131 魔法青年は情報交換する
よろしくお願いいたします。
送られてきた紙束の魔法陣は、土魔法の霧散とは少し違う文言になっていた。
ディケンズからの手紙によると、ルフェたち研究者が土魔法霧散の魔法陣をさらに改良し、風魔法に特化させることでよりコンパクトに効率よく霧散できるようになったものらしい。
それを、コピーの魔法陣を使って百枚以上も送ってくれた。
非常に助かる。
さらに、こうも連続して六魔駕獣が復活するなど何か関連があるに違いないということで、調査チームを魔塔で作ったと報告があった。そのため、何かわかることがあれば教えてほしいとも書かれていた。
コーディは、写真の魔法を使って上空を飛ぶリーベルタスの姿を映し取り、ディケンズに返送した。
魔法で刈り取られた木々の様子なども映して同封し、治療の魔法陣を送ってもらえると助かる、という手紙もつけておいた。
「あれは、なんといったか。頭が大きすぎて首の筋肉がやたらと発達していそうな恐竜で。確か、翼指竜だったか。プテラノドンよりも後の時代の、うーん?……あ、ケツァルコアトルス!そうじゃそうじゃ、あの不細工な鳥に似ておるの」
鳥ということは、食べたら美味しいのだろうか。
ふとそんな考えが頭をかすめ、そんな自分がおかしくなったコーディは思わず頬を緩めた。
おかげで、妙な身体のこわばりは解けた。
しばらく見ていると、ケツァルコアトルスあらためリーベルタスは、何を思ったか方向を変えて霊峰の方へと飛んでいった。
あの巨体が豆粒ほどになったところで、ゲビルゲの戦士たちが土のシェルターからぞろぞろと出てきた。
長も大きなシェルターから出てきて、コーディをみとめてこちらにやってきた。
「コーディ!どれだけ急いでここまで来た?疲れているだろう、少しの間にはなるが休むといい」
「いえ、そこまで疲れていませんので大丈夫です。それより、リーベルタスはどこへ?」
コーディと長のところに、ヤンやザシャ、ヴィリなどヴェヒターの戦士たちが集まってきた。
「奴は燃費が悪いのか、すぐに魔獣を喰いに行くんじゃ。一度は大きな熊を咥えて戻ってきて、丸呑みするのを見せつけてきおった」
「食べるんですね……。どれくらいで戻ってくるんでしょうか」
「そのときによるが、1時間から2時間くらいじゃ」
「わかりました。それなら、今のうちにこの魔法陣を全員に配っていただけますか?これは魔塔で作ったもので、風魔法を霧散させる魔法陣です。その土の家にも表向きに張り付けて魔力を込めておけば、リーベルタスの攻撃をある程度無効化できると思います」
「なんと、そんなものを?こんなにたくさん、貰い受けても良いのか?」
「えぇ、もちろん。その代わりといってはなんですが、リーベルタスと戦った情報などをいただけると助かります」
「それは当然のことじゃ。皆から聞いてくれ」
「わかりました。ありがとうございます」
「礼など、こちらが言うべきことじゃ。見張りを立てておるから、まずは気にせず休んでほしい」
長がそう言うので、コーディはうなずいて休ませてもらうことにした。
8人がリーベルタスの魔法で犠牲になったと聞き、取り急ぎ手だけ合わせてきた。
その後、石に腰かけて休みながら話すことになった。
「ヤン、そのケガは?」
「これはただの骨折だ。あの化け物は、地上に降りたら四つ足で走る。意外と動きが速くてな、追いつかれて嘴を避けたら跳ね飛ばされた」
あの姿でどうやって四つ足で走るのか謎だが、巨大なだけにやはり速いらしい。
戦士たちからは、いろいろな情報を得ることができた。
「戻ってくると、傷が治っているんですか?」
「あぁ。確かに石の刃であの羽を切り裂いて穴を開けたはずなのに、戻ってきたときには塞がっていたんだ。痕跡も何もなかった。もしかすると、魔法で治療できるのかもしれない」
そう教えてくれたのは、ウドだ。
彼は、土魔法で一番大きなシェルターを作った。そこに、ケガ人を収容しているそうだ。
戦闘はグループを作って順番に対応していて、先ほどは休憩になっていたのでケガ人の治療を手伝っていたという。
そして、土魔法で作ったシェルターは、リーベルタスの風の刃をなんとかしのげるとわかっている。小さなものは数回の攻撃で崩れたそうだが、風魔法の霧散の魔法陣を張り付ければもっと強固になるだろう。
「リーベルタスが使っているのは、治療とは少し違うかもしれません。実は、先に帝国に封じられていた六魔駕獣のイネルシャと戦ってきました。そのとき、奴の身体はなぜか魔力になって散っていったんです。戦いの途中で、イネルシャがケガをしたはずなのに、一度土に溶けると治っていることがありました。まだはっきりとは言えませんが、リーベルタスもイネルシャも、身体が魔力でできている可能性が高い。だから魔力を補充して、身体を補修していると思われます」
コーディがそう言うと、戦士たちは一様に顔をしかめた。
一瞬でケガを治してくる魔獣を延々と相手にするなど、こちらが疲弊して負けてしまう未来しか見えない。
「やっかいだな。空に逃げられるだけでもこちらの攻撃手段が限られるのに、我々が与えたダメージをなかったことにされるとなると」
ヤンが空を睨みつけながら言った。
「物理的な攻撃よりは、魔法攻撃の方が効くことは確かでしょう。でも、何とかして落としたいですね」
コーディの言葉に、ウドが答えた。
「コーディに教わった、羽に石を纏わせて飛べなくする方法も試したんだ。大きな羽だから数人がかりでやってみた。一時的には効いたが、すぐに石を壊されたし、羽の一部しか石をつけられなかった。それと、不思議なことに羽が固められても少し体勢を崩しただけで空を飛んでいたんだ。あれは、もしかすると魔法を使って飛んでいるのかもしれない」
それは、コーディの予想とも合致していた。
「そうかもしれませんね。だとすると、石を纏わせて羽を動かせなくしてもあまり意味はない可能性があります。……少し考えてみます」
「頼む。それから、さっきのコーディの攻撃について聞きたい」
「さっきの?あぁ、土塊を口の中に叩き込んだあれですね」
うっかりしていたが、コーディは初めて人前でアイテムボックスを使ってしまったのだ。
一瞬焦ったが、ウドは違う解釈をしてくれていた。
「やはり。あの口の中を発動の場所にしたのか。あんなに距離があって相手は動いているのに、どうやってピンポイントに当てたんだ?」
確かに、魔法を遠くで発動させるのは高等技術だといわれている。それは『自分の内側から魔力を取り出して使う』というこれまでの魔法のイメージからはとても難しい方法だろう。
それなら、そのイメージを覆してしまえばいいのだ。
確かに魔力は自分の器の中にある。しかし、物理的に身体の内側にあるわけではなく、魂に付随した存在だ。そして魔法は身体に密着せずとも発現できる。実は、人によって身体と魔法の発現地点の距離が違うのだ。1センチ先で発現させている者もいれば、30センチほど離れたところで発現させている者もいる。
つまり、発現させる場所に、魔法法則はない。
イメージさえできれば、アイテムボックスだろうと土魔法だろうと、飛び回るリーベルタスの口の中に発現させられるはずなのだ。
どう説明したらいいのかと考えた結果、コーディは端的に答えた。
「やったらできました」
その答えに、ほかの一族の戦士たちは首をひねり、ヴェヒターの戦士たちは目を瞬いてから苦笑した。
読了ありがとうございました。
続きます。