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153 魔法青年は再会する

よろしくお願いいたします。



「元貴族の囚人たちについては、ほとんどが森の外での駆逐作戦要員となっています。森に入っているのはごく一部ですね。彼らはレベルの合う冒険者と組んでいます。一方の貴族のパーティと、高ランクの冒険者パーティはほとんどが森に入っています。ここ3日は、大きな被害は出ていません」

コーディは、報告した男性を思わず見た。

きっと、ヘクターやスタンリーもその中にいるのだろう。

大きな被害を出していないのはさすがである。


「ヴィーロックスは、人をあまり襲わないのでしょうか」

コーディが聞くと、ルウェリン公爵は首を左右に振った。

「いいや、数日に一度は必ず人を襲う。これまでに、こちらにもそれなりに被害が出た。しかし、このところは襲われていないんだ」


「なぜでしょう?六魔駕獣には魔力が必要なはずなんですが」

「それが、あの狼は色々と学習してな。こちら側にはあまり来なくなった。最近大きく被害が出ているのは、レイシア商民国の兵士とあちらの冒険者たちだ」

「あぁ、プラーテンス側の人たちは、抵抗するどころかヴィーロックスに怪我を負わせるくらいには攻撃しますもんね」

「そういうことだ」


どうやら、ヴィーロックスはレイシア商民国を重点的に狙っているらしい。

眷属のこともあり、夜には森に戻り、また朝になったら活動を始めるという。

そういえば、昨晩姿を見たのも、少しレイシア商民国側に寄った場所だった。


「ヴィーロックスと、戦って戻った人はいますか?」

「あぁ。奴は深追いをしない。それなりの人数が巨大狼を見ているぞ。実際に戦ったとなると、少し数は減るが」

そのあたりは、ただの野生動物とは違うのだろう。


コーディはうなずいた。

「その話を伺いたいです」

「わかった。我々が聞いた話をまとめたものはこれだ。今、彼らは森に出ているはずだから、戻ったら話す場を整えよう」

「ありがとうございます」


まとめられた報告書の概要はこうだ。


・巨大狼は、体長20メートルほどで、全体的に黒っぽい

・木魔法を使い、足元に突然蔦などで作られた罠が出現することがあり、準備もなく戦うのは困難を極める

・大きさのわりに動きが素早く、跳躍力も大きい

・魔法を使わなくても対処は厳しい

・眷属は火魔法を使うウォルフ系で、連携を取って挑んでくるため複数パーティでの対処が必要

・ウォルフ系に足止めされているときにヴィーロックスがやってくることもあるため、ウォルフは即討伐が望ましい

・あまりに全力で押し返すとすべてレイシア商民国に流れ込みそうなので、抑え気味にする必要がある

・喰われた人は、ほとんどが丸呑みにされているようだ

・いくつか遺体が見つかった

・ベア系はあまり逃げておらず、魔獣の森に多く留まっている

・別件で、王都の近くでロックドラゴンの目撃情報が増えた


考えることが多すぎる。


とりあえず、ヴィーロックスはその名が示す通り、動きの速い狼らしい。そして、火魔法を使うウォルフ系の魔獣を従えて群れで襲ってくる。

木魔法を使うということなので、相克関係にある火で討伐することが望ましい。

これに関しては、少し考えがあるので理論を形にしたいと思う。


喰われた人に関しては、多分これまでと同じだろう。

魔力を奪われて、その後遺体だけ捨てられたと考えられる。

眷属たちが遺体を喰う可能性もあるので、見つかった遺体は幸運だった。


レイシア商民国の方に魔獣が逃げ込むのはあまり良くない。

プラーテンス王国なら冒険者なり貴族なりが対処できるので、必要であれば向こう側に回り込んで追い立てる必要もあるだろう。

森にいるそのほかの魔獣については、ブリンクにいる戦力に頼ることになる。


そして、ロックドラゴンだ。

これはなかなか判断が難しい。


ドラゴン系の魔獣は、主として魔獣を喰う魔獣なのだ。

人が襲われることもあるが、ドラゴンが好むのは魔獣。

ただし、人を敵とみなしているのは普通の魔獣と同じなので、町が滅ぼされたという例もある。


姿が見られたロックドラゴンは、王都の近くにある初心者用の森を越えたさらに向こうにある岩山を拠点としている魔獣だと思われる。

例の新興宗教が誘導したスタンピードの際にチラッと見かけた程度だったが、かなりの魔力を保持した魔獣だった。

しかし、ロックドラゴンも、六魔駕獣には敵わないだろう。


魔力量が違うだけではなく、身体の大きさもかなり違う。

ロックドラゴンは10メートルに届かないくらい。一方の六魔駕獣が15~20メートルという大きさだ。


もしかすると、六魔駕獣はドラゴン系の魔獣にも負けないモノとして作ったのだろうか。

それにしては扱いきれていないので、いずれにしても実験は上手くいかなかったのだろう。


「この、ロックドラゴンに対処する戦力は問題ないのですか?」

まずは気になったことを、コーディは質問した。

王都には人が多い。当然だが王族もいるので、守りが必要なはずだ。


「あぁ、ロックドラゴンのことか。少し暴走ぎみだそうだが、これはあまり心配いらない。魔獣を専門にしている騎士団が残っているし、土魔法の霧散の魔法陣があるからな。すでに数度戦闘になっているそうだが、大した被害も出さずに追い返していると聞いた。倒してしまうと、魔獣の分布が変わる可能性があるので、様子を見ているそうだ」

「そうなんですね」


さすがというか、きっちり攻撃を防いで対応しているようだ。

騎士団の中でも魔獣を専門にしている部隊が対処しているなら、問題もないだろう。

なにせ、プラーテンス王国なのだから。

それにロックドラゴンがうろつくのも、ヴィーロックスの影響が関係していると予想できる。

ヴィーロックスを討伐できれば、ロックドラゴンも少しは落ち着くはずである。


となると、ヴィーロックスと眷属の狼型魔獣を倒す作戦が重要になってくる。

申し訳ないがレイシア商民国の戦力は期待できないので、プラーテンス王国で完結させた方がいい。

国際的なあれこれを考えるなら向こうにも協力してほしいところだが、そんな余裕はどこにもないのだ。




夕方になって、魔獣討伐に出ていた冒険者や貴族たちがブリンクに戻ってきた。

今日も亡くなった人はいなかったらしいが、ケガ人は医療施設へと向かっていた。

コーディは一度宿に戻っていたので、改めてヴィーロックスと戦った人たちから話を聞くため領主館へと歩いていた。


「あっ?!コゥ!コゥだ!!」

斜め後ろから叫ぶ声が聞こえて、コーディは振り向いた。

「お。ヘクターにスタンリー。久しぶり。ケガはない?」


走ってくるヘクターを追いかけて、スタンリーもコーディのところへ駆けてきた。

「久しぶり!ちょっと切り傷がある程度だから、魔法陣があれば明日には治ってるはず!ってか、いつ来たんだ?魔獣の森のことで国に呼び出された感じ?それか、あの巨大狼のこと?なんか巨大な魔獣をなんたらかんたらって手紙で読んだけど、それ関係?」

「ヘクター、落ち着けって。コゥ、久しぶり。ブリンクに来たんだね」


服装こそ汚れていたものの、大きな怪我もなく元気そうな友人たちの様子を見て、コーディは力の抜けた笑顔になった。

「あはは。ヘクター、大丈夫?僕は魔塔関係でこっちに来たんだ。ヴィーロックス……巨大狼のことでね。こっちでは、戦力が期待できるから戦い方も色々考えられそうな気がするよ」

「あー、やっぱり。森の中に出る魔獣、八割がた狼系なんだぜ。群れで来るからめんどくさくってさぁ。後はベア系?あいつら体力あるから時間かかるんだよ」


軽く聞いた限りでは、プラーテンス側から森の中に入っているものの、彼らはヴィーロックスの影も形も見ていないという。

もう少し話を聞きたかったが、そろそろ約束の時間になってしまう。

「じゃあ、また明日?コゥがなんか作戦立てるなら、多分俺らも呼ばれるだろ」

「確かにね。それじゃあ、コゥ、また明日」

「うん、きちんと休んで。また明日」


友人たちと立ち話をした後、肩の力が抜けたコーディはもう一度足を領主館へと向けた。

しかし、その歩みはすぐに止まることになった。

「おっ?!コーディじゃないか?」

「あ、マジでコーディ!」

「やだ、久しぶりねぇ」


やってきたのは、王都で出会った冒険者パーティ、トリリアントの三人だった。

彼らなら実力も十分だし、きっと稼ぎに来ているのだろう。

ビルとチャド、アルマの三人に向き合ったとき、視界の端に見覚えのある金髪がちらっと見えた気がしたが、すぐに見えなくなってしまった。



読了ありがとうございました。

続きます。

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