第58話 願い
『……待っていたぞ、人間』
裏ダンジョンの地下6階。
そこに下りると、正面には骸骨が鎮座していた。
「ようやくお前に再会できたよ。お前のおかげで俺はここまで強くなれたんだから、お礼を言うべきなのかな」
『……そんなものはいい。それより貴様はだいぶ強くなったようだ。我と戦うに値するほどにな』
「なあ、お前が最後ってことでいいのか?」
『……そうだ。この裏ダンジョン最後のボスが我だ』
骸骨はそう言いながら玉座のような椅子から立ち上がった。
「一応訊くが、お前を倒したら何かもらえるのか? それともまた、変なドロップアイテムか?」
『……ふっ、今から勝った時の話をするとはずいぶん余裕ではないか。まあいいだろう、教えてやる。もし我を倒せたならばこのフロアにさらに地下へと続く階段が現れる。それを下りていけば世界樹に対面することが出来るだろう』
「世界樹……?」
ゲームなどではよく耳にする単語だが、いまいちわからないので問いかける。
『……世界樹に願いを言えば、どんな願いでも一つだけ叶えてくれるはずだ』
「どんな願いでも? 本当かそれっ?」
『……ああ。とはいえ我に勝てればの話だがな』
「そうか。そういうことなら俄然やる気が出てきたぞ。悪いけど最初っから全力でいかせてもらう! オーバーリリースっ!」
◆ ◆ ◆
「はぁ、はぁ、はぁっ……」
『……ふぅ、ふぅ、ふぅ、ふぅっ……』
戦いは熾烈さを極めた。
ステータスを倍加させた俺と骸骨の実力は五分と五分だった。
『……ふぅ~……さすがだ。我とここまで戦えるとはな……』
「はっ、お、お前こそ、バケモンかよ……ったく……はぁはぁ」
こっちはオーバーリリースでステータスを倍にしてるんだぞ。
そんな俺と互角だなんて……冗談じゃないぞ。
俺のオーバーリリースは制限時間が5分と限られている。
しかも一日に使える回数はたったの二回だけ。
さっきのグレイテストドラゴン戦で一度使っているため、もう使用できない。
そして効果の残り時間はあと数十秒もない。
明らかに分が悪い。
「はぁはぁ……まいったな、くそ……」
『……ふふふふ……見たところどうやら貴様は手詰まりのようだな……どうする? 逃げてもいいんだぞ』
「はぁ、はぁ……ふ、ふざけるなよ……やってやるさ……やってやらぁぁーっ!!」
俺は最後の力を振り絞り渾身の一撃を繰り出した。
それに対し、
『……うおおぉぉぉぉー!!』
骸骨は避けるでもなく真っ向勝負で俺を向かい討つ。
両者の右こぶしが激しくぶつかり合った。
――今思えば、骸骨は俺のオーバーリリースが切れるまで逃げて時間を稼ぐことも出来ただろう。
だが骸骨はそうしなかった。
そして結果的にそのことが勝敗を決した。
『ぐあぁぁっ……!!』
正真正銘、俺の最後の一撃は骸骨の骨を粉砕した。
そしてそのダメージは全身へと波及し、骸骨は頭部だけを残してボロボロに砕け散った。
「はぁはぁはぁはぁ……」
『……見事だ人間よ。我の負けだ……』
「はぁはぁはぁっ……俺の方が息が切れてるけどな、はぁはぁ……」
俺は骸骨を見下ろしながらなんとか声を出す。
『……一つ訊いてもいいか……?』
骸骨はぽつりと口にした。
「はぁはぁ、ああ……なんだ……?」
『……貴様の名はなんというのだ? 我を倒した人間の名だ。是非知っておきたい』
「ふっ……俺の名前はな、はぁはぁ……木崎賢吾だ……はぁはぁ」
『……ケンゴか……いい名だ。出来ればケンゴには我の名も憶えていてほしい……』
「……ああ、いいぞ……」
俺が返すと、骸骨はゆっくりと口を動かした。
それはとても弱々しい声音だったが、はっきりと聞き取れた。
そしてその言葉が骸骨の発した最後の言葉となった。
「……はぁ、はぁ……安らかにな、リッチ・ザ・ナイト……」
◆ ◆ ◆
骸骨が消え去ったあとには、宝箱が一つ置かれていた。
俺はそれを開け、中身を確認する。
だがやはりそのアイテムも俺の見知らぬものだった。
「はっ、またか……」
俺はそのまんじゅうのような食べ物らしきアイテムを無造作にポケットの中に突っ込むと、
「さてと……それじゃあ、世界樹ってやつのもとに向かうかな」
階段を探すためボロボロの足を引きずって歩き出す。
そして数分後――
みつけた階段を下りた先には、神秘的なまでに神々しい輝きを放つ大樹がそびえ立っていた。
「これが世界樹……すごいな」
思わず時間を忘れ見惚れてしまう。
「おっと、願いを言わなきゃな……」
我に返った俺はどうしても叶えたい願いを口にする。
「世界樹よ、俺の願いはただ一つだけだ」
世界樹を見上げ、
「ベビードラゴンのベビーを生き返らせてほしい。頼む」
心の底から祈りをささげた。
「……」
だが何も起こらない。
やはり死んだ者を生き返らせるのはさすがに無理なのか……。
俺が諦めかけたその時だった。
『あれ? おいら、こんなとこで何してるんだろ』
聞き覚えのある、それでいて懐かしい声が降ってきた。
「べ、ベビー……?」
見上げると世界樹の枝の上にベビーがちょこんと座っていた。
『あっ、マスターだ……っていうか、あれ? おいら死んだはずじゃ……う~ん、どうなってるんだぁ?』
「ベビー、ベビーっ!」
俺は跳び上がるとベビーを強く抱きしめる。
体中ボロボロだったが、そんな痛みなどどこかに吹っ飛んでしまっていた。
『マスター、なんで泣いてるのさ。ねぇ、ここってどこなの? おいら、どうなったの? ねぇマスター』
「ベビー、ベビー、ベビーっ!!」
――我ながらみっともない話だが、このあと俺は数分間、ベビーを抱きながらただ号泣し続けたのだった。




