166 魔法青年と冒険者たち
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次の日、グループ通話の魔道具を5つと、手紙転送の魔道具、それから40センチサイズにまでコンパクト化した全属性魔法霧散の魔法陣に、治療の魔法陣などいくつか冒険者たちに渡すものを持って、コーディは魔塔から飛び立った。
プラーテンス王国の冒険者たちは、ズマッリ王国と接している迷いの樹海の南側から北上すると聞いている。
コーディは、魔塔から南方向へ行く形だ。
今のところ、樹海入りするパーティは2つと聞いているが、増える可能性もあるので通話の魔道具は多めに持った。
彼らには、万が一ペルフェクトスが復活したら協力してもらう必要があるので、大盤振る舞いである。
連携をとるにも、グループで通話できるのは優位だ。
ブリンクで話したときには「入り口で引き返すかも」なんて言っていたが、彼らの実力でそれはないだろう。
眼下の樹海で魔獣が闊歩しているのを尻目に、コーディはまっすぐ南を目指した。
果たして、彼らは樹海に入って5キロほどのあたりで魔獣と対峙していた。
ロックベアとバーニングウォルフの両方を、2つのパーティがそれぞれ相手にしているようだ。
どちらも見覚えのある人たちである。
「足止めするぞ!」
短剣を持った魔法使いらしい男性が、ロックベアの足もとから蔓を伸ばして絡めとった。
「叩くぜ!」
それを聞いた、ロックベアと接近していた二人が下がった。
彼らの後ろから跳んだ筋骨隆々とした男性は、柄の長いハンマーを振りかぶっていた。
持ち手に近い方の先端には、短剣サイズのナイフがついている。
もしかして、逆向きに持ったら槍として使えるのだろうか。
「うらぁっ!!」
ぐしゃっ!と鈍い音がした。
一方のバーニングウォルフ5体と対峙しているパーティは3人組。
「アルマ!集める」
チャドが短剣を持ち、バーニングウォルフの群れを逆側から攻撃してまとめていた。
正面からは、ビルが長剣でバーニングウォルフの火魔法を切って捨てている。
「沈めるわ!『泥沼』!」
アルマの魔法によって、バーニングウォルフ達の足もとが一気に泥沼になり、踏ん張れずに沈んでいった。
上がってこようともがくところへ、ビルは長剣でとどめを刺した。
チャドは、低空を飛び、動きの鈍いバーニングウォルフの頭に短剣を叩き込んでいた。
そしてすべてのバーニングウォルフが、泥沼に倒れ込んだ。
無駄な動きのない、まごうことなき狩りである。
彼らは冒険者の中でも技術や知識を磨き続けていた人たちだ。
迷いの樹海にいる魔獣くらいは、連携すれば何も問題ないのだろう。
素材をはぎ取ろうとしているのを見て、コーディは上空から声をかけた。
「ビルさん!チャドさん!アルマさん!」
「ん?どこ……って空か。こっちだ、コーディ!」
「久しぶり」
「様子を見に来てくれたの?」
パーティ・トリリアントの三人だ。
ブリンクで言っていた通り、もう一つのパーティとともに樹海にやってきたらしい。
「個人的にじゃなくて、魔塔のお使いに来たんです。とりあえず、剥ぎ取りを先にしますか?」
「あ、そうね。少し待ってて」
ビルたちがそれぞれバーニングウォルフの牙を剥ぎ取っている間に、ロックベアを倒したパーティの方が先に剥ぎ取りを終えた。
ロックベアの皮は、割と貴重品なので傷がなければ価値が高くなる。
しかし、樹海の奥に行くつもりならただの荷物になる。
だから、彼らは素材を気にせずに切って叩き潰すという方法をとったようだ。
爪くらいなら小さいので、持ち歩くつもりで剝ぎ取っていた。
残りの遺体は、埋めて終わりだ。
「コーディ、久しぶり……というほどでもないか。魔塔からの使いだって?」
声をかけてきたのは、もう一つのパーティ『撲切』のリーダーであるカーティスだ。
彼の槍ハンマーは独特で、パーティ名の由来らしい。
「はい。樹海に封印されている六魔駕獣が、最悪数日で封印を破壊して出てくる可能性があるんです。そのとき、共闘をお願いしたくて。そのための魔道具をいくつか」
カーティスはそれを聞いて腕を組み、パーティメンバーを振り返った。
「おい、超デカい魔獣が復活するってよ」
「あの狼みたいなやつか?」
質問したのは、長剣使いのトビーだ。背が高く、斥候も兼ねているという。
「今まで見たような魔獣ではないらしくて。その、いくつかの魔獣とかを混ぜ合わせたような、文字通り化け物だという記述が見つかりました」
「あの巨大狼よりヤバいってことね?あたしらもそいつと戦えるのかしら」
そう言ったクローイは、トビーと並んで前衛として双剣を使う。小柄な女性だ。
次に口を開いたのは、魔法使いのマデリン。
後衛もするが前にも出るタイプの土魔法使いで、最近水や火も使えるようになったようだ。
「でも、魔塔の人たちも出てくるなら、あたしたちよりずっと強いんじゃない?だったら、樹海の魔獣掃除担当になるんじゃないかな」
『撲切』は、ほぼ全員が前衛というなかなか火力重視なパーティなのだ。
「そのときどこにいるかによると思います。いつ復活するかは予想がつきません。明日かもしれないし、十年後かもしれません。ただ、ちょっと今様子がおかしいので、出ようと準備をしているという意見で一致しています」
「様子がおかしい?」
カーティスが首をかしげた。
「はい。少し前まで、かなりの範囲に魔力の乱れがあったんです。ペルフェクトスが、封印された場所から魔法を出そうとしていたんですね。それが、止まりました。奥へ進んでも、魔力は穏やかなままです」
「それは……」
クローイが眉をひそめた。
「魔力を温存して機会を待ってるみたいに感じるわね」
マデリンが言ったため、コーディは首を縦に振った。
「魔塔でも、そういう意見が多いんです」
そこへ、ビルとチャド、アルマが合流した。
遺体は沼に沈めてから土を固めたようだ。
「でも、六魔駕獣にとっては魔力の多いやつって餌なんだろ?」
「そうですね」
コーディが答えると、ビルは続けて言った。
「魔塔の研究者なんか、ごちそうに見えるんじゃないか?だったら、そっちに意識が行っている間に俺らみたいなのが前に出てもいいと思うが」
確かに、それも作戦としてありだろう。
「だから、共闘をお願いしたくて。これは、改良した通信の魔道具です。複数人で同時に会話できるので、挟み撃ちなんかに便利です」
「えっ?!最新の魔道具じゃない」
受け取ったアルマは、石に刻まれた魔法陣を食い入るように見つめた。
「こっちは、改良した全属性の魔法を霧散する魔法陣です。携帯するには少し大きいですが、とりあえず使えるので。こっちは治療の魔法陣。あと、手紙転送の魔法陣もそれぞれお渡しします」
「おぉ。え?全属性の霧散だと?まだ国にも渡してないやつじゃないか?」
カーティスは、目を白黒させている。
「全属性の霧散の魔法陣は、もう少し改良する予定です。多分、20センチくらいまでは縮小できるんじゃないですかね。でき上がったら、手紙転送でお渡ししますから」
「……なんか、数日かからずできそうな言い方だな」
チャドが魔法陣を広げながら言った。
「早ければ、明日にでもでき上がっているかも」
「うわぁ。魔塔って本当に変態の集まりなのね」
マデリンが思わずと言った風に口に出した。
魔塔の研究者たちが、修羅の人たちに変態認定されてしまった。
読了ありがとうございました。
続きます。




