138 魔法青年は交信する
よろしくお願いいたします。
「魔塔で、特定の属性の魔法を霧散させる魔法陣を開発しました。土魔法と風魔法の霧散の魔法陣は、すでにイネルシャやリーベルタスとの戦いで使った実績があります。今回も、火魔法を霧散する魔法陣の開発を頼みます。もうすでに手をつけているような気はしますが」
「魔法の霧散やと?……そうか、それでやたらと六魔駕獣に対峙した兵士やらの被害が少なかったんやな」
リエトは帝国やゲビルゲの状況について連絡を受けていたのだろう。うなずいて納得していた。
「しかし、魔法の霧散だけで大丈夫ですか?ほかの魔法も多少は影響あるんでしょうけど、火魔法に関しては炎そのもんだけやなくて、熱にも対処が必要やと思います」
そう言ったのは団長だ。
確かに、火は直接触れずともその輻射熱だけで十分脅威である。
「そこは、先人の知恵を借りましょう。今は近づけませんが、ローゾ山の禁則地にあった魔法陣をメモしてあります。これは、周りの温度を下げるものです。少しいじれば持つ人の周辺数メートルの温度を下げられますので、熱の影響を軽減できるでしょう」
コーディは、鞄から取り出したように見せながら、アイテムボックスから以前メモした低温化の魔法陣を取り出した。
洞窟の壁に彫られていた魔法陣は、かなり魔力消費が抑えられている。それを人が持つように少し調整すればいい。
「わかった。その、霧散の魔法陣と低温化の魔法陣はいつできそうや?」
リエトが首長としての顔で聞いた。
「僕が手を付ける低温化の方は、明日にでも。火魔法の霧散については問い合わせ次第となりますが、以前の感じであれば三日もあれば送ってくれるでしょう」
それを聞いたリエトたちは、一瞬目を見開いた後で小さく息をついた。
「さすが、魔塔やな。頼りになるわ」
「では、僕から魔塔に手紙で連絡しますね」
後で手紙を書こうと考えていると、リエトがそれを止めた。
「待て待て。それよりこっちの方が早いやろ」
ことんと机に置いたのは、通信の魔法陣を刻んだ赤い石だ。確かに、手紙よりも話す方が早い。
別にディケンズに連絡をしても良かったのだが、リエトはすぐに魔道具を起動させてしまった。
『はい、こちらは魔塔。レルカンだ』
「お疲れさん。こっちはコルニキュラータのカロレ国、リエトや。定期報告と、別の相談があってな。まずは報告からさせてもらうで」
『リエト首長ですか。かしこまりました』
「まずは六魔駕獣マーニャやけど、昨日までと変わらん。地面を凍らせる魔法陣のおかげで島から出られずにおる。ただ、その外側に向けて火を放っとるから、なんとか残ってた町の建物なんかは軒並みやられたし、上陸できる気がせんな。見張りの兵によると、そんな中でもかろうじて動いてた魔獣が、マーニャに食われるところを見たらしい」
『やはり、マーニャも生き物を摂取するわけですな。わかりました。魔獣の暴走はどうですか?』
「暴走は相変わらずや。各首長国からの報告やと、それなりに被害は出とるが、やっぱりカロレから遠いところは多少マシやな。それでも、何個か村があかんようになったし町からも人がおらんようになった。兵士はそれなりに被害が出とるが、プラーテンスから亡命してきた冒険者が中心になってかなり抑えてくれとるわ」
リエトがレルカンと情報を共有しているので、コーディは静かに待った。
その間に、団長がお茶を淹れて出してくれた。
コルニキュラータの特産品ともいえる茶葉は冷たくてほんのり甘い。独特の香りのお茶を久しぶりに飲んだ。
「でや、あとは相談やな。これは俺からやない。代わるわ」
『わかりました』
「ほら、交代や」
リエトに呼ばれて、コーディは通信の魔道具の前に立った。
「レルカン先生、お久しぶりです。コーディ・タルコットです」
『ん?おぉ。タルコットはもうカロレ国に着いたのか』
「はい。それで、ご相談があるのでこの場をお借りしています」
『なんだ?治療の魔法陣なら各国にも順次渡しているが……あぁ、霧散の方か』
さすがである。話が早い。
「そうです。火魔法の霧散の魔法陣を完成させてもらえないかと」
『すでに進めているんだが、どうも熱の遮断を併用するのが難しいらしくてな』
「熱に関しては、以前こちらのローゾ山にあった温度低下の魔法陣を別に持つようにするので気にせずに作ってもらいたいです。なるべく、魔力消費を抑える方向にしてもらう方が大事ですね、命にかかわるので」
『ほぅ。そういえば、そんな魔法陣もあったな……そうか、すべて一つにまとめる必要はない。いくつも併用すればいけるな。うむ、それに関してはあいつらに伝えておく。完成まで二日ほどはもらいたい』
コーディの見積もりよりも早くできる目算らしい。
「とても助かります。こちらで温度低下の魔法陣を効率化しますので、できあがったらディケンズ先生を通して魔塔に提出します」
『わかった。いつごろできる?』
「明日の夕方には仕上げる予定です」
『それはありがたいな。両方持つことを考えて調整しやすくなるだろう』
レルカンと会話していると、向こうで何やら誰かが話しかけてきたようだ。
『そうだ、タルコットだ。今はカロレ国にいる。……わかった、伝えておく』
通信の魔道具は、省力化もあってあまり遠くの声は拾わないようになっている。だからレルカンに話しかけたのが誰かまではわからなかった。
『まったく、師匠を伝達係にしおってからに。タルコット、ギユメットが“タルコットならまぁ大丈夫だろうが無理はしないように”と言っておったぞ。まったく、自分で言えばいいものを』
コーディは、思わず目を瞬いてから口角を上げた。面倒見のいい先輩は、コーディを心配してくれているらしい。
「ありがたいことです。いつも気にかけてくださるので」
『ギユメットには、送られてきたリーベルタスの骨の解析を任せている。婚約者からの手紙もあってか、意欲的に取り組んでいるぞ。タルコット、ギユメットと似たような言になるが、確かに単独で大きな魔法を使えるとはいえ、無理はしてくれるなよ。優秀な研究者が減るのは魔塔の損失だ。きちんとコルニキュラータの兵士たちと連携して、その国のことはその国に任せるように』
「はい、ありがとうございます」
レルカンも、やはり心配してくれているらしい。
『わかったことは魔塔内で情報を共有しているから、多分ディケンズから資料がいくだろう』
「ありがとうございます。内容は僕からカロレ国の方々に共有しますか?」
『あぁ……いや、必要ない。各国へは魔塔からそれぞれに伝達する予定だ』
「わかりました。では僕の今後の予定としては、冷却の魔法陣の調整、その写しの増産、火魔法の霧散の魔法陣を受け取って必要なら増産。その後は、こちらの兵士たちと協力してマーニャの討伐にあたります。終わって何もなければ、魔塔に戻る予定です」
そう言ってから、コーディはフラグを立てた気分になった。
『戻ったら少し休むといい。各国からの色々は魔塔として対応しているから気にするな』
レルカンもフラグを立てている気がする。
しかし、各国からの色々とはなんだろうか。
少し気になりはしたが、聞いたら負けな気がしたのでお礼を言って通信を終えた。
読了ありがとうございました。
続きます。