141 魔法青年はマグマと対峙する
よろしくお願いいたします。
「まずは、コーディ様が飛んでマーニャの近くまで行って、特殊な氷魔法を使う。凍って動かれへんようになったとこを、我々が叩く。我々が大きく動くんは、コーディ様の合図をもろうてから。それでええですね」
「はい」
「コーディ様の負担が大きいんは心苦しいですけど、頼みます。国内の魔獣もかなり暴れとって、死人もかなり出とるんです」
団長は、苦渋の選択とばかりに渋い顔をして言った。
彼の言う通り、カロレ国内だけではなくコルニキュラータ首長国では魔獣が暴れることによる被害が多くなっていたし、すぐ北にあるヘテロピラス王国やアルピナ皇国、東側のプルメリア王国にも被害が広がっていると報告があった。
多分、プラーテンス王国でも魔獣が暴走しているはずだが、あの国は自分たちで何とかしているらしい。スタンリーへの手紙の返事からは、冒険者が出ずっぱりで騎士団も忙しいとあった。領主自ら魔獣狩りに出ている領地もあるらしく、スタンリーも随時魔獣を狩っており、貴族も忙しくなっているそうだ。
友人たちのためにも、なるべく早くマーニャの問題を解決したい。
作戦を確認したコーディは、団長たちが見守る中、船から空へと飛びあがった。
ヴルカニコ島に入ってしばらくすると、徐々に暑くなってきた。
高度を変えて飛んだ結果、地表がかなりの熱を持っているらしいことがわかった。これは、マーニャの影響だろう。
マグマの池に向かうにつれ、さらに暑くなっていった。
この熱もどうにかしないと、地面を歩いて進む兵士たちの負担になってしまう。
火魔法というのは、本当に環境への影響が大きい。
空から近づいたコーディは、マグマの池がゆっくり移動しているのを認めた。
◇◆◇◆◇◆
カメは、イライラしていた。
やっと外に出てのんびり泳いでどこかへ行こうと思ったのに、やたらと冷たいところがあってそれ以上進めなかったのだ。
冷たいものや寒い場所はだめだ。
身体がうまく動かなくなるし、眠くなる。
体内を強く燃やせば氷は溶けるが、そうすると今度は水が出てくるのでどちらにしろ泳ぎにくくなる。
遠い記憶では、カメは水中を泳いでいたような気もするのだが、今は赤く光る水が一番楽なので普通の水はいらない。
あんまりイライラしたので、覚えたばかりの火魔法をその冷えたところに向かって飛ばしてやった。
冷たいところに着地した火魔法は、すぐに消えてしまった。
カメが近寄っても溶けないくらいにしっかり冷えているので、火がぶつかるくらいでは何の影響もないのだろう。
もっと遠くへ飛ばしてやれば、冷えている部分は一部らしく、その外側は燃えた。
燃えるのを見れば少しは気分がすっきりしたので、カメは冷たい土の外側にどんどん火を放った。
小さいモノたちがうろちょろしていたのが見えた。しかし、どうせ赤く光る水には入ってこられないのだからどうでもよかった。
そんなことより、もっと外に出たいのに、冷たい土はずっと下の方まで続いていて、こちら側と向こう側がつながっているようなのだ。土の中を抜けていくこともできない。
以前この場所に来たときには、赤く光る水の川を通って土の中を泳いできた。その道が閉ざされているので、本当にここから出られない。
出られない状態にイライラしたカメは、動ける範囲内をうろうろと泳いでは火魔法を放った。
遠くを見れば、小さいモノたちが忌々しい広い水溜まりに浮かんだものの上にいるのが見えた。
水は嫌いだ。
カメの火を消すところもそうだが、今は泳げない場所なので余計に嫌いだ。
イライラするままに火魔法を飛ばしても、小さいモノたちのところまではまだ届かなかった。
のんびり泳げるのはいいが、自分の行きたいところへ行けないことと、縄張りを広げられないところは気に食わない。
どうにか出られる場所はないかと地表や地中を探したが、どこにも出口はなかった。
こうなってくると、もう諦めて冷たい土の上を我慢しながら進むしかないかもしれない。それをするには、身体中に魔法を使わないといけないので、魔力が大量に必要である。
カメは、まずは魔力を調達することにした。
小さいモノたちはそれなりに効率がいいのだが、今は近くにいないので仕方がない。
燃えずに残っている奴らを喰うことにしよう。
◇◆◇◆◇◆
空から島を見下ろしたコーディがまず目にしたのは、マグマの池だ。直径は百メートルほどあるだろうか。
火口だと言われればそうだと思えなくもないが、平地に突然現れるのは不自然だ。
そして、見ているとその池のそばに別のマグマの池が出現した。
新しいマグマの池の近くには魔獣が数匹固まっており、逃げ場も隠れる場所もなくじっとしていた。
そして彼らは、地面が突然マグマになったと思ったら、その中から出現した大きな口にバチンと喰われた。
一撃目は反射的に跳び下がって逃げたバーニングウォルフとみられる魔獣は、すぐに追撃されてやはり喰われた。
あのデカい口は、マーニャなのだろう。
あんな風に、地中から狙われたのでは避けようがない。やはり、マーニャを地表に出して動けなくするのが重要だ。上手く出てこさせてドライアイスを仕掛けたい。
マーニャの上からドライアイスの霰を降らせて落とすか、表面をドライアイスで覆うか。
地中に逃げられてしまえば次の機会を待つのが大変だ。
一気に決める必要があるので、ここは体表をすべて覆うのがいいだろう。
体内に酸素が残ることも考えれば、しばらくドライアイスを保つ必要があるので、霰は後から降らすのがよさそうだ。
二酸化炭素を溜めたいので、くぼんだ場所に誘導したい。もしくは、谷のようになった場所でもいい。
土魔法で壁を作るにしてもなるべく魔力を温存したいのだ。
離れたところにまたマグマの池ができたのを確認しながら、コーディは地形を選ぶために少し飛んだ。
「おっと」
マグマの池の方から、火の塊が飛んできた。
どうやらバレたらしい。
「あっちに川の跡があるな。あそこでいいか」
今は完全に干上がっているが、それなりに深さと幅のある川だったのだろう。
これなら、少し手を加えるだけでマーニャを閉じ込める窪地を作れる。
ゆっくりと飛ぶコーディの後を地上から追うマグマの中央付近に、赤い山が見えた。
光っているのでわかりにくいが、あれは亀の甲羅だ。身体の大きさは、三十メートルを超えるだろう。
甲羅の盛り上がり方が緩やかで、全体的に流線形に見えるので、ウミガメのような亀なのかもしれない。
マーニャの火球は、たまにあらぬところへ飛んでいく。
コーディが空を飛んでいるので、突然軌道を変える可能性を考えているのかとも思ったが、マーニャの視線はほぼまっすぐにコーディにある。
苦手なのか慣れていないのか、それともただ翻弄しようとしているのか。
目的はわからないが、今のところあの火魔法は脅威ではない。
やはり、周りの地面をマグマにするのが一番やっかいだ。
さすがのコーディでも、あれに近づくのは危険だろう。
川の跡の方へ誘導しながら、コーディは魔法を準備していった。
読了ありがとうございました。
続きます。