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魔法少年になった仙人じいちゃんの驀進譚(ばくしんたん)◆11/14書籍第一巻発売◆ESN大賞7奨励賞受賞◆  作者: 相有 枝緖
第五章

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194 魔法青年は連れて戻る

よろしくお願いいたします。



飛び上がると、眼下に迷いの樹海が広がった。

コーディにとっては、このところ見慣れた景色である。


「まあ……!」

抱っこ紐に包まれたまま首を横に向けたカーヤは、食い入るようにその風景を見つめた。


風は魔法で遮っているので問題ない。

風景がどんどん流れていく。

似たような森と空しかないのだが、カーヤには珍しいらしく、言葉もなく楽しそうに眺めていた。



数時間後、地面に下りて休憩を取った。

樹海の中だが、周りに魔獣がいないところを選んだので問題はない。


火を熾すのはさすがに危険なので温かいものはなく、村で手に入れた食事を出した。

少し硬めのパンで、チーズと燻製肉を挟んだものだ。

「カーヤ、少し食べづらいかもしれませんが、どうぞ」

「ありがとうございます」


コーディが土でさっと作った椅子に腰かけたカーヤは、恐縮しながらサンドイッチが乗った皿を受け取った。

ちなみに、テーブルも土を固めて作ってある。


即席で作ったポットでお茶を淹れていると、ギユメットが呆れたようにこちらを見た。

「現実ではないように感じるな。森の中でイスとテーブルを出して食事などと」


「普段はそのへんの石に腰かけて済ませますけど、カーヤにそうしてもらうのはどうかと思いまして」

「それもそうだな。魔獣が来なければ問題もない」

そう言ってギユメットはうなずき、軽く周りを見渡した。


木々が生い茂り、ほとんど周りは見えない。

コーディも軽く見たが、魔獣の魔力は見えていなかったので、周辺にはいないらしい。

「索敵もしていますから、大丈夫です」


「なるほどな」

と言ってすぐ、ギユメットはコーディを見た。

「あの、魔力を広げる索敵か」


今は次元のずれた場所にある魔力を直接見ているが、以前は索敵していた。

一応、同じように魔力を広げても周辺を把握できる。

だからコーディはうなずいた。


「はい。少なくとも、周囲一キロメートルの範囲に魔獣はいませんね」

「そうか。食べ終わったら私も試してみよう」

向上心旺盛なのは好ましい。


「いろいろな情報がわかるようになりますから、採取のときに便利ですよ」

コーディが笑顔で言うと、ギユメットも首を縦に振った。

「そうだろうな。ただ、慣れるまでに訓練は必要になりそうだ。……これも魔法陣で再現できないか?」


腕を組んで考え始めたギユメットに、コーディは皿を勧めた。

「まずは食事をどうぞ」

「ああ、いただこう」


「魔力を広げるところは、魔法陣でも簡単に描けると思います。ただ、戻ってきた魔力に応じた判断というところは難しいかもしれません」

言ってから、コーディもサンドイッチを口に運んだ。


カーヤは、興味深そうにこちらの話を聞いている。


ギユメットは、咀嚼し終わってから口を開いた。

「うむ。だが、詳細はわからずとも、例えば魔力を持った何かがいること程度なら、魔法陣で判別できるだろう?」

「なるほど……自分を中心とした地図で、方向と距離だけ示して何かがいる、というようなものですね」


魚群探知機のようなイメージであれば、そんなに難しくもなさそうだ。

「それなら、まあ小さめの魔法陣で済むだろうし、旅にも便利なものになるだろう」

どうやら、すでにギユメットの頭の中には魔法陣の設計ができているらしい。


「まあ、自分でできるに越したことはありませんから」

「それも重要だ。……魔塔に戻ったら試したいことが多いな」



温かいお茶を飲んでいると、遠くに魔獣の反応があった。

「そういえば、カーヤ。当面は僕が借りているアパートでもう一室借りるつもりですが、後日家を借りる形でかまいませんか?」

「住居ですか。わたくしは、コーディ様の思われる通りでかまいません」


よくわからないらしく、カーヤは首をかしげた。

「こちらでの様子が公爵家に漏れて、あれこれ言われるのも面倒ですからね。それぞれ個室を持って、キッチンやリビングを共有する同居という形になりますが、問題ありませんか?」

「はい、お手数をおかけして申し訳ありません」


ごく自然に頭を下げるカーヤに、コーディは苦笑した。

「別に大した手間ではないですよ。むしろ、ほぼ強制的に同居することになってしまって申し訳ない」

「いえ、そんな!コーディ様が謝るようなことではっ」


焦った様子のカーヤがコーディを見て、その笑みに思い出すものがあったらしい。

「あ、えっと……」

「謝罪もお礼も、この場合は不要です。これからまた飛びますので、どういった内装にしたいか考えておいてくださいね」


コーディはそう言って席を立ち、カーヤを抱き上げる準備をしはじめた。

「内装……わたくしが、選ぶのですか?」

「そりゃあ、カーヤの部屋ですから。好きにしてください。ただ、さすがに全面金箔貼りと言われるとちょっと厳しいです」


おどけるように肩をすくめると、カーヤは小さく笑った。

「ふふ。それは、趣味ではありません。わたくしが、自分で選ぶのが初めてなもので戸惑ってしまって。少し、考えてみます」

「色味や、どういう家具が良いかなど、ぜひ。ある程度はお応えできますから」


「何もかもお任せしてしまって、申し訳、あ。……ありがとう、ございます」

カーヤは、慌てたように途中で言葉を変えた。

コーディは、笑顔でうなずいた。


「夫婦というより、師匠と弟子か、きょうだい……いや、祖父と孫か何かのようだな」

ギユメットが、何とも言えない表情で言った。




片づけを済ませ、またすぐに空の旅となった。

二時間ほど飛ぶと、進行方向に魔塔が見えてきた。


「カーヤ、アレが魔塔です。あの根本付近に、ホリー村があります」

「まあ……あの、石の塔が」

周りを見ていたカーヤは、魔塔に釘付けになった。


改めて見ると、森の中に突然数十階建ての石の塔があるのはかなり妙な風景だ。

しかも、必要とあれば上に増築していくので、さらに伸びる。


「あんなに細長くて、倒れることはないのですか?」

近づく魔塔を見つめたまま、カーヤが不思議そうに聞いた。


「はい。魔法陣で保護していますから問題ありません」

コーディが答えると、目を煌めかせたカーヤはうなずいた。

「そうなんですね。……魔法陣も、色々と学んでみたい、です」


「ぜひ学びましょう。楽しいですよ」

「はい!」



そして、三人はホリー村の門の前に到着した。

ゆっくりと下りれば、門の向こう側の人も気づいたようで、すぐに声をかけてくれた。

抱っこ紐から解放されたカーヤは、ひたすら続く塀や大きな門に圧倒されたようだ。


カーヤのことは事前に伝えてあったので、すんなりと入ることができた。


「カーヤ、飛行はどうでしたか?」

「素晴らしかったです。わたくしにも、できるようになるでしょうか」

カーヤは、黄色の瞳をキラキラと輝かせた。


怖がるどころか前のめりなカーヤに、ギユメットは苦笑した。

「さすが、タルコットが目をつけるだけのことはある。ご令嬢……カーヤ殿。ホリー村は貴女を歓迎しますよ」

「は、はい。ありがとう、ございます?」


「ようこそ、カーヤ。疲れたでしょうけれど、まずは魔塔に行ってもかまいませんか?簡単な報告だけは済ませておきたいので」

先に帰った人たちからの報告もあるだろうが、コーディからも直接言っておきたい。

「ああ、私も帰還報告しておきたい。村への手続きは明日以降でも問題ないから、まずは魔塔だな」


「わたくしが、魔塔に入っても問題ないのでしょうか」

「入れるなら誰でも入って良いんですよ。今回は、僕と一緒に入れば大丈夫です」

コーディが言うと、ギユメットがうなずいた。


「そうか。魔法陣の登録がないから、東屋からは入れないんだったな」

「登録して、ディケンズ先生に報告したら上に行きます」

「わかった」


ギユメットは、先に東屋の魔法陣で魔塔へ転移していった。


残されたコーディとカーヤは、歩いて魔塔のふもとまで行った。

「まあ、近づくととても大きいんですね。……出入口は、どこに?」

「あそこです」

「え?」


コーディが指さした先は、数十メートル上の開口部。

「あんなところに?」

「飛べばすぐですから」


そう言って、コーディはカーヤをひょいと抱え上げた。



読了ありがとうございました。

続きます。

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