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魔法少年になった仙人じいちゃんの驀進譚(ばくしんたん)◆11/14書籍第一巻発売◆ESN大賞7奨励賞受賞◆  作者: 相有 枝緖
第五章

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197 魔法青年は勉強してもらう

よろしくお願いいたします。



「魔獣ではない、とは?」

コーディは今まで、ドラゴンも魔獣だと思っていた。

というより、魔獣の一種であることを疑ってもいなかった。

上界真人相当になって魔力を可視化できるようになってからはまだドラゴンを見ていないが、もしかすると今なら違いが見えるかもしれない。


「そもそもじゃ。魔獣はどこから生まれるか知っているか?」

「いいえ」

コーディが答えると、カーヤも首を横に振った。


「そう、いまだ判明しておらん。誰も見たことがないんじゃ。気がついたらどこかから現れている。そしてここが重要なのだが、魔獣の子どもなど誰も見たことがない」

「樹海には、成体の魔獣しかいませんね」

プラーテンス王国やそのほかの国でも、魔獣の子どもなど見たことはない。


「だが、ドラゴンは卵を産む」

「はい、そうですね」

コーディも、見たことはないが知識として知っている。


「あまり目撃例はないが、少数とはいえドラゴンの幼体を確認したという報告はある。それだけでも充分魔獣とは別のものだとわかるが、それよりも重要なのはこちらじゃ。エアドラゴンの心臓には、魔法陣があった」

「魔法陣?」

驚いたコーディに、ディケンズはうなずいた。


「そう、魔法陣じゃ。正確には、魔法陣にしか見えない模様が、血管と臓器の凹凸で描かれていた」

「内臓そのもので魔法陣を描いている、ということですか……。どういう内容なんですか?」

ディケンズはため息をつき、首を横に振った。


「それが全くわからん。言語のようだが、おおよその形だけで魔法陣のようなものになっただけにも見える。だが先日、やはりそこに魔力が通っていたことを確認したと報告があってな。人間とも、動物とも、魔獣とも違う存在なのではないか、という話になっておる」

「人工的に、そうなった可能性もあるということでしょうか」

コーディが眉を寄せて言うと、ディケンズは首をひねった。


「それは何とも言えん。エアドラゴンの死体は2体あったが、どちらの心臓にも同じような模様があった。だが、形が若干違った。もしかすると、生物としての特性なのかもしれんという見解もある」

「なるほど……。そういえば、ドラゴンは魔獣を食すると聞いたことがあります。それも関係があるのでしょうか」

本で読んだ限りでは、人の町を襲ったというような記録はあるが、人を食べることはないらしい。主食は魔獣とあった。


「エアドラゴンに関しては、それも違う可能性が出てきた。胃や腸といった内臓が極端に退化していてな、あの体の大きさで、胃は両手で掴めるほどの大きさだったそうじゃ。排泄器官に至っては、かろうじて存在はするが動くかどうか怪しいとな」

肩をすくめたディケンズは、手に持ったままだったサンドイッチを口に放り込んだ。

食事中の話題としてどうかと思うが、コーディたちはもう食べ終わっているので、ディケンズが気にしないならいいだろう。


「では、生物として必要なエネルギーを食べ物から得ていない可能性があるんですね。あり得るとしたら、魔力ですか……」

なんとなく、六魔駕獣を思わせる生態である。

六魔駕獣の方は、あの巨体をすべて魔力で賄っていたが、ドラゴンは普通に肉体を持っている。


咀嚼して飲みこんだディケンズは、大きくうなずいた。

「その可能性が高い。それで今はほかにわかることがないかと、手分けして調査しているところなんじゃ。魔力が通りやすい部位と通りにくい部位があってな、それもまた繋げてみると魔法陣のようなものになるかもしれんという話になっておる。今はそこを調査中なのじゃよ」

うきうきと言ったディケンズの魔力は、研究に没頭しているときとは違い楽しそうに揺れている。


話に熱中してカーヤを放置してしまった、と気づいたコーディが彼女を見ると、こちらの魔力も楽しそうに揺れていた。

表情はいつも通り微笑んでいるが、わからないなりに楽しく聞いていたようだ。


ほっとしたコーディは、午後から読んでもらう本を頭の中でピックアップしながら、ディケンズの話を聞いた。





本を与えて自習してもらったカーヤだが、やはり優秀だった。

ある程度分からないことをまとめてメモしておき、コーディの論文が一区切りついたところを見計らって質問してくるのだ。

そこまでこちらの都合を伺う必要もないのだが、周りをよく見ているのは悪いことではない。


この様子だと、魔力の動かし方さえわかればすぐに魔法を思い通りに使えるようになるかもしれない。


夕方になる前に、この日は魔塔を後にした。

ディケンズは、集中していたので一応声だけかけておいた。


少し早いが、今日は二人が借りる家をいくつか紹介してもらう予定なのだ。




ホリー村の中心あたりにある大きめの通りを抜けて、不動産を管理している店に着いた。

「こんにちは」

「はいはい。研究者の方ですね。手紙をいただいたタルコット様ですか?」

「はい、そうです」


コーディが答えると、店主は二人に椅子を勧めた。


紹介してくれた家は三つあった。

一つはアパートで、ワンフロアずつを割り当てているタイプ。これなら、隣を気にする必要がないので少し気が楽だ。

もう一つは、少しコンパクトでフロアに二部屋ずつ並ぶ、料金が割安になっている三階建てアパートの二階。

最後は、一番割高な庭付きの一軒家。


「なるほど……。一番近所への配慮をしなくていいのはやはり一軒家ですね」

「はい。こちらは庭もございまして、敷地を出ないなら改築も問題ない物件です。ご希望でしたら、買取もできますよ」

「買取だと、どれくらいになるんですか?」


ホリー村はぐるりと塀で囲まれた土地ながら、かなり広い。

ただ、畑や牧場があるので人の住む場所は限られていて、アパートのような集合住宅も多い。

一戸建てはかなり贅沢だろう。


一応の確認として聞いてみると、不動産屋は別の紙を取り出した。

「販売価格はこちらです」

「これですか。うーん……二十年住むなら買った方がお得ですね」


賃貸料は、月に金貨十枚。

販売価格は、金貨二千二百枚。


買えるか否かで言えば、買える。

研究関連で出したものの販売が好調だったし、冒険者としても色々と入ってきている。

問題は、長く住むかどうかだ。


「一度この家を見せていただいてもいいですか?それから、買うか借りるか考えます」

「ええ、もちろんですとも」



連れられて行った場所は、見覚えがあった。

「こちらの家です」


歩く道すがら考えていたコーディは、家の中を確認しながらカーヤの様子を見た。

彼女は興味津々といった様子で、がらんとしたキッチンや庭に出られる勝手口、二階の部屋などを眺めていた。


「いいですね。カーヤは気に入りましたか?」

「はい。こういった雰囲気のお家は初めてです。壁紙のない木の壁が、温かみのあるものとは思いませんでした」

カーヤは、豪華な雰囲気よりは素朴なものが好きらしい。


「ここに住むと決めても問題ありませんか?」

「この家に……。はい!」

嬉しそうに笑ったカーヤは、もう一度家の中を見回した。


ふむ、とうなずいたコーディは不動産屋に告げた。

「この家を買います」

「ありがとうございます!即金でご購入でしたら、金貨二千百枚にさせていただきます」

「それは嬉しいです。役所から冒険者ギルドに伝えて金貨を受け取るので、後日またうかがってもいいですか?」

「もちろんですとも!」

にっこにこになった不動産屋は、何度もうなずきながら言った。



読了ありがとうございました。

続きます。

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