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119 魔法青年と巨大蜘蛛の対面

よろしくお願いいたします。



ソレは、気がついたときには暗いところで動けなくなっていた。

拘束されているなら動けるようにしようと周りに攻撃魔法を撃ってみても、何も起こらない。足一本すら動かせないにもかかわらず、ソレは消えることなくそこにあった。


使える魔法を手当たり次第に撃とうとしているうちに、ソレを拘束しているものが特殊な石であるとわかった。

石であれば、自分の魔法で扱える。

感じ取れる場所にある石に様々な魔法をかけてみたところ、形を崩そうとする魔法が一番良さそうだった。ただ、石なので時間がかかってしまう。

しかも、ソレを拘束している何かは自分から魔力を吸い取って維持されているということがわかった。こんな風に小賢しいことをするのは、いつまでも諦めずにソレに戦いを挑んできた小さな生き物だろう。奴らは、一人ずつの魔法こそ脆弱だったが、なぜか集まるととんでもない魔法を作ってぶつけてくることがあった。


特に、どうやったのか魔法を後から発現できるらしい何かは面白い方法だと思った。

ソレが魔法を使うときには、自分の近くにある魔力の塊からほんの少し魔力を取り出してすぐに魔法にする。

小さい生き物たちが普通に魔法を使うときには、へたくそなので使える魔力をたくさんこぼしながら発現させている。しかし、奴らがよく分からない何かを使って魔法を発現させるときは、奴らの魔力があまり無駄にならないのだ。


何かを使う小さい生き物たちで遊ぶのはとても楽しかった。

ソレと似たような大きな存在のことは知っていたが、彼らもやはり小さい生き物で遊ぶのが好きなようだった。



拘束されてから少し時間が経つと、石を崩すのが難しくなった。また小さい生き物が何かしたのかもしれない。

けれども、難しいだけで崩せないわけではない。

ソレに寿命などない。体の劣化などあってないようなもの。つまり、いつまでかかっても構わなかった。

のんびりと石を崩せばいいのだ。


そうしてどれくらいの時間が経ったのかわからなくなり、小さい生き物たちで遊んだ記憶もおぼろげになったころ、ふと思いついて試した魔法があった。

暇にあかせて新しく作ったのは、土の表面の状態を探る魔法だ。土がつながっていればどこでもわかるので、場合によると目で見るよりもよくわかるし、遠くまで把握できた。

その魔法で地上を感じてみると、昔ソレが遊んでいたときよりも、小さい生き物が増えてあちこちに散らばっていた。


土を通して遠くまで見ていると、ソレと似た存在が同じようにあっちこっちで閉じ込められていることに気が付いた。彼らはひたすらに怒り狂っていて、ソレが意思を伝えようとしても聞きそうになかった。

動けないなら、動けないなりに遊べばいいのに。

誰も聞いてくれそうにないので、ソレは自分の持つ情報を伝えることをやめた。


さらに時間が経って、突然変な奴が来た。

地面からいなくなったと思ったら、別の場所に出てくるのだ。

ソレと似た存在にもいる、空中を動ける奴なのだろう。いままでの小さい生き物にはいなかったが、突然できることが増えるのはよくあることだ。


ソレは、あの変な奴と遊ぶことを想像してうきうきした。

拘束する石に何かをしていたが、ソレにはよくわからなかった。


小さい生き物は、すぐに死ぬ。

だから、あの変な奴と遊ぶなら早く出ないといけない。


ソレは、目的を得たために自分を拘束する魔法陣を一気に破壊した。

外に出たのは久しぶりすぎて、ゆっくりと足を動かしてみてもぎこちない。外へ出たことに一番初めに気づいたのは、ソレと似た存在だった。どうやったのかというイメージが飛んできたので、攻撃ではなく魔法で石を崩しただけだと全員に伝えた。聞いてこなかった存在にも伝えた気がするものの、どうでもいいのですぐに忘れた。

これ以上ほかのことに気を取られたくなくて、ソレはぐるりと周りを見渡し、変な奴を探すことにした。





◇◆◇◆◇◆( )





コーディたちが到着したときには、60人ほどが三手に分かれてイネルシャを囲むようにしながら戦っていた。どこかのチームが攻撃されて耐えているときに、別の側から攻撃するのだ。

自分たちの戦力を理解した、堅実な方法だ。

しかし、イネルシャは全長が15メートルほどあり、1本の足は5メートルを超えるのため、胴体部分に近づくことができない。動きが素早いうえに、殻も硬い。剣で攻撃しているが、殻に少し筋を入れている程度である。


残りの軍人は、休憩しつつケガをした人と入れ替わったり、イネルシャの糸が取れなくなった人から糸をはがしたり、けが人をテントへ連れて行ったりしていた。

イネルシャは糸を吐くこともあるが、基本的には8本の足で攻撃している。しかし見たところ、その攻撃に殺気が感じられない。完全に遊んでいるように見える。

対して、騎士たちの方は空気が痛いほど張り詰めていた。


「待たせた!我々も参戦する。午後には、魔塔の他のメンバーもやってくる。もう少し耐えてくれ」

ディケンズが、全体の指揮をとっていた副隊長にそう言った。見回しても、隊長は見当たらない。

「助かります!できれば、どこかのチームに参加してください。もしくは、彼らから攻撃の目をそらすための遊撃でもかまいません」


必死な表情の副隊長に、ディケンズとコーディはうなずいた。

「わかった。ところで、隊長殿は?」

そう聞くと、副隊長はぎゅっと唇を噛んでテントの方を見た。


「最初にあの蜘蛛を発見した騎士が、真っ先に狙われたのを庇って……奴の糸に絡めとられて足をもっていかれました。まだ意識はありませんが、命はなんとか」

「ほかの被害は」

「腕や足を失った騎士が数人、骨を折ったり切ったりといった大ケガは十数人。あと1時間は持ちそうですが、それ以上は厳しいでしょう」

そう言う副隊長も、鎧の首元から包帯が見えていた。


「わかった。ケガ人のいるテントにこの魔法陣を設置してくれ。本人の魔力を少し使うが、自然治癒力が上がる」

「なんと!ありがとうございます。すぐに設置させます」

副隊長は、近くにいた兵士に説明しに走った。そのまま持っていかせるのだろう。


「でかい虫じゃの」

ディケンズは、イネルシャの動きを観察しながら言った。本当に、大きなジョロウグモにしか見えない。

「はい。僕は飛行魔法で上から遊撃します。土魔法の霧散の魔法陣は、盾役に持ってもらいましょうか」

「そうじゃな。……聞いておったか?この魔法陣は、あの蜘蛛の魔法を霧散できる。魔法攻撃を受ける盾の奴らに持たせてやってくれ。あちらには、ワシが持っていく」

戻ってきた副隊長にディケンズがそう言うと、彼は驚きに目を見張って魔法陣の紙束を受け取った。


「そんなものがあるんですね。助かります。これだけでも、けが人が一気に減るでしょう」

「まだこの5倍は持ち込んでいますから、盾役にいきわたったら攻撃役の人にも渡してください」

コーディが言うと、副隊長は何度もうなずいた。

「こちらは頼む。では、行くかの」


ディケンズの言葉にうなずき、コーディは空からイネルシャへ向かって飛んだ。

そのとたん、イネルシャの攻撃が止まった。

ぐるりとイネルシャの周りを巡るように飛ぶと、ばらばらと8本の足を動かしてなにやら体勢を整えだした。


そして1本の足をコーディに向け、一気に糸を噴出した。



読了ありがとうございました。

続きます。

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