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133 魔法青年は翼竜と対峙する 2

よろしくお願いいたします。



リーベルタスの四つ足?を、地面に埋め込むようにして捉えた。

イメージしたのはコンクリートである。

どろんと溶けた土に沈み込んだ足が、瞬時に乾いてコンクリートの中に固定される。


それを好機とみた戦士たちが、次々と胴体に攻撃をしかけていった。

切っては離れ、打っては離れする戦士たちと、大きな頭と長い首を振り回し嘴を開いて撃退しようとするリーベルタス。

戦士たちの多くは、リーベルタスがやみくもに放つかまいたちのような風で切り傷を作っている。空弾のような魔法もあるらしく、目に見えないものなので突然攻撃されて吹き飛んだりケガをしたりしていた。


やはり魔力を多く使うためか、大規模な魔法は使ってこない。

拘束されてなお巨大な頭を振り回し、風魔法で四方八方に攻撃してくるので、火力重視な近接戦士たちといえども袋叩きというわけにはいかなかった。

それでも、少しずつ確実に傷を増やしていく。


コーディも、リーベルタスが首を向こうに振ったタイミングに合わせて槍で翼膜を切り裂き、こちらに嘴を向けた瞬間に離脱する、という戦法でダメージを重ねていた。風魔法は、魔力を感じるのですべて避けられる。

魔法を使える戦士たちも、近接の者たちの邪魔にならないように、主に頭を狙って岩などをぶつけていた。

リーベルタスは、必死に足を引き抜こうと暴れながらも周りに攻撃している。

何度も何度も戦士たちやコーディに傷をつけられ、リーベルタスの体表はぼろぼろになっていった。


『ギャギャ!!グギャギャギャアッ!』

イライラした様子で暴れていたリーベルタスが、突然動きを止めて大きく鳴いた。

魔力の高まりを感じて、コーディは叫んだ。

「魔力を集めています!」


攻撃していた戦士たちは一斉に離れ、風魔法の霧散の魔法陣を広げて持ち、腰を落とした。

コーディも同じような構えになって大規模魔法に備えた。


リーベルタスは、全員の目の前で陽炎(かげろう)のように空気を揺らめかせて溶けて消えた。


正確には消えてはおらず、膨大な魔力の塊を感じることができる。

魔力の塊は勢いよく上昇し、そして空中に無傷のリーベルタスが現れた。


「なにっ?!」

「傷が消えているぞ!」

「くそっ!またやり直しかよ!!」

悪態をつくゲビルゲの戦士たちだが、まだまだ戦意は高い。


その理由は簡単だ。

「こっちだ!」

「まだ息があるぞ!!」

「全員生きている!」


リーベルタスが拘束されていた場所に、先ほど飲み込まれた戦士たちが落ちてきたのだ。

どうやら、風に溶ける場合、吸収しきれていないものは一緒に溶けないらしい。

戦士たちと一緒に出てきたソイルディアやロックベアといった魔獣は、一部が溶けておりすでに事切れていた。


もう少し遅かったら、丸呑みされた戦士たちも命を落としていたかもしれない。

駆け寄った数名が、落ちてきた者たちを助け出して離れたところへ連れていった。

まだ体内に仲間がいると考えて攻撃をどこか遠慮していた戦士たちは、獲物を見る目でリーベルタスを見上げた。


リーベルタスも、先ほどよりも明らかに怒りを持ってこちらを睨んでいた。

「まったく、旧世界の生物なのだろうから化石にでもなっていればいいものを」

思わずつぶやいたコーディは、自分の言葉にうなずいた。


「……化石だな」


確か化石とは、骨が堆積した土に埋まった状態で、時間をかけて骨の成分が石と同じ成分へと入れ替わってできたものだ。

変化にかかる期間は数年とも数百万年とも言われているが、魔法でその成分を入れ替えてやればいい。

いかに風魔法で空気に溶けられるとしても、身体を保っている魔力を相剋(そうこく)関係にある土の塊に変えてしまえばその対処は難しくなるはずだ。


イネルシャは、体内の魔力を奪って冬虫夏草を発芽させ、動けなくしたところで霧散していった。同じ六魔駕獣であるリーベルタスも似たような戦法でいけるかもしれない。

つまり、コーディの魔力を使うのではなく、リーベルタスが抱え込んでいる魔力を奪う形で化石に変えるのだ。


『ゲッギャッギャッギャッギャ!!』

周りに響き渡るほどの大声で叫んだリーベルタスは、全身に風魔法をまとってコーディに向かって急降下してきた。

何人かが岩を落とそうと試みたが、その風の壁にはじかれ、落とした岩は砕け散った。


身体を、石と同じ成分に入れ替える。


イメージした魔法をリーベルタスにぶつけるときにふと脳裏に出てきたのは、鋼だったときに見に行った博物館に展示されていた、本物の恐竜の化石だ。

残念ながら全身骨格ではなく大腿骨から下だけであったが、非常に迫力があり、なんとも不思議な感覚に陥ったものだ。

「うわっ?!」

「なんだ、あれは!!」

「妙な魔法を!」

「気をつけろっ!!」


ゲビルゲの戦士たちはリーベルタスが何かしたと思ったらしいが、犯人はコーディである。


『グォッ……ゴッ、カッ!』


喉の奥から籠った声をあげたのは、足を化石化されたリーベルタスだ。急降下していたが、突然の変化に驚いたらしく急に止まって空中にとどまっている。

魔法を使っているからだろうが、羽を動かさずに浮いていた。

その様相も相まって、まるで3D映像を空中に映しているように見える。


さきほどうっかりイメージしたものが影響したらしく、皆の視線の先には、足だけが黒っぽい骨になった半スケルトン状態のケツァルコアトルスができあがっていた。

「しまった。イメージに頼るとこういう失敗をしてしまうこともあるのだな」


反省したコーディは、今度こそとまた魔力を取り出してイメージする。

そういえば、博物館にはいくつもの化石のレプリカが展示してあった。翼竜系のものも多く、天井付近に吊ってあった。

確か、翼膜を形作る山の頂点の部分が手首で、そこについた爪のようなものが第一指から第三指、大きく伸びた骨は第四指だったはずだ。

さすがに、翼膜は化石化しないらしい。膜の痕跡が残る化石が見つかったというニュースは、比較的新しかったように記憶している。


―― 一度気が向いて行っただけだからのぅ。思い出すのに時間がかかる。全身を一気に変えるのは難しい。


仕方がないと切り替えたコーディは、リーベルタスの片羽だけに集中してイメージを固めた。

「今のは僕です!今度は向かって右側の羽根を石に変えます!」

宣言と同時に、コーディは魔法を発現させた。


『ギョァア!』

リーベルタスは、コーディに攻撃されたことはわかったのか、後退して避けようとした。

しかし、コーディの魔法は身体を作り変えるものなので、移動したところで何の影響もなかった。


「逃げるかもしれん!」

「援護しろ!」

戦士たちは即座に反応し、リーベルタスを逃すまいと魔法を放った。


上昇しようとしたリーベルタスの頭上に、土魔法で作られた岩がいくつも現れて落ちてきた。

雨のように岩が降る中、リーベルタスは一度態勢を立て直すつもりなのかゆっくりと地上に降り立った。


『グッギャア!!』

片羽と両足が化石になった四つ足で地面に立ったリーベルタスは、化石となった羽と足を地面に残してまた空気に溶けた。どうやら、思い通りにならない部分を捨てたらしい。

「くそっ、また逃げられるか!」


魔力の塊は先ほどよりもいくらか少なくなっており、再び現れたリーベルタスは一回り小さくなっていた。



読了ありがとうございました。

続きます。

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