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番外編4 呼ばれた二人

よろしくお願いいたします。

ヘクターとスタンリー視点です。



その手紙は、突然のものだった。

ヘクターとブリタニーの二人に、プラーテンス王国から帰国命令が出たのだ。

正確には、ヘクターだけでもいいという書き方だったが、できれば二人とも戻ってきて協力してほしいということだった。


研究所に報告して、国からの要請であればということで無期限の休暇をもらって帰国したのは一週間後。

すぐに、ブリタニーは魔法研究所に復帰という形で魔法陣の開発、ヘクターは貴族の流刑地でもある魔獣の森のそばにある防波堤の町ブリンクに送られることになった。


「いやいや、あんまり説明もなくブリンクへ行けって言われたからすんげー焦った」

「あはは、僕はきちんと質問して状況なんかを教えてもらったよ」

ブリンクには、スタンリーがいた。彼も国からの要請によってブリンクに来た組だ。


比較的若い貴族を中心として、彼らを主要メンバーとする火力強めの討伐隊が組まれたのだ。

理由は、魔獣の森から出てくる魔獣の増大と、巨大な狼型の魔獣の目撃情報による。

出現する魔獣は徐々に増え、ブリンクの囚人と稼ぎに来る冒険者たちだけでは間に合わなくなってきたという。貴族の招集はもちろん、冒険者ギルドにも、動けるものは魔獣の森の方へ来ること、巨大な狼型の魔獣についての情報収集の依頼を受けてほしいことなどを要請している。


ブリンクには、現在どんどん人が集まっていた。

噂では、プラーテンス側の前線はギリギリ何とかなっているようだが、レイシア商民国の方はすでに前線が崩れている状態らしい。さすがに向こうにすべて押し付けるのは非人道的だろうということで、ある程度こちら側におびき寄せて対処する場面もあるんだという。

とはいえ、こちらも命は惜しいので、余裕があればという程度だそうだ。


「それにしても、チェルシーは来なかったんだな」

「うん、チェルは跡取りだからね。万が一を考えると、婿の僕が来るべきってことかな。あと、あっちも魔獣の暴走が見られるから火力も必要だし。まぁそれはおまけで、本来の理由は僕たちがコゥの教えを直接受けたからだろうけど」

「あー、それな。俺もそうだと思った。コゥの論文も国中で広がってはいるけど、直接がっつり教わったのって俺たち二人だもんな」


ヘクターもスタンリーも貴族として呼ばれたため、ブリンクの町の中にある宿のうち、比較的高級なところの一部屋を与えられていた。部屋は少し離れているが、同じ宿だ。

ある程度貴族が集まってきたので、明日から魔獣討伐作戦を決行する予定である。

冒険者の中には、宿を取れずにテント泊している者もいるらしい。その代わり、ブリンクで動く冒険者のために国からの補助金が出ているそうだ。


「だから若い貴族が多いんだよね。コゥのやり方を学んで自主的に同時発動を習得した人とか、属性魔法を増やした人とかばっかり来てるらしいよ」

「国として最大火力を突っ込もうってわけだな。……結構ヤバいんじゃないか?」

「多分……。コゥにも知らせた方がいいのかな」


ヘクターはスタンリーの言葉にうなずいた。

「俺が後で書いとく。手紙転移の魔道具、俺が預かってるから」

「僕の方はチェルのとこに置いてきたから、頼むよ」


「それにしても、新婚夫婦を引き離してまでってマジでよっぽどだよなぁ」

ヘクターはため息をついた。スタンリーはそれを受けて苦笑した。

「婚約者同士を引き離してっていうのもね。そういえば、かなり思い付きで婚約したみたいだけど、いい関係は築いてるの?こっちでは、婚約した途端に優秀な研究者である婚約者を他国に引っ張っていったってそれなりにお熱い噂が流れてきたけど」


からかうような表情のスタンリーに、ヘクターはひょうひょうと答えた。

「うーん、まぁはじめは気の合う相手だしちょうどいいよなぁと思ってたんだけどな。俺、向こうでずーっとブリタニーにかまい倒しててさ。人に言われて気付いたんだ、ブリタニーが好きだったって」

「えっ」

「マジで鈍いよなぁ。自分でもびっくりした。でもラッキーだったぜ、ちゃんと好きな子と結婚できるって」

「えぇ……」

からかってやろうと思っていたスタンリーは、さらっと惚気られて毒気を抜かれてしまった。おかげで変な緊張も解けたので、苦笑いでヘクターを軽く小突くに留めた。


「そっか。なら、ほかの同級生たちもいることだし、思いっきり暴れて何とか収めないとね。絶対、ちゃんと帰らないと」

スタンリーがそう言うと、ヘクターもうなずいた。

「だな。コゥのやつ、連絡したらすぐ来れるかな?なんかズマッリでチラッと聞いた限りだと、あっちこっちでデカい魔獣が暴れててその対策に引っ張りまわされてるっぽいんだけど」


それを聞いたスタンリーは、眉を寄せて首をかしげた。

「デカい魔獣って……ここの魔獣の森に出るっていう狼型の巨大魔獣もその一つなんじゃないの?コゥが引っ張り出されるような奴に、僕たちだけで対応できるのかな」

「まぁ、やるだけやってみるしかないだろ。そのデカブツはどんな魔法を使うんだったっけ」

「木魔法らしいよ。んで、眷属にしてるのがフレイムウォルフとバーニングウォルフ。自分の弱点を眷属にカバーさせてる状態だね」


「うわぁめんどくさ。それって、水魔法と火魔法、両方使えるパーティじゃないと詰むってことじゃん。えっぐいなぁ」

ヘクターがベッドに転がりながら言った。

まさにその通りで、ここに集められた貴族は水魔法か火魔法のいずれか、もしくはスタンリーとヘクターのように複数属性使える者ばかりである。

「しかも、ほかにも普通にグラスタイガーとかストームドッグとか、そのあたりの魔獣も暴走してて森から出てきてるみたいだから。そこを食い止める人員も必要なんだよね。まぁ僕らは戦力を見込まれているみたいだし、まず間違いなく森に入る組かな」

スタンリーも腰かけた椅子にだらりと背を預けた。


「……怖いよな」

「うん、怖い」


学園の地下ダンジョンにこそ潜ったし、王都近くの森にも行ったことはある。

スタンリーはガスコイン領地の近くの森で魔獣狩りをしてきたし、ヘクターもズマッリ王国との往復の道中で魔獣退治をしていた。苦戦など一切していない。

しかし、いずれも単発やせいぜいが数体。終わりもなくひたすら相手をし続けるなんていう経験はない。

見上げるような巨大な魔獣になど、対応できるとも思えない。


それでも、やるほかない。

ヘクターがベッドから拳を伸ばしてきたので、スタンリーはそれに合わせて腕を伸ばした。

「おっと」

「痛ぇっ」


椅子が滑って思い切り拳をぶつけてしまった。

そしてどちらからともなく噴き出し、ひらりと手を振った。


ヘクターはその夜、コーディに手紙を送った。



読了ありがとうございました。

続きます。

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