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132 魔法青年は翼竜と対峙する

よろしくお願いいたします。



手の上で何らかの魔法を出すだけでも、人によって距離が違う。だから、『近くでしか魔法を発現させられない』『発現する場所は固定されている』というのは思い込みだ。

そう説明すると、ヴェヒターたちはもちろん、聞いていたほかの一族の戦士たちも微妙な表情になった。


「でも、走りながら魔法を発現することはできるでしょう?」

「それはまぁ」

「立ち止まっている人から見たら、移動しながら発現していますよ」

「……あぁ、確かに」


本人視点では自分の身体のそばで固定しているが、止まっている他人から見れば動いている。止まっていなくても魔法は使えるのだから、発現させる地点を動かしながら魔法を使うこともできるはず。

座標系が違うので厳密にいえば穴だらけの理論だが、コーディが実際に土塊を10メートル先で発現させたり、指先の動きに合わせていくつもの土塊を連続して出したりしてみせたところ、なるほどできると思ってくれたらしい。まさに百聞は一見に如かずだ。

次にリーベルタスが来るまでの間に、と休みつつ練習した結果、ウドとヤン、そして魔法が得意なほかの一族の戦士数名も、離れた場所で魔法を発現させることができるようになった。もしかしたら発現場所についても、今後論文にまとめた方がいいのかもしれない。


他の者たちも練習していたのだが、見張りの声により中断することになった。

「霊峰の方向、リーベルタス発見!!」

思い思いに練習したり休憩したりしていた戦士たちは、それぞれの持ち場に戻った。



風魔法を霧散する魔法陣は一人一枚ずつ配ったほか、土のシェルターにも貼り付けてある。目についた木の残骸や岩、形の残ったテントなどにも貼っておいた。魔力は順次込めている。

そのため、シェルターの隙間から攻撃するだけではなく、一部の戦士はテントや岩陰に隠れながら攻撃することになった。

コーディは、どうやらメインとして狙われているらしいので、あえて開けたところに陣取って迎え撃つ。


飛行されていては攻撃手段が限られるので、空から叩き落としたい。

真上から岩などを叩きつければ落ちてくるのではないか、ということで、ウドたちと協力して飛行しているリーベルタスの頭上から石や岩をぶつけることになった。先ほどの練習が生きるはずだ。


「来たぞ!」

「総員構え!!ケガ人は都度治療場所へ!!」

「「「「おう!!!」」」」

コーディが加わって攻撃と防御が増えたこともあり、ゲビルゲの戦士たちの士気が上がっていた。


リーベルタスは、今回は初めからコーディを狙って飛んできた。羽を広げた長さは20メートルを超えているだろう。もはや小型飛行機のようである。

先ほど口内をやられたからか、今度は嘴を開けずに嘴でつつくような態勢だ。

「コーディ!」

「引き付けて避けます!魔法はいつでも!」

「いける距離に入ったら順次当てろ!上からだ!」

「「落ちたら任せろ!」」


近接が得意な戦士達も、シェルターの入り口付近で武器を持って臨戦態勢である。

なかなかのスピードでやってくるリーベルタスの軌道はまっすぐなので、ちょうどいい(まと)である。

コーディがイメージするのは、霊峰の頂上にあった封印の岩だ。平たく大きな岩を、ちょっと前傾にして発現させる。まっすぐ飛ぶリーベルタスが思い切り頭をぶつけるという算段である。


魔法を使って飛んでいるなら、バランスを崩すことはあまりないかもしれないが、驚けばきっと魔法の制御も甘くなるだろう。

そこに畳みかければ落ちてくるはずだ。

武器を土魔法で覆えば、近接でかなりのダメージを与えられるはずである。


土魔法で武器を覆う魔法は、ウドを中心とした土魔法が得意な戦士たちが施した。

コーディが手伝っても良かったのだが、休むように言われたので彼らに任せた。

実のところ、転移してきたにもかかわらずそこまで魔力消費はなかったのだ。魔力の使い方のイメージが功を奏したのかと思っていたのだが、どちらかというと魔力の器が唐突に大きくなったのが原因らしい。

なぜそうなったのかはわからないが、イネルシャを倒してからだ。何か関連がある可能性もある。


気にはなるものの、頭の隅に追いやっておく。今は目の前のリーベルタスだ。


目算で200メートルほどの距離にやってきたときに、予定通りの平たくて大きな岩を出現させた。

突然目の前に現れた岩に驚いたリーベルタスは、避けようとして軌道を変えた。

しかしその動きは予想していたので、コーディはリーベルタスを追尾し、むしろ頭に向けて岩を斜めに落とした。


『ぎょぶっ!!』

舌を噛んだような声を上げて、リーベルタスはバランスを崩した。あのあたりには人がいないので、岩はその勢いのまま叩き落とす。

頑丈な頭蓋骨で岩を割ったリーベルタスは、ふらつきながらもコーディから目をそらさない。


先ほどの魔法がコーディの手によるものだと断じたらしい。

勢いを落としたリーベルタスは、それでも魔法を練るような気配があった。

「魔法がきます!」

「撃てる奴は撃て!!」

「「「おぅ!」」」


近づいてきたこともあり、遠隔で魔法を撃てる戦士たちがそれぞれに魔法を放った。

落とすことを念頭に置いているので、石というよりは岩ばかりである。それが、リーベルタスの軌道に合わせてどんどん落ちてくる。

一度は逃れるためか少し上昇しようとして、自らぶつかりにいくような形にもなっていた。


コーディも繰り返して魔法を使った。つららのように細長い形で速度を重視したものを落とすと、頭や羽を傷つけていく。

岩の雨を落とされたリーベルタスは、戦士たちの集まる場所に行きつく前にたまらず地上に降りた。

下降のしぐさを確認した途端に、近接が得意な戦士たちが土のシェルターから飛び出した。


土魔法で身の丈ほどの槍を作り出し、コーディも戦士たちを追って駆ける。

このあたりの森はリーベルタスが上半分を切り飛ばしたため、残った木の幹は邪魔なものの、視界は広い。

リーベルタスが降りた場所もよく見える。


一番初めに飛び出した戦士たちは、もう戦闘を開始していた。

あまりに大きいため戦いあぐねているのかと思いきや、いろんな方向からヒットアンドアウェイ方式で攻撃し、リーベルタスからの攻撃をうまく躱している。

しかしコーディがたどり着くまでに、目の前で戦士が2人丸呑みにされた。


「ちくしょう!返しやがれ!!」

「待て!慌てるな!確実にいけ!」

「腹を狙え!吐き出させるぞっ!」

「前に出過ぎるな!!」


ここにきて、ヴェヒターと、それ以外の一族の戦士たちとの差が出てきてしまった。

目の前で仲間が喰われたことにより、混乱して統率が取れずにばらばらになってしまうほかの一族の戦士。

一方のヴェヒターは、指示を出して落ち着かせようとしながらも、確実に攻撃を重ねている。

特に、以前よりも大きなハンマーをひっさげたヴィリの一撃は、着地しているリーベルタスの足にしっかり当たってぐらつかせている。ほかのヴェヒターたちも、羽や足を死角から狙っては距離を取るようにしていた。


魔法が得意な者たちは遠隔で攻撃していたものの、先ほどのような大きな岩を落とすことはできない。せいぜい注意をそらす程度の石しか飛ばせなかった。

接近戦を担う戦士たちにケガをさせるわけにはいかない。

風魔法で後押しして追いついたコーディの目の前で、また一人の戦士が呑み込まれた。


「足を捉えます!!」

宣言の直後に、コーディは魔力を引き出してリーベルタスを見据えた。

蝙蝠で言うところの第一指のような部分と、後ろ足の4本で身体を支え、ぐるぐると周りを威嚇しながら攻撃するリーベルタスが、一瞬立ち止まった隙を狙う。


近接の戦士たちの攻撃に気を取られていたリーベルタスが、自分に向かうコーディをみとめたその一瞬で十分だった。



読了ありがとうございました。

続きます。

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