130 魔法青年はかけつける
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更新が遅れて申し訳ありません。
ひたすら閉じ込められた場所のすぐ外側で風を吹かせていたトリは、なんとなくこのまま続ければ外に出られるだろうことがわかって少しだけ機嫌を上向きにしていた。
相変わらず動けないし攻撃魔法は使えないが、何度も使ってみると攻撃するつもりでなければ強風でも発現できるとわかったのだ。
もはや外で動けた頃がおぼろげな記憶となるほどの時間、ずっと風の魔法を使い続けていると、いつもと違う風の動きから自分が封じられた場所の近くに小さい奴が来たことを知った。
思いついてそいつに攻撃しようとした魔法は、やはり形にならずに散ってしまった。
仕方なく、強い風を吹き荒らすだけにとどまり、すぐに小さい奴はすぐにいなくなった。
そのすぐあとに、またクモが意思を伝えてきた。
― 出れる!外に出る!押さえつけてる石を動かしたらいけた!外に出て遊べるよ!重い石が一番邪魔だから、そいつをどければ出られるよ!みんな出てきて遊ぼうよ!
イラっとした。
あのクモは外に出て遊べることが嬉しいらしい。
しかし、その内容を考えると、どうやら大きな存在はみんなどこかに閉じ込められているのかもしれない。
返事などしなかったが、自分を封じている石のうち重いものを動かすという方法を教わったので、やはり外に出て餌が余ったらわけてやろうと思った。
自分を閉じ込めているもののうち、重い石があることは知っていたので、それに重点的に風を当てた。
積みあがった石の中にも重いものが混ざっているようだったので、うまく風を当ててごろりと落とした。
コツがわかれば早い。
斜め下から風を当ててごろんごろんと石を転がすごとに、自分を押さえつける魔法が薄らいでいくのがわかった。
ここまでくれば、急いで失敗するよりは確実に一つずつ崩していきたい。そう思っていたら、またクモの魔力が感じられた。
しかし今回は、意思を伝えるようなものではなかった。
ただただ、クモが抱えていた魔力である。
それが、うっすらと広がってここまでやってきたのだ。
小さな奴らはトリたちとは違い、物質でできた身体を使っている。あれはいつも重そうだと思っていた。
一方、トリたち大きな存在は、ほとんど魔力の塊である。魔力の身体といっていいだろう。魔法として使う魔力とは別のもので、何となく存在ごとに個性のような違いがあるのだ。だから、それがクモの魔力だとわかった。
クモの魔力がここまで広がってやってきたということは、奴は砕け散ってしまったらしい。きっと遊びすぎて失敗したのだろう。
いなくなったのなら、もう餌を分けなくてもいい。
そういえば、散ってやってきたクモの魔力がそのままなら、トリにも食べられるかもしれない。
放置しておけばそのまま魔力として還るだけなのだ。その前に捕食したい。
トリは、急いで石を動かすべく風を強めた。
自分の魔力も以前と同じくらいの大きさに戻ってきたし、本気でやればこれくらいちょちょいである。
ごろんごろん、と重い石を転がして落とせば、最後までトリをここに縛り付けていた魔法がふっと消えた。
久しぶりに見た外は、閉じ込められたときとあまり変わりはなかった。よく覚えていないが、ごろごろと岩の転がる高い山だったことは記憶している。
外の空気が気持ちいい。
その解放感に、溜め込んでいたいら立ちを再燃させた。
ゆらりと適当に空を飛び、風と戯れてから、目についた森に向かって特大の魔法を放った。
見える範囲の木を刈り取ると、ついでに小さな動物もいくらか狩ることができた。
その中でも比較的大きかったらしいものに目をつけて、何体もついばむ。生きている奴はめんどうなので、一息ついてからでいいだろう。
まずは、小さい奴らが集まっているところを目指した。小さい奴らは一体だけいるよりも、たくさんいる方が狙いやすいのだ。
このあたりにはいくつも集団がいたが、とりあえずは一番近いところにいる奴らでいいだろう。
都合の良いことに、近いところに集まっている小さい奴らは魔力が多いようだ。
久しぶりの魔力補給に思いをはせ、トリは滑空した。
◇◆◇◆◇◆
ゲビルゲに入ってすぐ、コーディは手紙を受け取った。
アイテムボックスに届いたそれを手に出すと、荒い紙が折りたたまれただけの既視感ある手紙だった。空を飛びながら手紙を開き、内容を確認してすぐに地面に降り立った。
「転移していこう。急がねば」
もう8人が犠牲になり、手や足を失った者もいるらしい。
この距離なら、魔力はあまり使わずに転移できるはずだ。
ふと思いついたコーディは、ディケンズに走り書きしたメモを送った。
ヴェヒターのテント群があった場所は、数日過ごしたのでよく覚えている。
イメージを固め、ついでに一瞬の発動なので魔力消費が少ないという思い込みもしておく。
森の中の少し開けた台地、霊峰が見えるあの風景を思い描き、コーディは一気に転移した。
転移した先は、様変わりしていた。
周辺の木々は上半分が切り取られており、テント群はかろうじて形が残っているものがいくつかある程度で、代わりに土の四角い家のようなものがいくつか並んでる。
ヴェヒターやほかの一族の戦士たちが、土魔法で作ったらしい家の隙間から、土塊や石の槍を上空に向かって投げている。多分、あの武器も土魔法で作った物だろう。
上空には、恐竜がいた。
「コーディ?!」
すぐに気づいたのは、ヤンだ。応急処置だけしたのか、左腕に布がぐるぐると巻かれていて、添え木もしてある。
その向こうには、ほかの一族の戦士と一緒に戦っているザシャも見えた。
「遅くなりました!加勢します!」
「頼む!やつは、たまに何もかもを切り倒す魔法を使ってくる!それ以外は、滑空してきてあの嘴や足で攻撃する!」
「はい!」
リーベルタスは、しばらくゲビルゲの戦士たちを狙って滑空しては魔法でやり返されていた。
しかし、コーディを目にしたとたん、目標をコーディ一人に絞ったようだった。
基準は不明だが、コーディにとっては好都合である。
びゅぅん、と降下してきたリーベルタスは、コーディに向かって5メートルはある嘴をがばりと開いた。
その口内は、イネルシャと同じように内向きの牙のようなものがずらりと一面に並んでいた。どうやらペンギンなどと同じように、獲物を丸呑みにするタイプらしい。
頭が大きすぎる上に首が長い。バランスの悪い身体でどうやって飛んでいるのか謎だが、あまり羽ばたいていないのでかなりの魔力で補助しているのではないだろうか。蝙蝠のような飛膜の翼は、空気をはらんで丸くなっていた。
迎え撃とうとするコーディの視界の端に、ウドが四角い家からこちらを覗いているのが見えた。
そして彼と戦ったときのことを思い出した。
アイテムボックスに、あれをしまい込んだままである。
細かいことを考えるよりも先に、コーディはアイテムボックスに入れてあった土塊を取り出した。
取り出す先は、リーベルタスの嘴の間。
そして出てきたいくつもの土塊は、取り込んだときの勢いのままに、リーベルタスの上あごを直撃した。
『ガッ!!ギャ!ギャギャ』
突然口の中を土塊で攻撃されたリーベルタスは、バクン、と口を閉じてすぐに土塊を吐き出した。
口内が傷ついているようなので、小傷ながら効いたらしい。
「まぁ、お前さんにとっては砂みたいなもんじゃろうな」
構えたコーディの目の前で、リーベルタスは急旋回して上空へ逃れていった。
同時に、アイテムボックスの中に手紙が届いたのを感じた。
空から目を離さずに手紙を取り出し、さっと目を通す。
「さすが、魔塔の研究者じゃの」
コーディの手には、手紙のほかに同じ魔法陣が描かれた紙束があった。
読了ありがとうございました。
続きます。