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146 魔法青年は水を捕まえたい

よろしくお願いいたします。



水を捕まえるなら、密封か固めるか。

ほかの物質はすべて固体・液体・気体の順番に体積が大きくなるが、水だけは分子の形の影響で液体・固体・気体の順である。そのため、思い切り圧縮して固体にするという方法は使えない。

一気に温度を下げて凍らせるという方法も一つだ。ただ、液体から固体になることでティメンテスが動けなくなるのかというと疑問である。


水魔法を応用するだけで氷を作り出せるのだ。

ティメンテスにとって、単なる形状変化である可能性も考えられる。

となると、別の方法で固めるしかない。


下手に海などに逃げて水に溶けると、捕まえられなくなる。

どれくらい細分化して溶けることができるのかはわからないが、とにかく海に逃げ込めないようにすべきだろう。


どうしようかと考えながら、コーディはアイテムボックスに入れてあった芋を取り出した。

新鮮な野菜があまりないと聞いたので、ちょうどナム共和国で買い取ったものを村の人たちに提供することにしたのだ。


「助かるわぁ。前に畑から取って保管しておいた芋は、もう芽が出ちゃってね。仕方ないから種芋にするつもりだったのよ。どれくらい閉じこもることになるかはわからないけど、芋ならいろんな料理に使えるし、早ければ三ヶ月くらいで採れるからね」

女性陣が、喜んで受け取ってくれた。

ほかの野菜で余っているものも、いくつか渡しておいた。畑にも見に行くことはあるが、やはり時間が短いので思うように収穫が進んでいないらしい。


「このところ、なんにも贅沢させてあげられなかったでしょう?今日くらいは、芋団子でも作ってあげましょうか」

「それもいいわね。子どもたちもだけど、男衆も欲しがるんじゃないかしら」

「じゃあ、たくさん作らないとね」

木箱五つに収められた大量の芋は、なかなかの勢いで消費されそうである。


気になって聞いてみると、芋団子とは前世で言う芋もちのようなものらしい。

芋をゆでて蒸かしてから少し冷まし、練るように潰す。潰したら一口大に丸めて、鉄板などで焼く。サトウキビのような植物からシロップを煮だして、焼いた芋団子を絡めて完成だ。


「時間があれば、混ぜ粉を作るんだけどねぇ」

「それはまた今度だね」

盥のような大きな入れ物に蒸かした芋を入れ、麺棒で潰しながら女性陣は口々にいろんな話をしていった。

コーディはティメンテスの捕まえ方を考えながら一緒に調理していたが、ふと気になったので質問した。


「混ぜ粉とは何ですか?」

「あぁ、うちでは混ぜ粉って言うのよ。芋を切って水にさらしたら、底にたまる白いやつ。あれを乾かしたから粉になるの。スープをとろっとさせたり、芋団子をもう少し柔らかくしたり、ちょっとしたことに使えるんだよ」

「なるほど。片栗粉のことですね」


芋から抽出できるデンプン成分のことだろう。

「カタクリコ?っていうの?」

「僕の国の、一部の地域でそう呼ぶんです。固め粉とも言いますね」


コーディは、手元の潰した芋を見た。

ティメンテスは鮫のようなものらしいから、巨大なフカヒレが取れるのだろうか。

フカヒレのスープも、片栗粉でとろみをつけるのだ。


―― なるほど、これなら固められそうじゃのぅ。


あんかけのあんのように、またはスライムのようにどろりとさせて、液体に戻らないイメージにすれば間違いなさそうだ。

捕まえたら、あとは風魔法を使って攻撃できるようにすればいい。


ティメンテスを単体で捕まえるためには、まずは海から引きずり出さないといけない。

これは、うまくやれば一本釣りの要領で陸にあげられるだろう。

餌は、コーディ自身である。




村長たちに説明すると、当然のこととして反対された。

いくらなんでも、一人で対処するなどとんでもないことだと言われたのだ。


「魔塔から水魔法の霧散の魔法陣がそろそろ完成すると聞いていますし、ほかの六魔駕獣を捕らえた実績もあります。少しコツと場所は必要になりそうですが、問題なく捕獲できるはずです」

「しかしなぁ……。だからといって。コーディが海岸で魔力を溢れさせて待って、飛び掛かってきたところを逃げて陸に上がらせるんだろう?」

「もし、逃げ損ねたらそれで終わりだぞ。穴を掘る手伝いくらいはできるが、ティメ様を固める?とかは俺たちにはできそうにない」


村長を始め、ティモシーもほかの男たちも、コーディの危険が大きすぎること、使う魔法のイメージがまったくわかないことから納得できないらしかった。

「芋の粉を使って水をどろっとしたものにするイメージは、料理をする方ならすぐわかると思います。似たようなものが、海藻を原料とするものにもあるんです。どちらも植物ですから、木魔法を使えば原料を作り出せますし、水を固めるのに火を通さなくてもイメージで固められます。あとは風魔法を使って水だけ分離してやって、物理的な攻撃を与えてやれば倒せます」

少なくとも、そうやって捕らえることができれば水に溶けて逃げられる恐れはない。


「その間、ワシらは離れて待っておくしかないか」

「そうしてくださった方が助かります。僕自身は、万が一飲み込まれてもティメンテスの身体の外に出る手段をいくつか持っています。それに、ほかの六魔駕獣は『喰う』といっても物理的な消化をしているのではなく、魔力を吸い取っていたようなんです。だから噛まずに丸呑みにしていました。多分、ティメンテスも同じでしょう。魔力を吸い取られる前に魔法を使って逃げてしまえば、問題ありません」


「しかし、ワシが見た限りではものすごい数の鋭い歯が並んでおったぞ」

「もちろん、ケガはするでしょう。ですが、命を奪ってしまうと思うように魔力は手に入りません。魔力の器が壊れてしまうので。六魔駕獣が欲しいのは魔力ですから、ケガをさせて動けないようにこそすれ、命まではすぐに奪わないんです」

「なるほどな……」


そして、ほかに方法は出てこない。

島の人たちは一昼夜話し合い、そしてコーディの作戦に乗ることにした。


何にしても、このままでは島の終わりを待つだけになってしまう。

それなら、わずかでも可能性のある方法にかけたい。


新村長たちが中心となって、そういう考えに行きついた。

コーディとしては、島の人たちに無理をさせるつもりはないのだが、彼らはコーディ一人に命を張らせるのを良しとはしなかった。


方向を決めた次の日、土魔法を得意とする大人数名とともに、コーディは海岸近くの比較的平らな場所が広がるところへ赴いた。

そして、ティメンテスを釣り上げる場所をある程度決め、地面に大きな穴を掘った。全長が20メートル近いと聞いているので、穴の大きさは直径30メートルにした。深さは一番底で15メートル程度だ。

側面や底の面には土魔法を応用してコンクリートによる防水加工を施し、前世のプールのような状態にした。


ここにティメンテスを放り込み、水魔法の霧散の魔法陣をあちこちに貼っておけば、逃げられる心配もないだろう。

跳ねて逃げられても困るので、少しでも妨害できるよう壁面は内側にそり立つような形にした。

海岸からはおよそ100メートルほど陸側だ。


本当はもう少し距離を取りたかったが、釣り上げてその勢いで飛ばすとしても、このくらいがギリギリだろうと判断した。

あとは、うまく釣り上げるだけである。



読了ありがとうございました。

続きます。

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