171 魔法青年と全属性の六魔駕獣2
よろしくお願いいたします。
「それは効かない。ほかのやつも似たようなことをしてたんだ」
すい、と軌道を逸らしながら、コーディはトンファーを手に持ってペルフェクトスの顔の前を飛び越した。
「グギィ!!」
鼻先を思いきり弾きながら飛び去ったので、こちらに口を開けようとしていたペルフェクトスは口をガチン!と音を鳴らして合わせた。
しかし、ペルフェクトスは落ちることなくそのまま空中に留まった。
風魔法を使っているらしい。
『腹の傷がないぞ!』
『背中の羽も元に戻ってるわ』
『くっそ、やり直しかよ!』
通信魔道具からは、下からペルフェクトスを確認した人たちの声が聞こえた。
さっと地上に降りたペルフェクトスは、今度は全身に火を纏った。
「水魔法を!」
言いながら、コーディは氷のつららをいくつも作ってペルフェクトスに撃ち込んだ。
ただの氷ではない。
ドライアイスである。
一気に二酸化炭素が増えることで、刺さった部分から炎が消えていく。
すぐに昇華するのでドライアイスの杭による傷は大したことはないようだが、ちくちくとダメージを重ねる。
それに気づいたペルフェクトスは火魔法を追加しようとしたようだが、コーディもドライアイスの杭をどんどん追加している。
さらに、地上の魔法使いたちも水魔法をぶつけてくるので、炎はむしろ減っていく。
残った炎をコーディにぶつけようとするも避けられ、ついでとばかりに周りに放った炎も霧散の魔法陣で散らされていった。
炎は効かないと理解したのだろう、ペルフェクトスはゆるりと空気に溶けた。
『消えた?!』
『おおぉ!!次から次へと!』
研究者たちはある意味で冷静らしい。
間髪を容れずにコーディへと襲い掛かってきたので、土魔法で迎えた。
土の壁で風による攻撃をいなしながら、魔力的に存在がわかる部分を土魔法で石に変えていく。
ただ、全身を化石にできたリーベルタスよりもずっと大きいためか、右側の後ろ足を石にするだけで逃げられてしまった。
即座にペルフェクトスは地上を急襲し、その勢いで幾人かの冒険者が吹っ飛ぶのが見えた。
コーディも追いかけたが、ペルフェクトスはそのまま地面に溶けた。
「『さらに土魔法とは!素晴らしい』」
『感心してる場合か!逃げろ!』
『木魔法で地面を覆って、霧散の魔法陣を構えろ!』
研究者たちはもちろん、冒険者たちもコーディが調べたこの世界における魔法の五行思想をきっちり学んでいるらしく、対策に漏れがない。
コーディ自身も、彼らにペルフェクトスの攻撃がいかないよう地に足をつけて魔法を準備する。
地下茎を持つ植物は、刈っても刈っても何度も生えてくるし、根を引き抜いたつもりでも千切れた先の根が生きていて、また新芽を出してくる。
特にしつこいのはスギナ。
そんなに背の高くない草なのに、地下茎が一メートルほど深くまで伸びることがあって、それはもう邪魔な雑草なのだ。
地下に隠れるペルフェクトスをこちらから捕まえるのに、深くまで地下茎を伸ばすスギナはうってつけである。
魔力を駄々洩れにしたコーディを特に狙うことはわかっているので、ペルフェクトスの魔力を感じることに集中した。
地中を通り、近づいては離れる膨大な魔力。
研究者たちの方へも近づいていたが、魔力量の差が歴然としているためか、奴はコーディに狙いを定めていた。
「……よし」
あと数メートルの所まで迫ったときに、すでに広げていた地下茎を一気に広げ、ペルフェクトスを絡めとるようにすぼめていった。
魔法だからこそできる、地下茎による巨大な罠だ。
さながら、地中の投網漁である。
包囲されたことに気づいたらしいペルフェクトスは、網の隙間から逃れようとした。
しかしその隙間には魔法で壁を作っている。
それも木魔法で、根と根の間に膜を張ったのだ。
しばらく地下茎と膜で作られた袋の中で暴れていたペルフェクトスだが、コーディが引っ張り出そうとしたところで魔法を変えた。
「っち。器用な奴め」
ペルフェクトスのいたあたりから、突然巨大な木が生えたのである。
その近くに、いくつも木が生えた。
「『今度は木魔法か!?』」
『まて、木魔法って木になれる魔法だったっけ?』
『なにそれ気になる。木だけに』
『ダジャレ言ってる場合かよ!樹海に紛れたら見つけられねぇぞ!』
ぎゃいぎゃいと言いながら、彼らは今度は火魔法を準備し、炎の壁を作り上げた。
その間にも、ペルフェクトスはするするとあちこちの木へと移っていく。
全身が魔力でできている六魔駕獣ならではの擬態方法だ。
事前にわかっていなければ見逃してしまうだろう。
うっすらと広がったと思ったら一ヶ所に集約していく。
その近くでは、魔塔の研究者たちが火魔法で自分たちの周りを取り囲んでいた。
森林火災につながりかねない火力だが、大陸ごと滅ぶよりはよほどいいだろう。
しかし、嫌な予感がしたコーディは急いでそちらに飛んだ。
木になっていたペルフェクトスは、一瞬だけ姿を現した。
そしてすぐ、大量の水になって魔塔の研究者たちを覆う火魔法へと襲い掛かった。
「『うわっ?!水?!』」
「『喰われるぞ!』」
「『風で散らせっ!!』」
コーディの目には、水の化け物が研究者たちを飲みこもうとするのが見えた。
「っ、凍れ!!」
とっさの判断だったので、少し魔力を多めに使ってしまった。
口を大きく開けた状態で凍ったペルフェクトスを前にして、さすがの研究者たちも表情をひきつらせた。
「『無理だろ、これ』」
「『とりあえず、助かった、のか?』」
「風魔法で攻撃して崩してください!」
そう言いながら、コーディは凍らせた状態を保ったまま、風魔法によるかまいたちをぶつけて表面を削った。
「『そうか、氷も水の変化形だから水なんだな』」
「『このまま研究するわけにはいかないか』」
「『大昔の化け物だから貴重だが、それで命を落としたら研究どころじゃないぞ』」
「『確かに』」
「『仕方ない、諦める』」
なんやかんやと言いながら、研究者たちは凍ったペルフェクトスを風魔法で攻撃しだした。
表面を削ったり、一ヶ所を攻撃し続けてヒビを入れたり、とそれぞれだが、確実にダメージを与えていく。
当然、ペルフェクトスも逃れようとしていたのだが、そこはコーディのイメージが勝ち、下手に動こうとすると氷の身体が崩れていく。
冒険者たちも合流して一気に攻撃し、氷のあちこちにヒビが入っていった。
それでも、ペルフェクトスが戦意を喪失することはなく、完全にこちらを敵として見ていた。
一瞬でも気が緩んだ瞬間、コーディに襲い掛かってくるだろう。
ダメージが蓄積している分、魔力を減らしているのだ。
餌が必要になる。
「そろそろ、鉄を打ち込みます!」
「『分かった!撤収!!!』」
「『下がるぞ!』」
「『ああ、3分、本気で逃げる』」
「『コーディ、無茶するなよ!』」
「はい!」
答えたコーディは、凍ってボロボロになってなお今にも襲い掛かりそうなペルフェクトスを睨みつけながら、ポケットに入れていた鉄の塊を取り出した。
およそ10センチメートルの鉄の塊だ。
それをペルフェクトスの内部に打ち込む。
彼らには、鉄の塊を使って爆発させると説明した。
しかし、コーディが取る作戦は実は逆だ。
爆発ではなく、原子核をも潰しながら凝縮させる。
この鉄塊を、一気に0.00000001ミリメートル以下へ。
いわゆるシュワルツシルト半径。
つまり、超小型ブラックホールである。
読了ありがとうございました。
続きます。
申し訳ありませんが、8月中は更新を週一回にさせていただきます。
毎週木曜日の予定ですが、ずれる場合は活動報告にてお伝えいたします。