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124 魔法青年と巨大蜘蛛の攻防

よろしくお願いいたします。



大きく広げた足から出された糸は、コーディを包囲するようにしながら向かってきた。

コーディは、水魔法をすべての糸に向かって放ってから斜め前へ踏み込んで逃げた。

ちらりと振り返ると、先ほど立っていた場所へ、コーディの背中側の地面から出た足が振り下ろされていた。

数が合わない。


本体がすべて地上に出たと思ったらほんの少しだけ魔力が地中に残っていたので、その位置はずっと把握していた。

姿を現すことで油断させて不意打ちするつもりだったらしいが、見えているようなものなのでコーディにとっては特に問題なかった。

「ギッギッギィ」


イネルシャは、足をバネのように弾ませてゆっさゆっさと胴体を上下させた。

この戦いを楽しんでいるのかもしれない。ずっと闘気や圧力は感じているのだが、悪意のようなものはない。

殺気もほとんどないが、先ほどの攻撃は命を刈り取るためのものだ。あの手の攻撃を騎士たちにしていれば、きっと30分ともたずに全滅させられただろう。

イネルシャは、幼子が蟻を踏むような感覚で人を屠るのだ。


普通の魔獣よりは思考力が高そうに見える。しかし意思疎通はできそうにない。

この状態で捕らえたとして、赤い石は破壊されているし、古代魔法王国時代に作られたのと同じレベルの封印をすぐに作るのは難しい。それに、封印したところで問題を先送りしただけなので、解決にはつながらない。

コーディはゆっくりと息を吐き出し、気持ちを切り替えた。


―― 倒す、ではない。狩る。


ぐ、と姿勢を落としたコーディの気配が変わったのがわかったのか、イネルシャが足を二本持ち上げた。それと同時に、また地中に魔力が広がった。

どうやら、溶け込むことなく土の中で魔法を使えるらしい。

風魔法をまとい、コーディはイネルシャに向かって飛び込んだ。


途中で、イネルシャが魔力を広げていた部分の地面を蹴った途端、その地面がボロリと崩れ落ちた。

落とし穴である。

ちらりと見降ろした先には、綿と見まがうほどに糸が張り巡らされた穴があった。


「色々考えたもんだな」

風魔法を使っているコーディは、走っているというよりは地表を飛んでいる状態だったので、落とし穴の上を通り抜けた。ついでに、落とし穴を土魔法で埋めておいた。

両手に木のナイフを持ち、イネルシャに迫る。


先ほどとは違い、イネルシャはコーディの間合いに入らないように、ひょいと跳んで逃げた。

魔法で跳躍力を増幅しながら地面を蹴って追いかけ、木のナイフを節間膜に押し込んで離脱。

すると、イネルシャは刺さったナイフをそのままに足だけを溶かした。木のナイフはボトリと落ち、そしてケガのない足が再生された。


「なるほどなぁ。身体を魔法で作っているならそうなるか」

再生した足を地面につけたイネルシャは、ひたすら攻撃しだした。


コーディに反撃する隙を与えないためか、イネルシャの攻撃の手が止まらない。

石礫は常に飛んできて、糸もどこからかコーディを絡め取ろうとする。安定した足場はすぐに砂と化し、硬い地面は崩れて蜘蛛の巣の罠に落とそうとする。鞭のように叩きつけようとする糸を躱すと、後ろにあった岩が切り裂かれた。

集中力を高めてすべて避けていたが、イネルシャが魔法に込める魔力も上がってきている。どうやら、あちらも本気でコーディを倒しにかかってきたようだ。






隙をみて反撃しながらも、イネルシャの攻撃をいなし続けていると、さすがにいくつか小傷を負った。地面は見える限り穴だらけでぼろぼろになっている。

自分の攻撃が通じないためか、イネルシャにイラつきと殺気が感じられるようになった。

『待たせた!準備できたぞ。こちらへ誘導してくれ』

「わかりました!誘導します!」


コーディは、イネルシャに向き合ったままひょいとジャンプしてテント群の方向に着地した。

「ちょいとあっちへ移動せんか?そろそろ疲れてきたしな、交代ってことじゃ」

言いながら、たんたんたん、と軽く身体を弾ませながら移動した。


それを見たイネルシャは、ゆぅらゆぅらと左右に身体を動かしてから、コーディを追いかけるように動き出した。

ゆっくり動き出したが、イネルシャの一歩は大きいのでコーディは魔法を使って走ることになる。イネルシャが追いつこうとするので、誘導したいだけのコーディも追いつかれまいとスピードを上げた。


しばらく走ると、待ち構えているディケンズと騎士たちが小さく見えた。

人間ではありえない速度で走ってくるコーディと、その後ろから追いかけてくるイネルシャを見て、彼らは慌てて走り回った。そして、来てほしいらしい場所へと誘導するように手を振った。

多分、あそこに拘束用の木魔法の魔法陣を用意しているのだろう。


『コーディ!準備はできている!こちらに誘導を!このあたりに、一秒でいいので立ち止まらせることはできるか?』

通信魔道具から、ディケンズの声が聞こえた。

「わかりました!あと1分ほどで到着します!できれば、魔力だけの状態で待機を!」

『準備済みだ!気にせずまっすぐ来い!』

「はい!」


後ろからはドスドスドスドスと土をえぐる音が追いかけてくる。たまに視界の外から石礫が飛んでくるのを避けながら走り、コーディはイネルシャを誘導した。

指定された場所は、ディケンズやギユメットのほか、魔塔の研究者たちが取り囲んでいたのですぐにわかった。

魔法陣は、地面には直接描かれていない。しかし、周りにいる人たちからは魔力を感じるので、直接地面には描かず、工夫しているのだろう。


イネルシャが追いつく寸前、コーディは予備動作なく垂直に飛んだ。


突然空に向かって飛び上がったので、イネルシャは思わずコーディを目で追って見上げ、立ち止まった。


もちろん、その時間を無駄にする彼らではなかった。

瞬時に魔法陣が展開され、地面から木の根のようなものが何本も勢いよく伸びてイネルシャの身体やすべての足に巻き付いた。そのまま持ち上げるようにして、空中で拘束した。

イネルシャは動こうとしても動けず、魔法を使おうとしても不発に終わっていた。土魔法の霧散の魔法陣がきちんと働いているようだ。


「切ります!」

コーディは上空から叫び、両手に持ったナイフを逆手に構えた。

狙うのは、ディケンズから見えている足の節間膜だ。


ほぼまっすぐに落ちるように飛び、その勢いも利用してイネルシャの足を切りつけた。

「寄生魔法を!」

「コーディ!こっちも頼む!」

ディケンズに向かって言ったコーディに呼びかけたのは、ギユメットをはじめとした研究者たちだ。彼らは、ディケンズとは反対側に集まっていた。


「こちらからも寄生型の植物を埋め込む!切ってくれ!」

「はい!」

コーディは瞬時に動き、そのまま彼らに近い方の足を切って落とした。もし土に触れて魔法を使われても困るので、地面に落ちる前にアイテムボックスに放り込んだ。


ディケンズはすでに魔法を発現させており、ギユメットたちもすでに準備を終えたようだ。彼らは無理に近づかず、距離を置いている。

コーディはそのままもう一度飛び、今度は頭と腹の隙間にナイフを滑り込ませた。

「ギギッギギギギ」

イネルシャは身体を動かそうとしていたが、拘束されていないのは口元ぐらいだったので、上に乗ったコーディが少し揺れを感じる程度にしか動けなかった。その口からは、消化液だろう液体がボトボトと零れていた。これもアイテムボックスにしまう形で回収していった。



鋼であったころ、仙術や神仙武術などのほかにも医学や科学など、様々なことを学んできた。その中で漢方薬に興味を持ち、薬効のある植物を育てることを生業とした時期があった。

ついでに漢方薬の色々な素材について学び、興味深い植物が色々あるものだと知った。

そんなものが薬になるのか、と不思議に思うものも少なくなかった。


冬虫夏草。


それは、虫に寄生し養分を奪い取って育つキノコだ。

地中に巣を作る蜘蛛に寄生するタイプの冬虫夏草もあると聞いたことがある。


キノコは菌類だが、魔法はイメージである。キノコを植物の一種と分類してしまえば問題ない。分類など人の勝手な仕分けなのだ。

自らの身体で動くものが動物、根付いて動かないものが植物。

植物は、木の仲間。

すなわち、キノコも木魔法。


一瞬でイメージを固めたコーディは、木のナイフを通してイネルシャの内部へと魔法を叩きこんだ。



読了ありがとうございました。

続きます。

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