよな!おかげでオレ、適当な手紙を送っちまって、後でリットが補足の手紙を送ったくらいだったんだぜ」
大声で同意するヘクターに、スタンリーは苦笑した。
「まあ、コゥらしいとは思ったよ。人助けで結婚するとか、普通は考えないし」
「あれな。なあスタン、本当のところはどうだと思う?」
ヘクターがこそこそと聞くので、首をかしげたスタンリーも心持ち声を小さくした。
「本当のところって?」
「人助けとかなんとか書いてたけど、本当はただの一目惚れじゃないのかってこと!あのスピード決断は怪しいぜ」
どうやら、ヘクターはコーディが恋愛がらみでスピード結婚したのではないかと考えているようだ。
スタンリーは、思ったことを言いかけて言葉をのみ込み、もう一度慎重に口を開いた。
「僕も少し考えたんだけど。でもやっぱり、コゥって恋愛感情あるのかないのかわかんないから、純粋に人助けなんじゃないかって思う」
「あはは!確かに、コゥが女の子を好きになるのって想像しづらいな」
笑ったヘクターは、すぐに表情を変えた。
「でもな、相手は他国の公爵令嬢だろ?なのにあの速さで連れ帰ったんだろ?しかも、手紙に書いてあったのを冷静に読んだら、魔塔の研究者って立場を振りかざすみたいにして連れ出したっぽいじゃん?コゥがそこまでするって、よっぽどだと思ってさ」
スタンリーもうなずいた。
「うん、よっぽどだっていうのはすぐわかった。でも、恋愛がらみだったらもうちょっと正規の手段を取るんじゃないかなぁ」
考えていたことを言えば、ヘクターは首をひねった。
「そうか?だって公爵令嬢だぜ?ほとんど雲の上の存在じゃん。攫ってでも!って思ったのかなって」
「うーん。どうなんだろう。手紙を読んだ限りでは、そこまでわからなかったし」
スタンリーがワインを一口含むと、ヘクターもこくりと飲み干した。
「まあ、コゥが帰ってきてくんないとわかんないか。リットもちょっと心配してたんだよな、相手のご令嬢のこと」
「うん、チェルシーも心配してた。突然知らない土地に連れて行かれて、大丈夫かって」
「コゥって、気が利くし親切だし懐も深いけど、魔法バカだもんな」
スタンリーが飲みこんだことをヘクターが言ったので、思わず笑ってしまった。
「あははは!そう、そうだよね。ご令嬢の扱い自体は多分丁寧にするんだろうけど、魔法が関わると心配だよね」
「すごい魔法の才能があるって書いてあったじゃん?オレらに教えてたときみたいにやってないかってな」
「そこまでは、さすがに……?いや、でも、コゥだからなぁ」
「だろ?」
二人は顔を見合わせた。
「ご令嬢には加減しろって手紙を書いておくか」
「その方が良さそうだね。無理強いはしちゃいけないって」
うなずき合った二人は、友人の暴走を止めようと決意した。
「そういえば、今回は次期男爵代理で来たんだろ?一緒に来たら良かったのに。リットも会いたがってたし」
「ああ、うん。今はちょっと移動が厳しくて。ヘクターたちの結婚式のころにはもう大丈夫だと思うし、来てくれる分には問題ないよ」
「ん?もしかして、病気とか怪我?」
ヘクターが心配そうな表情になったのと対照的に、スタンリーは笑み崩れた。
「今、妊娠四ヶ月なんだ」
「えっ?!」
「つわりがちょっとしんどそうでね。休んでもらってる」
「えっ?!」
ヘクターは、目と口をぱかっと開いた。
「なんだよ、もっと早く言えよ!!おめでとう!良かったな!」
「ありがとう」
にこにこのスタンリーの肩を、ヘクターがばしばしと叩いた。
「でもそうか、それならオレたちの結婚式のころにはある程度体調も落ち着いてるか?」
「多分。生後半年くらいだろうから、ゆっくり移動すれば大丈夫だと思う」
「マジかー。いや、ほんとにおめでとう!」
「ありがとう」
笑顔のままのスタンリーに、ヘクターは言った。
「もしもなんかあったら、コゥに言えよ。多分、一瞬ですっ飛んできて助けてくれそう」
「ああ、確かに。手紙と一緒に無理やり転移してきそうだよね」
「な。そんですぐに助けてまた飛んで帰りそう」
「わかる」
まさか本当に転移を身につけているなどと思いもせず、二人は友人に思いをはせた。
読了ありがとうございました。
本編に戻ります。




