177 魔法青年は他国の冒険者に会う
よろしくお願いいたします。
コーディは、いったんギユメットたちとともに滞在予定の都市のひとつへ向かった。
どこの国でも、地方の村は閉鎖的なことが多い。
まずは村長に話を通すために、上司ともいえる領地の貴族からの一筆を貰った方が良いと考えたのだ。
二手に分かれた後、コーディたちは比較的大きな街に到着した。
もう片方のチームのトップには、オノレ・ラカンが立った。
彼は帝国の伯爵位を持っているのでかなり爵位も高いし、防衛という意味ではとても使いやすい土魔法に長けている。
「向こうも着いたらしい。対応はこちらと似たようなモノらしいな。かなり丁重に持て成されたと書かれている。さすがに晩餐会はなくて少し豪華な夕食会になったそうだが」
「こちらで晩餐会を開こうと言い出したのには驚きましたよ」
ギユメットの報告に答えたのは、こちらのチームに入ったオーバン・ルフェだ。
ちなみに、ギユメットは晩餐会の提案を秒で却下した。
ギユメットは、
「歓待は必要ない。兵士を十分に用意できないほどに財政が厳しいのは承知しているからな。清潔な部屋と食事を用意してもらえるだけで助かる」
と相手をいたわった。
本人にそういうつもりは一切ないようだったが、貧乏人が無理をするな、と暗に伝えてしまった。
魔塔にぶらさがるつもりだったアルピナ皇国についての話を聞いたギユメットは、どうやらこの国の経済状況が厳しくて人を雇えないらしいと結論付けたようだ。
そして、彼らはそれを違うとも言えない。
人が足りないという問題も、金さえあればある程度は解決できるはずだからだ。
それができずに助けを求めたのだから、違うと言えば前提が覆ってしまう。
盛大に歓迎して懐柔するつもりだったのだろう貴族は、ギユメットが濁すことなくはっきりと言い切ってしまったために否と言えず、ご配慮感謝します、とひきつった笑顔で引いていった。
ギユメットは、さもありなん、と満足そうにうなずいた。
ルフェの腹筋が頑張っていた。
天然は強い。
「こちら、シュルフト村の村長への手紙です。こちらの印章を押してありますので、村を封鎖しているとしても入れるでしょう」
色々と諦めたのか、気分を害したのか、次の日になってから封筒を持ってきたのは迎え入れのときに出てきた貴族ではなく、執事らしい男性だった。
「わかった。助かる。タルコット、これを持って村に向かってくれ。冒険者たちと協力して村の防衛、可能であれば魔獣の撃退までできるのが望ましい。我々は、こちらの防衛にあたっている騎士たちと作戦を話し合って、すぐに前線の方に出ることになると思う。何かあればすぐに複数での通信を。私が答えられなくても、魔塔がすぐに対応してくれるはずだ。まとめの報告は、手紙でしてくれ」
「わかりました」
指示が的確でわかりやすい。
どこぞの貴族も見習った方がいいと思う。
荷物を置いたギユメットたちはすぐに砦へ向かい、コーディは村の方角を目指して空を飛んだ。
シュルフト村は、聞いた通り、山間の谷に細長く広がる村だった。
谷底にあたる部分には川が流れており、深い森に囲まれている。
自然の恵みが豊かそうな村だ。
その分、魔獣の脅威にもさらされやすいだろう。
村は、石を積み上げた防壁で覆われていた。
近くに石切り場でもあるのだろう。
空から見下ろすと、防壁の外側、山を登った所に畑が段々に作られているのも見えた。
いきなり村の中へ下りるのは良くないだろう、と考えたコーディは、川の下流方面にあった街道の近くに降りてから、歩いて村へと向かった。
「何?ベールマー子爵からの紹介状だと?」
このあたりを治めている貴族は、昨日会ったベールマー子爵である。
「はい、こちらのシュルフト村の防衛を手伝うために来ました」
門番らしい男は、疑いの目でコーディを見た。
それはそうだろう。
防衛の手伝いという割に一人だし、馬にすら乗っていない。
しかしその男を見て思い当たることのあったコーディは、服の下からタグを取り出した。
「僕は他国出身ですが、冒険者です。そういった経緯もあって、こちらに来たんです」
「どれ……ん?プラーテンス王国だと?そうか!そういうことなら話は変わる。入ってくれ」
思っていたのと違う所で信頼を得た。
結果オーライである。
「この村を切り開いたのが、プラーテンスから来た冒険者だったんだ。その後も、何人かプラーテンスから来たという冒険者がこの村にたどり着いている。現に、オレの爺さんもそうだった」
村に入れてくれた門番は、やはり冒険者だった。
なんとなく、村の兵士というよりは冒険者にありがちな、少し偏った筋肉の付き方だと思っていたらその通りだったのだ。
「そうだったんですか。あぁ、だからあの子爵の対応がちょっと良くないんですね」
「わかるか?そうだ、純粋なアルピナ皇国民ではないものが集まっているし、荒くれものの冒険者が多いっていうんで煙たがられている。今回、一応救援要請はしたが返事すらこなかった」
「選民思想の高い貴族にありがちなタイプですね」
「そう、よくあるやつだな。だがやられる方はたまったもんじゃない。なんなら高い税金だって納めてるっていうのに。金だけ取って放置するなんて、統治者とは言えねぇな」
門番はミックと名乗った。
祖父が名付けてくれたらしく、アルピナ皇国にはあまりないプラーテンス風の発音だ。
「村長!客人だ」
「ミックか。こんなときに客とは、どこから来たんだ?」
「魔塔の研究者で、プラーテンス王国の冒険者だ。領主のところに魔塔の研究者が派遣されて、うちの村にはこの冒険者が来たんだ」
「領主が派遣して寄こしたのか?」
「いえ、どちらかというと魔塔側のリーダーが勝手に決めました」
眉を寄せた村長に向かってコーディが言うと、村長は一転して笑顔になった。
「なるほど、魔塔の主張には文句を言えずに通したというわけだな。手紙は、どうせ上から目線で偉そうに何か書いているだけだ。手紙を渡す必要がなかったということで持って帰ってくれ」
「わかりました」
改めて、コーディは村長と村の護衛をまとめている冒険者たちと顔を合わせた。
最初は懐疑的だった冒険者たちも、コーディの冒険者のタグを見て納得した。
どうやら、この村ではプラーテンス出身の冒険者は神格化されかかっているようだ。
「サンドベアくらいなら一人で倒せるって本当か?」
「サンドベア一体なら、プラーテンスの中堅の冒険者は一人で倒せますね」
「やっぱりか!」
「今は三分の一ほどが上の方で防衛戦をしているから、もう少ししたら交代なんだ。いつから出られそうだ?」
「少し休憩すれば問題ないので、次のときに一緒に出ます」
「そうか、助かる」
まずは一緒に暴走している魔獣を倒しに行こうという。
どうやら、この村にはプラーテンスの脳筋さがどこか引き継がれているらしい。
「このあたりにはたまにソーンタイガーも出るんだ。今のところ群れで襲う魔獣には混ざっていないが、対応できそうか?」
「問題ないと思います。もし出てきたら狼煙で教えてください。すぐに飛んでいきます」
コーディが答えると、村長もうなずいた。
「さすがにソーンタイガーが出たら、村の冒険者たちが半分はやられるだろう。手助けしてもらえると助かる。もし出た場合は、専用に作った三回連続で爆発する赤い狼煙で知らせることになっている」
そのとき、ちょうど窓の外に赤い煙が三つ連なった。
次いで、ポンポンポン!と三回破裂音がした。
「ああいう感じですか」
「あぁ、まさにあれだな」
村長が外を見てそう言った途端、空気が張りつめた。
「待て!あれは森の方だぞ?!本物だ!」
「鐘を鳴らせ!すぐに村の防衛線を張って、残りはあっちに向かうぞ!」
「村長!村の奴らはできるだけ家の中に!」
バタつく彼らを横目に、コーディは外へ出た。
「飛んでいきます。あの狼煙のあたりですね?」
「そうだ。いや待て、飛ぶって――」
ミックの質問を待たずに、コーディは空へ舞い上がった。
村の人たちは、緊急事態で慌てていたはずなのに、一瞬ぽかんと空を見上げていた。
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続きます。