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魔法少年になった仙人じいちゃんの驀進譚(ばくしんたん)◆11/14書籍第一巻発売◆ESN大賞7奨励賞受賞◆  作者: 相有 枝緖
第五章

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201/207

195 魔法青年は紹介する

よろしくお願いいたします。



入り口から入ると、奥から受付の人が出てきた。


「タルコットさん。そちらの方は?」

「僕の家族です。家族枠で転移の魔法陣に登録をお願いしたくて」

コーディは、カーヤをそっと床に立たせた。

カーヤは、興味深そうに室内をゆっくりと眺めている。


別に、魔塔には誰が入ってもいい。

とはいうものの、入り口がこの高さにある時点でほとんどの人は入れない。

だから、入る必要のある人、たとえば家族や配達人などは、研究者が連れて来て転移の魔法陣に登録するのだ。


「かしこまりました。では、こちらの魔法陣に手を触れてください」

受付の人は、コーディが初めて来たときとは違い、登録用の魔法陣と魔力を受け渡す魔法陣の二つを取り出し、受け渡す方の魔法陣をカーヤに示した。

どうやら、研究者の卵への対応と、出入りだけを希望する人への対応は違うらしい。


「失礼します」

カーヤがそっと魔法陣に触れると、ほんの少しだけ彼女の魔力が引き出された。

その感覚は初めてだったらしいカーヤは、ぱちくりと瞬きをして魔法陣を眺めていた。


「はい、これで登録完了です。次からは、来る途中にあった東屋の魔法陣を使って転移できます。必要であれば、研究室の前までの許可を出してください」

そういえば、部屋がある階へ転移する魔法陣はディケンズが持っている。

「わかりました」


階段室に案内すると、カーヤはひたすら続くらせん階段を見上げてぽかんとしていた。

「ディケンズ先生の部屋は38階です。行きましょうか」

「さんじゅう、はち?」

ぱちぱちと瞬きしたカーヤは、理解してから覚悟するようにぐっと手を握った。


「大丈夫ですよ、カーヤ。階段室にも魔法陣を使っていますので、数分で着きます」

「……はい、わかりました」

カーヤは恐る恐る階段室に入り、コーディに続いて階段に足をかけた。




「まあ!不思議な感覚です」

「気をつけないとうっかり最上階まで行ってしまうから、少しコツはいるんですけど」


一歩段を上がるだけで、勝手に足元の階段ごと数段分を上っていく。

地球にあったエスカレーターにも似ているが、効果が対個人に終始しているので、やはり魔法である。

目を煌めかせたカーヤは、楽しそうに足を運んでいた。


38階まで登ると、コーディは足を止めた。

「ここです。まずは、僕の師匠の部屋へ行って紹介しますね。その後は報告があるので、少しの間研究室で待っていてもらえますか?」

「かしこまりました」

うなずいたカーヤは、ふんわりとほほ笑んでいた。


一応、研究室のドアをノックしてから開けた。

「ディケンズ先生、戻りました。コーディです」


室内からの返事はない。

「カーヤ、あちらのソファ……の、荷物をどけるので少し待ってください」

「わたくしも手伝います」


コーディが指し示したソファには、本やら書類やらが積まれて崩れていた。

初めて来たときよりはマシだが、かなりの散らかりようである。


カーヤも手伝ってくれたので、応接スペースはなんとか片付いた。

ほかの部分は、際限がなくなるので後回しである。


そしてディケンズは、何かの素材を前に集中しているようであった。

「むぅ……。いやしかし。そうか!……違うか?」


「カーヤ、先生はああなっていたら話しかけても聞けませんから、少し休憩して待ちましょう。ちょうど小腹も空いていますし、サンドイッチでも作りますね」

「かしこまりました。その、さんどいっち、というのはわたくしでもお手伝いできますか?」

何もせずに待つ、というのはカーヤの選択肢にないようだ。

無理をしている様子はない。

手持ち無沙汰が性に合わないのであれば、一緒に作る方が気が休まるだろう。


「樹海で食べたものとほぼ同じです。よっぽど不器用でなければすぐに作れるようになりますよ。キッチンはこちらです」

「はい」


食糧庫には、相変わらずベーコンや野菜が入っていて、パンも多めに置いてあった。


作るといっても、コーディもそんなに手をかけたりはしない。

パンを薄めに切って、野菜にサラダ用のドレッシングをかけ、ベーコンやチーズなどと一緒に挟んで、終わりである。


真剣な表情のカーヤは、パンの上に丁寧に具材を並べてパンを重ねた。

「できました」


「うん、美味しそうにできましたね」

コーディが褒めると、カーヤは嬉しそうに微笑んだ。


そこからいくつかサンドイッチを作り、ディケンズの分も取り分けて、応接スペースへ戻った。

ディケンズは、相変わらず素材と格闘しているようだ。


「うーん、場合によると別の場所への報告を先にした方が良いかもしれませんね。とりあえず、食べましょう」

「はい」



お茶も淹れて休憩していると、ふとディケンズが顔を上げた。

「ん?コーディか。出張したら大変だったようだな」

「先生、戻りました。サンドイッチを用意してありますよ」

「おお、助かる。それで、そちらのお嬢さんが、コーディの妻で合っているのか?」

言いながら、ディケンズは手に持った素材をそのままに、向かい側のソファに座った。


「はい、カーヤ・ヘルツシュプルング公爵令嬢です。書類上はまだ結婚手続きが終わっていませんので、一応まだ予定ですが、妻になってもらいました」

「そうかそうか。おめでとう」

事情は知らせてあるので、ディケンズもカーヤのことは知っている。


「カーヤ、僕の師匠のディケンズ先生です。僕を拾い上げてくれた恩人でもあります」

「ディケンズ先生、よろしくお願いいたします」

「ああ、ご丁寧にどうも。魔塔の研究者にしてやれるかはわからんが、学ぶだけならいつでもここに来ると良い。ワシ……は、没頭したら答えられんじゃろうが、まあ、本なら一杯あるし、コーディもほかの研究者も、学ぶことには寛容じゃ。強要する者もおらん。楽しんでくれるのが一番じゃよ」


自分のことをよくわかっているディケンズは、うむうむとうなずきながら言った。

魔法の勉強をどこでしてもらおうかと考えていたので、この場所を使っていいなら助かる。


「実践は外でしますが、理論はここで学びましょうか。下には大きな図書室もありますから、色々と好きなことを学べますよ」

「はい。楽しみです」

目をキラキラさせたカーヤは、嬉しそうに言った。



次は、レルカンへの報告である。


現地から先に飛行して戻った人たちもいるし、ギユメットも一足先に来ているはずだ。

コーディは、多分帰還の報告程度で済むだろう。


そう考えて上階の執務室を訪れると、レルカンが書類を処理していた。

「レルカン先生、戻りました」

「タルコット、ご苦労だった」


カーヤを連れて入ると、ディケンズのような(ゆる)さがないのを感じたのだろう、彼女の空気がピリッとなった。


カーヤを軽く紹介してから、アルピナ皇国での依頼と討伐状況、貴族が依存気味だったことも伝え、それからギユメットが無自覚にその貴族たちをこき下ろしていたことも報告した。

「そうか。……ギユメットめ、自分は何もできなかったと言っておきながら、きっちり牽制しているではないか。まあいい、そのあたりはうまく各国と共有しよう。魔塔を食い物にしようとしたらどうなるか、思い知らせてやる」


悪い顔をしたレルカンは、カーヤがいることを思い出して取り繕った。

「おっと、まあそういう姿勢も魔塔の独立を保つためには必要でしてな」


カーヤは微笑んだまま軽く目を伏せた。

「わたくしはもう、国を出た身ですので」

「うむ。健やかに過ごされよ」

「ありがとうございます」


報告を終えたコーディたちは、魔塔を出てホリー村に向かうことにした。


まずは、家をどうにかしないといけない。



読了ありがとうございました。

続きます。

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