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魔法少年になった仙人じいちゃんの驀進譚(ばくしんたん)◆11/14書籍第一巻発売◆ESN大賞7奨励賞受賞◆  作者: 相有 枝緖
第五章

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202/208

196 魔法青年は生活を整える

よろしくお願いいたします。



アパートの部屋を借りるのにはひと悶着あった。

カーヤが、自分のために一部屋追加で借りることについて難色を示したのだ。

もちろん思うことを言えるのはいいことだが、それが遠慮の意思というのはどうなのか。


「わたくしは、ソファでも使わせていただければ充分です」

「そういうわけにはいきませんよ。だからといって僕がソファで寝ると言っても、カーヤは困るでしょう?」

「そんな、コーディ様にご負担をおかけすることはできません」


だからコーディは言いくるめた。

「カーヤも、ソファで寝ることは負担と分かっているんでしょう?僕だって、カーヤが負担を感じる状況は看過できません」

「……、はい」

「金銭的には負担でも何でもありません。カーヤが不自由する方が僕にとっては気になります。それに、今借りる部屋は一時的なものです。それぞれの個室を確保できるもう少し広い家を探してもらいますから、それまで我慢させてしまうのは僕の方です」


コーディが眉を下げると、カーヤは首を横に振った。

「いいえ!我慢など」

「我慢していないなら良かった。ではまずはアパートを借りて、同時に家を探してもらうよう依頼しましょう」


にっこりと言ったコーディに納得させられたカーヤは、ぎこちなくうなずいた。


アパートの空き部屋のうち、同じ階の部屋を借りることができた。

一通りの家具が揃っている部屋なので、寝具などの足りない物を追加すればすぐに住める。


「わたくしは、シンプルなものでかまいません」

「どれでもいいなら、この花柄か、こちらの刺繍入りのものにしませんか?僕のおすすめは花柄の方ですね」

カーヤは、困ったようにシーツを見比べた。


「どれでもいいなら、少しでも気になったものを選んでください。自分の好きなものに囲まれるというのも、大事なリラックス方法ですからね」

「……はい。えっと、では、こちらのシーツを」


カーヤが遠慮がちに選んだのは、白地の生地に、ワンポイントで線描画の花が描かれたシーツだった。

どうやら、派手な物よりはシンプルな色味が好きらしい。


「いいですね。次はカップや皿です」

「まだあるのですか?」

「もちろん」


最初は戸惑いながら選んでいたカーヤも、最後は楽しそうに選んでいた。

これから、自分で自分のために選ぶことをどんどん覚えてほしい。





次の日、朝からカーヤとアパートの前で落ち合った。

今日からは特訓開始である。

「散歩、ですか」

コーディは、大きく一つうなずいた。

「はい。カーヤはまずは体調を整えていくべきです。歩くところから鍛え始めましょう」


「魔法を使うには、鍛えることが必要なのですか?」

気持ち早めに歩くコーディについて来ながら、不思議そうにカーヤが聞いた。

コーディの論文は発表してあるのだが、アルピナ皇国ではまだ周知されていないだろう。

というより、多くの国でまだ眉唾だと思われている可能性が高い。


「ええ。体を鍛えることで、魔力の扱いがより安定します。魔法になる前の魔力を思い通りに扱えれば、二種類の魔法を同時に発動したり、得意な属性以外の魔法だって自由に使えるようになります」

「まあ……。もしかして、治療魔法も?」

カーヤの目的はぶれていないらしい。

目標がはっきりしているのは良いことだ。


「それに関しては、知識も必要ですね。知識も体力も一朝一夕にはどうにもなりませんから、一歩ずつ進めていきましょう」

コーディが教える医療には現代知識も混ざるだろうが、素直に吸収するならカーヤの力になる。

「わかりました」

うなずくカーヤは、まっすぐ前を向いた。


ヘクターやスタンリーに教えたときのように、走り込みから始めようと考えたのだが、カーヤについてはそれ以前の問題だ。


必要な筋肉すら足りていないので、まずは食べて動いて、健康になってもらわなくては。

焦りは禁物である。



三十分ほどを散歩に使い、朝食を摂ってから魔塔へ向かった。


ディケンズの研究室への登録も済ませたので、今日からは東屋の魔法陣で即移動である。

「ここに立ってください」

「はい」


二人で魔法陣の上に立つと、ふわりと風景が変わった。


「次からは、あの魔法陣に立つだけでここに来られます。カーヤ一人でも使えますので、気軽に行き来できますよ」

「わたくしが、自分で使えるのですか?」

カーヤが、目を煌めかせた。


「はい。一度試しますか?あの魔法陣に立ったら、先日と同じように東屋に戻れますので」

「やってみます!」

はっきりと言い切ったカーヤは、その勢いに反してゆっくりと魔法陣の上に立った。


さっとその場からいなくなったカーヤは、数秒後にはコーディの隣に戻ってきた。


「どうですか?」

カーヤの魔力は、楽しそうにゆらゆらと揺れていた。

「すごいです!わたくしでも、思い通りに魔法陣を使えるのですね」


どうやら気に入ったらしいカーヤに、コーディはうなずいた。





「カーヤは、体力をつける期間も必要ですから、しばらくは座学で理論を学んでから発動を練習しましょう」

「それで、朝の散歩ですか」

「はい。そのうち走りますし、体を動かす練習もします」

コーディが言うと、カーヤは目を丸くしながらもうなずいた。


発動についても、カーヤはある程度の知識を持っていた。

「決まった呪文で魔法が発動すると聞いています」

「それも事実ですね。誰かが発動した結果を見て、自分もできるようになります」

プラーテンス王国の子ども向けの魔法教室では、ほとんどがそういう方法だった。


「そこで自分に合う属性を見つけるのですね」

「通常ならそうです」

コーディがうなずくと、カーヤは首をかしげた。


「発動には短縮詠唱や無詠唱もありますので、『自分が確信できる方法』で発動できる、というのが正しいです」

「発動も、自分に合う方法があるということですか?」

「はい」


それを聞いたカーヤは、納得したように言った。

「コーディ様が呪文をまったく唱えないのも、そういうことでしょうか」

「ええ。僕は想像したものをそのまま魔法にしていますので」


「想像……。だから、知識が必要になるのですね」

「そういうことです」


思ったとおり、カーヤは頭が良い。

答えにたどり着くまでが早いので、教えていて楽しい。



自身の研究に没頭するディケンズを横目にカーヤに教えていると、すぐ昼どきになった。

昼からは、コーディは論文を書き、カーヤは本を読んでわからないところがあれば聞く、という予定にしている。

家で休んでいていいと言ったのだが、カーヤは魔法への興味が尽きないようだ。


好きなのであれば、無理のない範囲で満足いくまで学ぶべきだ。


そうして昼休憩をとっていると、ディケンズも一区切りついたのか応接スペースにやってきた。


「今日も来とるな、コーディ。カーヤさんも」

「はい。先生、昼食を用意していますよ」

「こんにちは」


「おお、助かる。コーディがおらなんだら、パンかベーコンを齧って済ませておったからな」

コーディが戻ったことで、ディケンズの食生活も健康的になりそうである。


「先生は、今は何を研究されているんですか?」

素材を使った魔法というわけでもなさそうだったので、気になったコーディが聞いた。


「あの素材は、先の戦闘で死んだエアドラゴンの一部じゃよ。不思議な生き物でな。魔獣ではなさそうなんじゃ」

「そうなんですか?」

「……?!」


それはまた面白い、と興味を持ったコーディの隣で、カーヤは目を丸くしていた。



読了ありがとうございました。

続きます。

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