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175 魔法青年は偽装する

新章始まります。

よろしくお願いいたします。



魂の世界から迷いの樹海の自分の身体に戻ってきたコーディは、森と魔力が見える視界をぼんやりと眺めた。


「……あやつらの行き先も、なんとなくわかったな」


六魔駕獣の核にされた者たちは、この世界に戻ってくる者もいれば、別の世界――つまり、異世界に向かった者もいた。

不思議と、コーディにはそれがわかったのである。


人も、魔獣も、動物も、植物も。

個々に大きさや質こそ違うが、結局は似たような魂を持っている。

そして、世界をまたいで循環していく。

その不思議な理解を得たコーディは、精神的なものに似た疲れを感じて目を閉じた。




疲れには睡眠が効く、というのは真理らしい。


一時間も寝ていないはずだが、仮眠から起きたコーディはすっきりとした気分で目が覚めた。

ペルフェクトスの核にされていた者たちの埋葬も済んだので、あとは魔塔に戻るだけだ。


「……あぁ、理論の偽装もせんとな」

ブラックホールという存在は、この世界ではまだ認識されていない。

そもそも、世界が違うためあるかどうかも分からないので説明のしようがないのだ。


コーディが知る限りでは、この大陸においては星に関する軌道など理論や観測結果は存在するが、あまり活発ではない。

魔法があるためかもしれないが、今後はこの世界の宇宙を研究対象にしても面白いかもしれない。


今回の魔法については、五属性すべての魔法を使った攻撃の魔法陣を用意して、一気に発動させたことにした。

どう誤魔化すか、ブラックホールを使うと決めたときからいろいろと考えていたのだ。


ただし、そのままではない。

色々と焦っていたために魔法陣が少し違ったのか、変に作用したらしく魔法が暴走した結果として爆発。

その再現には成功していない。


という方向で押し切ることにしている。


実際、五属性の魔法を同時に放つ攻撃魔法陣を用意して一度に発動させたところで、五つの魔法が発動されるだけで、爆発などはしない。

爆発ということは、火魔法と水魔法か、土魔法のバランスが狂ったと考えられなくもないだろう。

地面が大きくえぐれるほどの勢いだったので、きっとコーディの魔力だけではなくペルフェクトスの魔力も作用した。

色々と試したが、再現性はない。


そういった内容の論文を書くことになる予定だ。



わかる者は、もしかしたらと疑いを持つかもしれない。

それでも、コーディはアイテムボックスを含め、危険すぎる魔法について口外するつもりはない。


魔塔からして、遠隔で魔法を起動させる魔法陣については隠蔽する予定なのだから、そのあたりはうまく誤魔化せるだろう。

場合によっては、遠隔の魔法陣が影響した、ということにしてもいいだろう。



なんにしても、まずはペルフェクトスの影響による魔獣の暴走への対処が先だ。

コーディは、魔塔を目指して空に舞い上がった。





「アルピヌム公国ですか?」

「言ってきたのはあの国だ。アルピナ皇国と連名で、正式に救援要請を出してきた。実際に行ってもらうのはアルピナ皇国だ。他国の冒険者を入れるのは不安があるといって、アルピヌム公国を通じて魔塔に助けを求めてきたらしい」


魔塔に帰ると、レルカンら中央の人たちからアルピナ皇国への出張を頼まれた。

アルピナ皇国は、六魔駕獣への対処のときに、通行を妨げられたのでこちらもあまり良い感じはしない。

そういえば、あの国の冒険者が魔塔からの魔法陣を配布されないなど扱いが良くないので逃げ出したといった話も聞いた気がする。


とはいえ、ごく一部の人が悪いからといって国丸ごと悪いとは言えない。

魔獣の被害に遭うのは、多くが貴族以外の民なのだ。

レルカンによれば、泣きつかれたアルピヌム公国としても、隣国に何かあれば自国に影響する可能性もあり、放置するわけにもいかず連名での要請という形を取ったようだ。


「かしこまりました。その件は、すべての国に伝えていますか?」

「すべての国に?いや……うむ。そうだな。こちらの動きもきちんと伝える必要があるだろう。魔塔として、正式にすべての国の元首にこの動きについて通達しておこう」

コーディに質問されたレルカンは、少し考えてニヤリと悪い顔で笑った。


これくらいの仕返し程度、可愛いものだろう。


以前から何度も魔塔から連絡があり、ほかの国はその情報をもとになんとか対処するべく準備を整えていた。

そして現状各国内でどうにか抑え込んでいるというときに、「足りません」という国があったらどうなるか。


例えば、国力の小さな国、迷いの樹海のすぐ南にあるヴォルガルズ皇国などであれば、人口が少ないため手が足りないというのもわかる。

実際には、ヴォルガルズ皇国は小さい国だからこそ兵士を鍛えていて、冒険者の補助こそあるが自国で対応できているようだ。


それに対して、ヴォルガルズ皇国の五倍に及ぶ国土を持つアルピナ皇国が救援要請を出す。

ゲビルゲの山岳地帯のような険しい地域ではなく、ロスシルディアナ帝国の北部のような砂漠でもない、比較的穏やかな気候の土地だ。

国力はあるはずである。

準備をする時間だってあった。


にもかかわらず、力を貸すという他国の冒険者を拒否した挙句の魔塔への救援要請だ。

最初から、魔塔にぶら下がるつもりだったとしか思えない。


罪のない人のためにも対処は必要だからコーディは派遣されるつもりだが、「こいつら準備してなかった能無しなうえに国力も弱くて、しかも選り好みしてやがるんだぜ」と声を大にして言うくらいどうということはないだろう。


嘘は言っていない。

事実である。


もっと言えば、戦力の派遣に対する対価の話も出ていないので、無料(ただ)働きさせるつもりかもしれない。

大陸中の国に「アルピヌム公国を巻き込んでまでアルピナ皇国が要請して、魔塔から人が派遣された」と知られて、踏み倒せるものだろうか。


初めはレルカンと一緒に難しい顔をしていた研究者たちも、いい笑顔でうなずいていた。





アルピナ皇国へ向かうにあたり、レルカンから派遣される人たちにいくつか指示があった。


まず、要請されたのは魔獣に対処するための戦力ということなので、期間は暴走が収まるまでの一週間程度。

コルニキュラータ首長国で暴れたマーニャの影響はとうに落ち着いているので、ペルフェクトスの影響が大きいだろう北部を中心とする。

暴走した魔獣を退治するだけで、それ以外は手出し無用。

万が一、無理やり別の仕事をさせられそうなときはすぐに連絡すること。

帰らせてもらえない場合や、妙な要求をされた場合も同様に連絡。


もちろん、魔塔からアルピナ皇国にも公式に通達を行った。


戦力となる研究者を一週間に限定して派遣すること。

暴走した魔獣への対処のみが仕事であること。

滞在する研究者の生活を保障すること。

正式に契約書を作り、魔塔とアルピナ皇国として魔法契約を結ぶこと。

派遣する人数と期間から計算し、良心的な報酬額を提示するので支払うこと。


初めは契約書を作ることをアルピナ皇国に渋られたらしいが、「万が一、魔獣退治のために研究者が亡くなることがあってもアルピナ皇国に責任を求めない」という一文を付け足したらなんとか納得したらしい。


とことん、他人まかせな国である。



そういうわけで、コーディは数人の研究者たちとともにアルピナ皇国へ向かった。



読了ありがとうございました。

続きます。

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