第36話 未知のモンスター
俺の正面にそびえ立つそのモンスターは、手に持った大きなヤリを高々と掲げ、俺を見下ろしている。
「なんなんだ、このモンスターは……?」
初めて遭遇する巨大なモンスターに思わず息をのむ。
するとその時、
『人間臭いと思って来てみれば、本当に人間がいやがるじゃねぇか』
そのモンスターがおもむろに口を開き、人間の言葉を発した。
俺はそのことに驚き唖然となる。
『なんで人間がこんなとこにいるんだぁ?』
「お、お前、喋れるのかっ?」
『なに当たり前なことを言ってやがる。ここにいるモンスターはみんな喋れるぜぇ。もちろんこのオレ、ミノケンタウロス様もなぁ』
自分のことをミノケンタウロスと名乗ったそのモンスターは、興味深げに俺を凝視していた。
『お前こそ、なにもんなんだぁ? 人間風情が足を踏み入れていい場所じゃねぇぜ、ここはよぉ。一体どうやって入ってきたんだおい』
「骸骨みたいなモンスターだ。そいつにこのホイッスルを渡されたんだ」
ミノケンタウロスの問いかけに答える必要もなかったのだが、俺は今の状況を少しでも把握したいがために、ホイッスルを見せながらそう返事をしてやった。
『骸骨みたいなモンスターだぁ? 知らねぇな。なんだそりゃ。でもそのホイッスルは気になるからオレ様がもらっといてやるぜっ』
そんなことを言うとミノケンタウロスはヤリを素早く振り下ろしてきた。
俺はとっさに横に跳んでそれを避ける。
は、速いっ。
紙一重だった。
あとほんの少しでも反応が送れていたら、間違いなく当たっていた。
俺は胸の鼓動が早まるのを感じた。
『なんだお前、人間にしては結構速く動けるんだなぁ。オレ様の攻撃を避けるなんてな、褒めてやるぞっ』
ミノケンタウロスは地面を蹴って俺に向かってきた。
巨体のくせに動きがかなり速く、その素早さは俺と同程度だと思われた。
『おらおらぁっ』
「くっ」
目にもとまらぬスピードでヤリの連続攻撃が襲い来る。
俺はそれをなんとか避けつつも、すべては避けきれず、それらは腕でガードをしてダメージを最小限に減らす。
『やるじゃねぇかっ。だったらこれならどうだっ!』
「ぐあっ……!」
俺と同程度だと思っていたミノケンタウロスのスピードがさらに上がった。
俺はその攻撃をどうにか腕でガードしたものの、後方に吹っ飛ばされてしまう。
ものすごい勢いのまま俺は壁に激突した。
「うぐっ……マ、マジかよ……」
膝に手をつきながら立ち上がるが、身体は今の一撃でかなりのダメージを負ってしまっていた。
ミノケンタウロスとやらは、これまで俺が出遭ったどのモンスターよりも圧倒的に速く、そしてとてつもない強さだった。
『おいおい、ちょっと本気を出したらもうついてこれないのかぁ? やっぱり人間は所詮そんなもんか』
挑発的な言葉を浴びせてくるミノケンタウロス。
正直そんな挑発に返事をしてやる余裕すらない。
俺は手を前に伸ばすと重力操作のスキルを発動させた。
「グラビティハントっ!」
『うおっ、なんだぁ!?』
その途端にミノケンタウロスに見えない力が重くのしかかり、動きが遅くなる。
「今だっ」
俺はその隙を逃さず、飛びかかっていき、
「ホーリーエッジ!」
光属性の斬撃をミノケンタウロスの顔面にくらわせた。
『ぬあぁぁっ……!』
ミノケンタウロスの額から血が噴き出る。
それを自身で確認して、
『な、くそがぁ……人間ごときがオレ様に血を出させただとぉ……うぬぬぬぬ、おのれぇっ!』
ミノケンタウロスは明らかに激昂した。
髪の毛や全身の体毛が逆立ち、その気迫たるや、大気が震えているようだった。
「う、嘘だろ……今の一撃は俺の全力だぞ。なのに……」
見た感じではミノケンタウロスの額が少し裂けた程度で、大したダメージは与えられてはいないようだった。
むしろただ怒らせただけのように見える。
『殺す殺す殺すころすコロすコロす殺ス殺してやるっ!!』
歯ぎしりをしたあとミノケンタウロスが大きく吠えた。
その瞬間、俺のグラビティハントの効果が解けた。
そしてミノケンタウロスが俺を射殺すような目でギロリとにらみつけてきた。
『覚悟はいいなぁ、人間っっ!』
「マ、マズいぞ……こ、殺されるかもしれない」
俺はごくりと生唾を飲み込んだ。




