表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

143/191

139 魔法青年は報告を聞く

よろしくお願いいたします。



次の日、コーディは冷却の魔法陣を調整するついでに、効果の出方も少しいじった。人から離れた外周部分をより冷やすようにしたのだ。言うなれば、低温のバリアのようなものだろう。

マーニャは相変わらずヴルカニコ島の中でマグマを作って泳いでいるらしいが、こちらから何もできず膠着状態のままだ。

そして改良した冷却の魔法陣を魔塔のディケンズに送ると、彼からは魔塔で共有している資料が送られてきた。


その手紙には、『六魔駕獣の性質については戦闘に役立つので共有してもいい、しかしそれ以外に予想されていることがあり、文字に残せないので人に聞かれない場所で通話したい』と書かれていた。

各国に共有できない情報など、嫌な予感しかしない。

しかし聞かないわけにもいかないため、コーディは借りている客室の中で防音の魔法を発動し、通話の魔道具を起動させた。



『おぉ、コーディか。冷却の魔法陣を見たぞ。これはいいな、かなり魔力が抑えられているし、持ち主自身はあまり寒くない』

「そこは調整しました。寒いと動きが鈍くなるかと思いまして」

『なるほど。確かに、騎士や兵士に持たせるなら、そのあたりも配慮せねばならんな』


「はい。どうやら、コルニキュラータ周辺で暴走している魔獣にも火魔法を使うものが多いらしいので、できるだけ複製して配布しようと思っています」

『そうか。あぁ、コーディはほかの役割もあるだろう。コルニキュラータのほかの首長のところへは魔塔から送るから、カロレ国の分だけでいいぞ』

コピーはそこまで負担でもないのだが、時間はかかる。頼めるのであればとてもありがたい。


「ありがとうございます!とても助かります」

『これは、色々と生活にも応用できるな……。まあそれは終わってからのことじゃ。まずは、今回の本題じゃな。人に聞かれない場所におるか?』

「場所というか、僕の周辺だけ音が漏れない魔法をかけました。誰かが入ってきたら見えるので問題ありません」


『わかった。では、今回わかったことをまずは共有しよう。イネルシャの遺体やリーベルタスの化石を色々と解析した結果じゃがな、ごく小さく魔法陣が彫られていた。レンズがないと読めないほどのものじゃよ』

「魔法陣が?」

『そうじゃ。つまり、六魔駕獣は人の手の入った何かということだな』


ぞわり、と鳥肌が立った。


「あんなものを、作ったんですか」

『そう考えられる。どうやら魔法陣は超古代魔法王国の文字で描かれているらしい。小さすぎることと、少々見慣れない文字もあって解読は途中じゃが、あの虫や骨は魔法の核のようなものとして使われたようだな。核を中心として魔力を集めて形を作るらしいところはわかった。あとは、自ら魔力を集めるような記述があった。普通は魔力の器にゆっくり溜まっていくものだが、能動的に集めるようだな』

コーディは思わず眉を寄せて目をつぶった。


「では、魔獣や人を喰うのは、魔力を吸い出すためと考えられそうですね」

リーベルタスから落ちてきた魔獣や戦士たちは、身体はなんともなかったのだ。死んでいた魔獣からは、魔力が欠片も感じられなかった。普通は、遺体にほんのりと魔力の残り香があるものなのだ。

戦士たちによると、呑み込まれてすぐに魔力の器から魔力が消えていくのを感じたという。


そのあたりを説明すると、ディケンズは相槌を打った。

『そうか。ふむ、あり得るな。魔力の身体を維持するためにも、常に大量の魔力を必要としているだろうからな』

「そうですね。なら、魔力の摂取をできないようにすれば、六魔駕獣の動きを阻害できるんでしょうか」

『確かに、できるかもしれん。……そのためにも、解読を急ぐ必要があるな』

魔法陣の魔力を集めるあたりを解読できれば、ピンポイントに阻害できるだろう。


あの六魔駕獣は、超古代魔法王国で作られたものと思われる。

兵器として利用しようとして失敗したのか、ただ実験のために作り出したのか。

いずれにしても、それが暴走した結果超古代魔法王国は壊滅的な状態になり、当時の魔法使いたちがなんとか六魔駕獣を封印したということだろう。


「六魔駕獣と相対したときに感じたのですが、彼らはそれぞれに思考して動いているようです。核となるものは、生きて捕らえられたんでしょうか」

『わからんな。もしかすると死したものを復活させたのかもしらんが、いずれにしても非情な所業じゃ』

ディケンズの声が低くなったので、さすがの師も怒りを覚えているらしい。


「超古代魔法王国の関わりがあるということなら、なにかの歴史書などに記述があるかもしれませんね。一般的なものではなく、研究関連の論文などがあればいいんですが」

『それも考えた。すでに、数名がハマメリス王国に向かっておる。王国からの協力も取り付けたのでな、王族が保有している古代魔法王国の書物なども確認する予定だ』

確かに、あの国になら何かあるかもしれない。


「古くから血をつないでいる貴族なども史料や伝承を秘匿している可能性があります。カロレ国の場合は、宰相の一族がマーニャに関する口伝を受け継いでいました」

『それもありそうだな。ハマメリス王国だけではなく、各国にも改めて通達してもらうようにしよう』

ハマメリス王国にだけあるとは限らない。帝国も大きな国だし、ほかにも歴史の長い国が何か知っている可能性もある。


「あれだけ別々の生き物を使っているので、実験的に魔獣を作ろうとしたのかもしれないですね」

量産するのなら、同じ材料を使って同じ形にするのが効率的だ。そこから考えると、試験的または実験的に作ったと考えるのが自然だろう。

『実験か……。ワシらも、わからんでもないだけに身につまされるな』

「そう、ですね」


魔塔の研究員は何よりも研究結果を優先するきらいがある。人としてあるべき姿を捨てる可能性があるのは確かなので、他人事とは思えない。

コーディも、のめり込んで忘れてはいけないと改めて心に刻んだ。

『とりあえずは、六魔駕獣は超古代魔法王国で作られた疑いがあることを覚えておいてくれ。このことはまだ各国へ知らせておらんから、他言無用じゃ』

「わかりました」


『魔塔内でも、実のところ、一部の研究者の間でしか共有しておらん。やってみようなどと考える奴がおっては困るからな』

それが、ありえないとは言い切れないあたりが魔塔だ。

「僕に話してしまって大丈夫なんですか?」


コーディ自身も、魔法の研鑽に夢中になると周りが見えなくなる自覚はある。

『コーディは大丈夫じゃろう。なんだかんだ言っても、お前さんの魔法の根幹には人がおる』

信頼してもらって嬉しいが、コーディ自身が気を引き締めておかないといけない。

「ありがとうございます。忘れずにいようと思います。その六魔駕獣の魔法陣は、いずれも共通しているところが多かったんですか?」


『そうじゃよ。わしが見る限りは、同一人物の手によるものだ』

文字の癖や魔法陣の組み立ての癖から、なんとなく同じ人物か否かは把握できる。

もしかすると、道徳観はともかくとして、とんでもなく優秀な魔法使いがいたのかもしれない。


―― なんのために、あんなものを生み出したんじゃろうかのぅ。


それを理解したくないコーディは、静かに頭を左右に振った。



読了ありがとうございました。

続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇ もしよろしければ、ほかの作品もご覧ください。 ◇◆

【これは勇者の剣です!】
勇者の剣を引っこ抜いたはずの勇者が、魔王を探して旅をする話(間違ってはいない)。
可愛いヒロインも登場します!
完結まで執筆済み、毎日連載しています。

【サーチング・サーガ(竜の巣に乗り込んだ娘は謝罪の旅に出た・連載版)】
「竜の巣に乗り込んだ娘は謝罪の旅に出た」の連載版はじめました。
ハイテンション系コメディに、短編最後にチラッと出ていた冒険とラブコメをぶっこみました。
完結しました。

【チート級の不可思議な力を手に入れた女子高生による、破蕾系学園生活。】
恋愛もちょろっとある和風ローファンタジーの学園もの
女子高生が弥魔術師(やまじゅつし)の卵になる話。
10万字超えで完結済み。

■作品一覧はこちら■
― 新着の感想 ―
この世界の元素魔法は確か魔力を物質に変化させたり動かす動力にしてたはずから使った分が水や石なんかで残る場合があるよね 属性毎に同化して回収、ある程度溜まったら自爆して大気に魔力を還元する環境改善ロボッ…
更新お疲れ様です。 >なんのためにあんなモノを生み出したのか ……まぁ人間の(知的欲求とか全ての方面での)欲求とかってきりがないものですし、こういうのを生み出すやつほどその辺のリミッターが最初から壊…
あんなやつらを作り出すなんてかなりキチガイマッドか世界を破壊したい破滅願望持ちに違いない。 そんなん作ってるから文明が滅ぶんやろな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ