169 魔法青年は蹂躙を見る
よろしくお願いいたします。
お食事系のグロい表現があります。
苦手な方は「◆◇◆◇◆◇」のところまで飛ばしてください。
エアドラゴンは、四体やってきた。
一方のペルフェクトスは、エアドラゴンを観察するように見ながらじっと待っている。
そこには恐れもいら立ちもない。
ただ、餌を見る目でエアドラゴンを見上げていた。
まず仕掛けたのはエアドラゴンだ。
四方向からペルフェクトスに向かって細かく軌道を変えながら下降してくる。
風を操っているのだろう、ぶれているのにものすごい速度だ。
コーディはペルフェクトスから百メートルほど離れたところにいるのだが、そこまでエアドラゴンが下降するときに発生した風がぶつかってきた。
目を細めて風をいなした瞬間。
「ギュアッ……」
ペルフェクトスの左斜め前から飛び込んできたエアドラゴンが、ペルフェクトスに噛みつかれて捕まった。
エアドラゴンは風魔法で攻撃しながら突っ込んできたので、普通ならガードするなり避けるなりするところである。
しかし、ペルフェクトスは一歩も動かず、ただ素早く首を伸ばし、急旋回して次の攻撃に移ろうとしたエアドラゴンをその牙で捕らえたのだ。
さすがにほかの魔獣より大きいためだろう、ペルフェクトスは噛みついたエアドラゴンを地面におろし、前足でその身体を押さえた。
空に舞い上がった三体のエアドラゴンは、チャンスとばかりにもう一度急降下してきた。
ぶちり、と押さえ込んだ餌の首を噛みちぎったペルフェクトスは、血まみれの口を大きく開いた。
「ゴオオッ」
ほんの短い遠吠え。
たったそれだけで、ペルフェクトスは魔法を行使した。
大きな岩がエアドラゴンに向かう。
エアドラゴンは当然それを避けて飛ぼうとしたが、岩は軌道を変えた。
二体は岩にぶつかったものの少し落ちた程度で体勢を整えてホバリングし、一体は避けきったものの軌道が悪く地面に落ちた。
そのとたん、樹海がエアドラゴンたちに牙をむいた。
目にもとまらぬ速さで蔓が伸び、三体のエアドラゴンを捕らえたのである。
「キュォォオ!」
「キュゥゥアア!」
「キュィイッ!」
羽ごと蔓に巻かれてしまったエアドラゴンは、身をよじったが抜けられない。
さらに蔦だけではなく複数の木が伸びて、幹でエアドラゴンを閉じ込めていった。
その間に、ペルフェクトスは噛みちぎったエアドラゴンをがぶがぶと喰った。
風魔法を自在に操るエアドラゴンとはいえ、その身体は普通に実体を持つ。
だから、捕らえられてしまえば動けなくなる。
「キュアアア!」
「キュアアアッ!」
「キュウァア!」
しかし三体は諦めず、捕まったままペルフェクトスに向かって魔法を放った。
それらの攻撃に対して、ペルフェクトスは尻尾を振って風魔法をぶつけ、相殺した。
エアドラゴンが魔法を放ち、ペルフェクトスが相殺する。
魔法の余波で、かろうじて残っていた木々がなぎ倒されていく。
全力とも思えない反撃の合間に、ペルフェクトスはエアドラゴン一体を引きちぎっては飲みこみ、喰い切った。
「エアドラゴンは、ペルフェクトスの餌になりました」
コーディは、通信の魔道具に向かってそう言った。
目線は、食事を続けるペルフェクトスに定めたままだ。
『そんな……』
『俺たちからは四体見えたんだが、全部か?』
『待て、四体ものエアドラゴンを?』
『こっちからは、少しだけだが木が伸びてエアドラゴンを捕らえたのが見えた』
「噛みついて捕らえたのが一体、あとの三体は木魔法を使ってつかまえていました」
魔道具の向こうで、息をのむ音が聞こえた。
◆◇◆◇◆◇
四体のエアドラゴンが襲い掛かったので、少しはペルフェクトスに疲弊が見られるか、怪我くらいはさせられると予想したのだが、期待は裏切られた。
エアドラゴンは、ペルフェクトスの餌になってしまった。
「こちらの配置はどうですか?」
『“撲切”は北側だ』
『“トリリアント”は西側方面』
『“明星の下”と“赤”は東に並んでいる』
“明星の下”と“赤”は、先日樹海入りしたプラーテンスの冒険者たちだ。
二人ずつのパーティなので、今は組んで四人で動いている。
『魔塔からのグループはそろそろ南側に着く』
『到着したら教えてくれ。コーディ!合図をしたら、拘束用の魔法陣を、ペルフェクトスの足もとに敷けるか?』
「やってみます」
ペルフェクトスは、全部の属性を使えると想定していた。
そのため、複数の属性を使った拘束を試みることになっている。
対策されることも考えて、何種類か用意している。
封印の魔法陣を破壊するのにどれだけの魔力を使ったのか、ペルフェクトスはエアドラゴン一体を喰っても魔力が大きく回復している様子はない。
ほかの六魔駕獣よりもかなり多くの魔力を使えるようだ。
ペルフェクトスは、ほかの魔獣が動くに動けずにいるのも、コーディたち魔力の少ない(と偽装している)人間たちがうろちょろしているのも、全く気にした様子はなかった。
悠々と二体目の食事を終えるころに、コーディに通信が入った。
『魔塔チーム、到着した!』
『エアドラゴンはまだ残っているか?!』
危機であることを理解してなお探求心が抑えられない研究者に、コーディは思わず頬を緩めた。
「ええ。まだ二体目を喰い終わるところなので、あと二体は残っています」
『よし!急いでペルフェクトスを倒してエアドラゴンを確保するぞ!』
『『おおぉお!!!』』
どうやら、魔塔チームの士気は高いようだ。
『冒険者側の霧散の魔法陣やほかの魔法陣の設置は完了した!』
『エアドラゴン、残ってたらこちらも素材が欲しいです』
『肉、美味しいのかな』
冒険者の方は、緊張をほぐすためのセリフが飛び出した。
こちらも、先ほどの衝撃から立ち直って冷静に待機している。
「では、まずは土と水と木の拘束魔法陣を敷きます」
『頼んだ。気をつけろよ』
「はい!」
まずは、ペルフェクトスに近づかなくてはならない。
しかし魔力を極力抑えたコーディですら、すでにペルフェクトスに気づかれているので、気取られないようにというのは難しい。
次に考えられるのは、気を散らした隙に近づくこと。
これなら、まだ何とかなりそうだ。
遠隔で魔法を放つ魔法陣をあちこちに設置してもらったので、そこから魔法を飛ばすだけでも敵を絞り切れなくなるはずだ。
「遠隔攻撃の魔法陣から、できれば複数の魔法を放ってください。僕のことは気にせず」
『属性が複数でいいのか?』
「はい。対処するにも、様々な種類が混ざったものの方が大変なはずです」
『回数は?』
「気を逸らしたいので、まばらにあちこちから攻撃してもらうのが理想です」
『では回数よりも時間か。何分くらいだ?三分程度なら余裕があると思う』
「一分でお願いします。それ以上は、逆に対処される可能性があります」
『それもそうか。遠隔攻撃の魔法陣を破壊される恐れもあるな。わかった。合図を頼む。こちらは魔法だけ準備する。冒険者の三チームもそれでいけるか?』
『問題ない』
『大丈夫だ』
『一分なら、交代でなんとかできます』
「ありがとうございます!」
準備を整えたコーディは、軽く息を吐いた。
「今です!」
『泥沼』
『風刃』
『火の雨』
『いけっ!』
ペルフェクトスの足もとが突然泥沼になり足が沈んだ。
そこにかまいたちが攻撃を仕掛け、上からは火の玉が降ってくる。
石の槍のようなものは、呪文なしで魔法を行使した研究者が使った魔法だろう。
ペルフェクトスは魔法の煙幕に包まれたものの、この程度ではダメージはあまりないらしい。
火の雨だけを水魔法で相殺しながら、周りを確かめるために首をあげてきょろきょろと見渡した。
それだけで、充分だった。
コーディは、ペルフェクトスが次に来た大きな火の玉を目視したのを視界の端で捉えながら、魔力の隠蔽を重ねて風魔法で補助しながらペルフェクトスの腹の下を駆け抜けた。
狙いは、前足の近くの泥になっていない場所である。
わざと左前足に軽い石魔法の攻撃を入れて、右前足への注意がない状態で地についたままのときにその紙を土に沈めた。
魔法陣を埋めた上から土を固めたので、ペルフェクトスが踏んでもそうそう壊れないだろう。
そうでなくとも、全長五十メートルにもなるペルフェクトスからすれば、四十センチ四方の紙など、小さすぎて気にもしないかもしれない。
数秒もかけずにすべて終わらせたコーディは、もう一度空に舞い上がった。
読了ありがとうございました。
続きます。