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番外編5 そのころのブリンクにて

よろしくお願いいたします。

連続で番外編です。


アーリンはこのところ、毎日の魔獣退治は冒険者と組んでいる。

プライドなど持っている場合ではなくなったのだ。

まずはじめは、森の木々が急に成長しだした。次に唐突に魔獣の森の魔獣が増え、森の奥にいたはずの魔獣が浅いところにやってくるようになった。初めはソロでもなんとかなっていたのだが、さすがに命の危険を感じるようになって、貴族の囚人を管理しているところに掛け合ってパーティを組むことにした。


組むことになった冒険者は実力派ということで、アーリンの火魔法とも相性のいい近接と魔法を使う者たち。

アーリンのことをあまり知らないのか、それともアーリン一人が何かをしても対処できると思っているのか、彼らは普通の仲間として接してきた。

彼らの方に向かう魔獣を倒せばお礼を言ってくるし、アーリンが死角から狙われていれば助けてくれる。


最高位の貴族として、それ以下の人たちの上に立つとしか学んでこなかったアーリンは、不思議な感じがした。

ソロで動いているときには何も感じなかったのに、ほんの数日誰かと連携して動いただけで、父が死んで以来何となくぼんやりと持っていた考えが正しいのだと確信を持った。


大ケガをすれば、アーリンもそのへんの囚人や平民の冒険者と同じく死ぬのだ。


やんごとない血筋だろうが、親の顔を知らなかろうが、同じように死ぬ。そして、皆が同じように死にたくない。生きていることが大切なのだ。

みんな、それぞれが必死に生きている。

たったそれだけのことを、これまでのアーリンは知らなかった。



しばらくして、魔獣の森に巨大な狼型の魔獣が出ていて危険度が高まっていると通達があった。そして、国として総力を挙げてその危機に対処するという。

能力の足りない囚人は森の外で待ち、出てくる(魔獣の森の中では)弱い魔獣を退治する。アーリンをはじめとした強い魔獣を相手にできる者たちは、森の中でどんどん倒していくそうだ。


森の魔獣はどんどんやってくるし、アーリンが組んだパーティの冒険者も大ケガをした。


その後、新たに組んだ冒険者たちも必死らしく、アーリンが囚人だとかそういうことはどうでもよく、とにかく火力と連携を求められた。

もはや絶望が毎日近づいているとしか思えなかった。


パーティが数十体の魔獣に囲まれたとき、あのタルコットからの手紙を思い出した。

色々書かれていたが、『とにかく生きてほしい』とあった。あのお人よしは、自分を殺しかけ、さらに大量虐殺の大元になりかけたアーリンに死んでほしくないらしい。

魔獣たちの向こうには、多少は魔法が使えた囚人の遺体が転がっている。


こんな地獄のような状態なのに、アーリンは死にたくないと思った。

そんな自分が浅ましく、それでも諦められなかった。





◇◆◇◆◇◆( )





「なぁビル、追加で入ったあのアーリンってやつ、貴族なんだよな」

「そうだな。そのわりに偉ぶってないし粛々とすげぇ火魔法を使ってくれるから助かる」

「あたしの魔法ともまぁ相性が良いしね。でも、全然しゃべらないから何考えてるのかよくわからないわ」

数十体の魔獣に囲まれつつも持ち前の魔法と火力を生かして切り抜け、どうにか一日の仕事を終えて、ビルとチャド、アルマの三人パーティは食堂で食事をとっていた。

アーリンは囚人なので、食事は別である。


王都周辺で活動していた三人は、報奨金の高さと生活の補助があると聞いてブリンクにやってきていた。この食堂の食事も無料である。

似たような冒険者がどんどん来訪し、ブリンクの宿の部屋が足らずに空き地にテントスペースが作られた。

ビルたちはぎりぎり間に合った組で、少しランクは落ちるものの、ベッドを確保できていた。


「火魔法を並列で使ってるんだっけ。あれ多分、コーディの同時発動を使ってるよな」

チャドが言うと、アルマもうなずいた。

「それね。こんなとこにまでコーディの魔法の使い方が広まってるのね。魔塔に行ったって聞いたけど、今頃どうしてるのかしら」

「さあな。とんでもない魔法を研究してるんじゃないか?コーディだし」

エールを傾けたビルは目を細めてそう言った。


「とりあえず、索敵を怠らずに、ケガをしないように、なるべくたくさん倒すってことでいいか」

「ああ。そういえば、ヤバい噂を聞いたんだが」

ビルの言葉にうなずいたチャドが、声を潜めて二人に言った。


「何?」

「魔獣の森に、巨大狼が出るって言ってただろ?あれ、マジだって」

それを聞いたアルマは、呆れたように言った。

「知ってるわよ。命からがら逃げてきたっていう冒険者もたくさんいるじゃない」


「それだけじゃないんだよ。その巨大狼、魔獣も人も喰うらしいぞ。眷属に倒させて、動けなくなったところを喰いに来るらしい。眷属は喰わないらしいが、それ以外を喰ってたって」

「なんだそれ」

「喰うって……」

ビルは眉を顰め、アルマは息をのんだ。


「嘘でしょう?」

「いや、目撃者が増えてるそうだ。だから、万が一狼型の魔獣がいたら、完全に討伐しきるか逃げるかしないとやられる」

「……巨大狼の気配がしたら、速攻で迂回して逃げるぞ」

「わかった」

「わかったわ」


明日からの方針が決まったところで、アルマはエールを喉に流し込んだ。

「噂といえば、貴族の一団もここにいるのよね。今日ちらっと森で見た人たちもそうなのかしら」

「あぁ、多分な。なんか、土魔法と風魔法とか、複数属性を当たり前みたいに使ってなかったか?特に若い貴族」


「やっぱりそうよね?あたしの目の錯覚かと思ってたんだけど、複数使ってたわよね。それも、どっちも結構な威力でちょっと怖かったくらいよ」

「わかる。アーリンもかなり規格外だが、一点特化だからまだ理解できる」

「貴族は魔力の器の大きさがそもそも違うからなぁ。多分、特にすげぇやつらばっかり集められてるんだろ。味方なんだからありがたいことだよ」

アルマの言葉に、チャドとビルも同意した。


「アーリンは、気まずくないのかな。多分、元貴族なら知り合いもいるんじゃないか?」

「あぁ、いるかもな。でも、俺らにできることなんかないぞ」

「そうねぇ。せいぜい立ち位置に気をつけて、あんまり近づかなくていいようにしてあげるくらいじゃない?でも、戦ってる最中にそんなこと言ってられないわよ」


三人は頭を突き合わせたものの、酔いも回って何も思いつくことができなかった。

囚人なので何か罪を犯したのだろう。むしろ、三人にできることなど何もない気がしてきた。

そして、パーティとしてどんどん魔獣を倒すのが一番だという結論に達した。とにもかくにもお金だ。

考えるのを放棄したともいう。


「とりあえず、魔獣を倒しまくって稼いで、生きて帰って王都で豪遊しようぜ」

「さんせーい」

「いぎなーし」




次の日、酒臭い三人はアーリンに感情のない目で見られて肩をすくめたのであった。



読了ありがとうございました。

続きます。次は本編に戻ります。

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