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180 魔法青年はサポートする

よろしくお願いいたします。



暴走している魔獣は、どういうわけかまとまってやって来る。


次の日に防衛拠点で討伐したのは、大半がサンドベアだった。

ベア系は力が強く、物理的な攻撃が多いため魔法の霧散があまり役に立たない。

いつもなら木魔法で足止めしたうえで、冒険者たちが少しずつ攻撃するらしいのだが、今回は複数体まとめて襲ってくるので苦戦しているようだ。


しかも、サンドベアに交じってストームドッグやソイルディアもやってくる。

スタンピードほどではないが、それでもある程度の数がやってくるので大変だ。


コーディは、彼らが用意している足止め用の堀を補強し、攻撃しやすいように木魔法で魔獣たちを拘束する形でサポートしていた。

村の人たちに聞いたところ、コーディが発表した魔法の五行に関する論文などは知らないらしかった。


五行を当てはめて、弱点の魔法を使うだけでも有利に戦える。

実戦でそれを見せながら、コーディは魔獣討伐を手伝った。




「魔法に相性があるのは何となく感じていたが、説明されると納得した。そのうえで、どの魔法が一番と決まるわけでもないんだな」

「ええ。この図のように、どれかに強くてどれかに弱いという相関関係ができています。ですが、魔力が多ければそれも覆せます」

「魔力量か……。こればかりは、生まれつきのものだからな」


コーディは、首をかしげた。

「訓練すれば、二倍から三倍くらいにはできますよ。冒険者をされている方なら多分、一年ほどで」

「え?もしかして、それも冒険者ギルドで……」

「ええ、公開している情報として入手できると思います。ただ、こちらのギルドは出張所ということなので、問い合わせないと出てこないかもしれません。それ以外にも、便利な情報は随時ギルドを通して冒険者に通達されていますよ」


コーディの見立てでは、冒険者たちはもちろん、女性の中にも魔力の多い人がいる。

少し訓練するだけで、この村の人たちはアルピナ皇国の中で一段飛び抜けられるだろう。



一緒に食事をしていた冒険者たちは、眉を寄せたり額に手を当てたりして、一様に悔しそうにしていた。

「ここはいわば僻地のようなものだからな。情報が来なくて当たり前だと思っていた」

「ああ。だが、このままというわけにはいかないな。定期的に町に行って情報を持ってこないと」

「町の奴らはともかく、ギルドはまだ扱いがマシだからな。俺らの中で順番を決めて行くしかないな」


どうやら、村の冒険者たちにとっては町に行くことがなかなかに負担らしい。

それに関しては、コーディも同意しかない。

魔塔の研究者たちをやたらと持ち上げてくるあの町は、なんとなく居心地が悪い。


「いっそ、出張所をこの村の正式な支店にしてもらえるといいんですが。冒険者の数やこのあたりの魔獣の数を考えれば、できなくはないと思います」

「しかし、支店にするとなると人員を村で確保しておかないといけないだろう?出張所は、基本的に素材の買取だけだから商人が兼任してくれているんだ」

冒険者たちは、困ったように首を横に振った。

確かに、人を確保する必要はあるだろう。


「力仕事というわけでもないですから、女性が事務処理を担当しているところも多いですよ。ほかにも、ケガをしてしまって現場に出られなくなった冒険者とか」

「なるほど。森に出られなくなった冒険者にはいいかもしれないな」

「それなら、俺の親父なんかもいいだろう」


コーディは、首をかしげた。

「男性の手があった方が安心ですが、女性にもいい職場ですよ?比較的安定していますし、女性の冒険者の助けにもなれますから」


すると、冒険者たちは一様に不思議そうな表情になった。

「まぁ、事務仕事ならわからんでもないが、出たがらないんじゃないか?」

「家の仕事があるしなぁ」

「それに、冒険者って男の仕事だろう?」

「本人がやりたがっても、家族が嫌がるだろ」

「オレの妹が冒険者になるって言ったら、親父が怒り狂うぞ」

「だな」

「どちらにしても、一度町のギルドに行って要望を出すべきだ」


うすうす感じていたことだが、どうやらこの国では外で働くのが男性で、家で働くのが女性という固定観念が染みついているらしい。

もちろん、統計的には力仕事なら男性の方が得意だし、マルチタスクは女性の方が得意だ。

しかし、コーディは女性の冒険者を何人も知っている。

この国のギルドはまだきちんと見ていないが、知っているギルドの受付は男女半々くらいだった。


周りが決めた枠の中でだけ生きるというのは、本人の意思を無視する形になる気がする。


だから、ここはコーディ個人ではなく、彼らが敬愛する自分の祖国を引き合いに出すことにした。

「プラーテンスでは、ギルドの受付は半数が女性でした。また、冒険者の三割くらいが女性でしたよ。女性は確かに力では男性に敵わないところもありますが、腕力の差を魔法で埋めていました。トップクラスの冒険者パーティにも、女性メンバーがいますし」


「女性が?トップクラスのパーティに?」

「そういえば、爺ちゃんが昔組んでたパーティには女剣士がいたって言ってたな」

怪訝そうに顔を見合わせた冒険者たち。

もう一押しである。


「無理強いはいけませんが、それは男女問わずそうですよね?男性だからって冒険者にならないといけないわけじゃないし、家で料理を作ってはいけないわけでもない。女性だって、自分の意思で職業を選んでいいはずです。男女関係なく、適材適所にしていかないと、発展は望めませんよ。少なくとも、プラーテンスはそうして魔法を独特の形で進化させてきました」


「もしかして、魔法の開発にも女性が?」

「ええ、もちろんです。女性の領主も少なくありませんからね。僕の友人なんかもそうです」

コーディがチェルシーを思い出しながら言うと、彼らは驚いたようだった。


「女性の領主?この国ではありえないな。貴族の女性は貴族の家の財産だって聞いたことがある」

「確かに。でも、だったらプラーテンス王国の流れをくむこの村では、国のやり方なんて無視して、俺たちのやり方を取ってもいいんじゃないか?」

「そうか。そうだな。領主からも国からも放置されているんだ、俺たちの方法で変えていっても何も言われないだろう。どうせ税金とかいって金を持っていくだけだしな」

「俺の嫁さんは嫌がりそうだがな」

「それこそ、個人の選択だろう?嫌がるのにやらせるわけじゃない」

「だな」

「オレの姉貴は喜んでやるって言うぞ」

「あの人ならやりかねない」

「プラーテンスの血を引く奴もいるんだ、プラーテンス流になっても自然ってもんだろ」


どうやら、この村の人たちはかなり国に対して反発心を持っているらしい。

それならいっそのこと他国へ行くという選択肢もあると思うのだが、先祖代々の思い入れやこの場所への郷愁、未知の場所への不安、家族を連れての長旅の負担など、躊躇する理由は色々あるだろう。

大きな変化を自ら起こすのは、エネルギーのいることだ。


しかし、このままでは町に防波堤として消費されるだけで、うっぷんが溜まるばかりだろう。

その状況を変えるために、村のあり方を変えるのはアリだ。

憧れのあるらしいプラーテンスに近づく、という方法が合っているなら、まずはそこから始めてもいい。


村の中で見た女性たちは、一歩引いて意見も言わない、大人しやかな人ばかりだった。

しかし、全員がそうだというのは不自然だ。

男性だって、全員が戦うわけじゃない。


どうやら彼らにとっては男女の役割分担が当たり前のことすぎて、疑問にも思っていなかったようだ。

故郷の威を借りたコーディの意見が、村の停滞を解消し、男女問わず個人の意思を大事にする方向に舵を切るための一石になればいいと思う。



読了ありがとうございました。

続きます。

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