表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

184/191

178 魔法青年と暴走魔獣

よろしくお願いいたします。



ソーンタイガーとは、グラスタイガーの上位種のようなものだ。

迷いの樹海にもいるらしいが、コーディはまだ見たことがなかった。


狼煙が上がっていた方向へと飛ぶと、すぐに人と魔獣が見えた。

森から少し離れた、開けた場所だ。

邪魔になるものがなく戦いやすいだろうが、魔獣からも人が見えやすい。


森から出てきたのであろう暴走する魔獣の数は、かなり多かった。

そして、森の中から大きな魔力を感じた。


「あれがソーンタイガーか。たしか、棘を纏うんだったな」


木々の間から見えた大きさは、よく知っているグラスタイガーの倍ほどだろう。

比べてはいけないのだろうが、ペルフェクトスたち六魔駕獣と比べるとものすごく小さい。

その魔獣に蹂躙されようとしている人たちは、いたって普通の人間だ。


「わしは、もはや上界真人の域に達したのだろうな」

仙人は、まだ少し人間からはみ出した程度の感覚だった。

今の自分は、明らかに逸脱した存在になっている。


こういう人外じみた存在は、下手に表に出ると騒動の元になる。

偉人か、救世主か、歴史的大罪人か。

いずれにしても、何らかの事象の原因として利用される可能性が高い。


コーディは、そんな風に歴史に関わるつもりは一切ない。

せっかく上界の域に達したのだから、真人だからこそできることをしていきたい。


仙人とは、そもそも自己中心的な者だ。

自分に向きあい、研鑽を積むことが生きる目的と言っても過言ではない。

人助けは自分が高めた能力を使うついでに役立てているだけ。


鋼として生きていたときにはあまり世間と関わらずにいたが、コーディとしては魔法を学ぶのが楽しくてかなり表に出ている。

論文も出しているし、今回の騒動では名前も知られるようになった。

一応、魔塔を隠れ蓑にしてはいるが、知っている人はコーディが何をしたのかをある程度知っている。


ほとんどが国のトップ層なので、無理に表ざたにするよりもコーディと上手くやっていく方がいい、と判断してくれている。

コーディとしては、ちょっと変わった魔塔の研究者として多少名前が知られている、くらいなら許容範囲なので、そういうスタンスでいるつもりだ。


万が一、何らかの形で担ぎ出されそうになったら、別の大陸を探して逃げ出すという手もある。

魔獣が多いため海運は発達していないが、この星で大陸がここだけ、というわけはないと思うのだ。

別の大陸へ行けば、また新しい魔法があるかもしれない。


ただ、プラーテンスの友人たちも、魔塔の師匠や研究者たちも、そんな変わった人物であるコーディをコーディとして受け入れてくれているので、すべてを手放すのは惜しい。

めんどくさそうな国があれば、適当な餌を投げつけて口出しさせないのが一番だろう。


コーディ自身は、自分がすべき、またはしたいと思って手出しをするのは構わないが、相手の都合で使われるのはまっぴらごめんなのだ。

もちろん、助けを求められれば今回のように応えることもある。

友人が助けてほしいといえば、すぐに飛んでいくだろう。


けれども、自分を優先して他人を利用する者のために動くつもりは一切ない。

今回については、無為に殺される民衆を少しでも減らすためだ。

その民を守るために必死に戦う人を助けるためだ。


紛い金糸の貴族たちのためではない。


やはり、あの程度の可愛い報復では少し足りなかったかもしれない。

かといって国を潰してこの国を抱え込むつもりもない。

この国をどうにかするのは、この国のまともな人(がどれだけいるのか知らないが)か、他国の権力者たちであるべきだ。


そんな風に思いながら、コーディは戦う人たちの前に飛び降りた。



「な、なんだ?!」

「人間か?」

戦う手を止めそうになりながら、冒険者らしい人たちは戸惑った。


「驚かせてすみません、村に派遣されてきた魔塔の研究者です。冒険者でもあります。ソーンタイガーを叩いてくるので、こちらをお任せしても大丈夫ですか?」

「あ、あぁ。ソーンタイガーさえ来なければ、この数ならいつも通り対処できる」

「では、お願いします」


リーダーなのか、壮年の男性がうなずいたのを見てからコーディは森の方へ走った。



ソーンタイガーは、ペルフェクトスの魔力にあてられたのだろう、少し魔法を暴走させながら走ってきた。

ペルフェクトスの強大な存在感に恐れをなして逃げながら、その爆散した魔力を取り込んでしまって暴れているようだ。

エネルギーが有り余っているような状況らしい。


コーディがソーンタイガーの前に走り出ると、餌が現れたと思ったのか、走ってきた勢いのまま飛び掛かってきた。

「おっと。なるほど、これは多少骨が折れるだろうな」

空ぶったソーンタイガーの前足から大きな棘がいくつも飛び出し、コーディが立っていた地面に深々と突き刺さった。


ひょいと避けたコーディは、地面を蹴ってから低く飛んでソーンタイガーに迫り、複数の白い火の玉をぶつけた。

小さなゆらぎにしか見えない火の玉は、しかしいわゆる超高温の炎だ。

火の玉はソーンタイガーの棘をたやすく燃やし、ただの焦げたでかい虎にした。


『グォォオオオ!』

ソーンタイガーが大きく鳴いたと思ったら、再び全身に棘を生やした。

ペルフェクトスの魔力は大きく広がっているので、やはり魔獣にとっても魔法を使いやすい環境になっているようだ。


飛び掛かってくるソーンタイガーを躱して、コーディは地面を蹴る。


「いたずらに長引かせても気の毒だ」

ひとつうなずいたコーディは、上から大きな炎を降らせた。


ソーンタイガーがそれを避けるために飛びのいた先に、武器を構えたコーディがいた。


コーディが魔法で作った刀で首元を大きく切り裂くと、ソーンタイガーはふらりと数歩進んで倒れた。



軽く処理を施したソーンタイガーを紐でくくって風魔法で浮かせ、森の外に出る。

血抜きなどの処理に少し時間をかけてしまったからか、外に出たときにはもう冒険者たちの戦いは終盤になっていた。


「そっちに行ったぞ!」

「任せろ!構えろ!」

「一体倒した!」


先ほどは急いでいたのできちんと見ていなかったが、森の外に出てきている魔獣の多くはストームドッグだったらしい。

犬系の魔獣は徒党を組んでくるので厄介だ。

しかし、冒険者たちも慣れているのだろう、いくつかのパーティが連携を組みながら上手く散らして戦っていた。


そんな彼らだが、ソーンタイガーを空中で引くコーディを見てぎょっとした。

ストームドッグまでこちらを見たと思ったら一瞬固まった。

確かに、意味の分からない状況だろうが、戦っている最中に大きく気を逸らすのは良くない。


先に我に返ったのは冒険者たちだ。

出遅れたストームドッグに、チャンスとばかりに切り込んで倒していた。

きっと経験の差だろう。



「助かった。魔塔の研究者ってやつはすごいんだな」

「僕は特に戦闘に特化した方です。プラーテンス王国出身ですし」

恐る恐る礼を言われたが、コーディがプラーテンスから来たと知った途端に態度が軟化した。


「そうだったのか。プラーテンスなら、ソーンタイガーくらい一人で倒せるものなのか?」

「それは……うーん。一部の人は可能でしょうね。でも効率が悪いので、パーティを組んで倒すのが常道だと思います。あの棘はめんどくさいですから」

「めんどくさい」


きっと、ビルやカーティスのような、物理の強い冒険者なら時間をかければ討伐できるだろう。

ヘクターやスタンリーも、最近は木魔法も使えるようになってきたといっていたし、あの棘をうまくいなしてどうにか対処できる。

けれども、効率を考えるなら複数人で挑むべきだ。

あの攻撃は距離を取らされる。


正直にそう言うと、それを聞いた冒険者は乾いた笑いを漏らした。

「はは、そうか。やっぱりプラーテンス王国は段違いなんだな」


実際には、魔塔の研究者たちも対処できるだろうし、ゲビルゲのヴェヒターたちも鍛えているので迎え撃つことはできるだろう。

しかし、説明がめんどくさくなったコーディは「訓練すれば、パーティなら誰でも倒せるようになりますよ」と適当に流した。



読了ありがとうございました。

続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇ もしよろしければ、ほかの作品もご覧ください。 ◇◆

【これは勇者の剣です!】
勇者の剣を引っこ抜いたはずの勇者が、魔王を探して旅をする話(間違ってはいない)。
可愛いヒロインも登場します!
完結まで執筆済み、毎日連載しています。

【サーチング・サーガ(竜の巣に乗り込んだ娘は謝罪の旅に出た・連載版)】
「竜の巣に乗り込んだ娘は謝罪の旅に出た」の連載版はじめました。
ハイテンション系コメディに、短編最後にチラッと出ていた冒険とラブコメをぶっこみました。
完結しました。

【チート級の不可思議な力を手に入れた女子高生による、破蕾系学園生活。】
恋愛もちょろっとある和風ローファンタジーの学園もの
女子高生が弥魔術師(やまじゅつし)の卵になる話。
10万字超えで完結済み。

■作品一覧はこちら■
― 新着の感想 ―
プラーテンス王国民「風評被害が酷い(一部を除く)」
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ