第13話 白金の大迷宮
ダンジョンを出た俺はそこに集まっていた大勢の人たちからカメラを向けられた。
だが、疲れを理由にそれらを避けつつ俺は足早に公園を去る。
ベビードラゴンのベビーに関しては、ぬいぐるみだと思ってもらえたようで特に追及はされなかった。
家に到着すると母さんが慌てた様子で玄関に駆け寄ってくる。
何事かと訊ねたところ、
「あんた、ダンジョンの所有者になったってホントなのっ?」
と身を乗り出して訊き返してきた。
さては、結衣さんから聞いたな。
「ああ、そうだよ」
返すと、
「そうだよ、じゃないわよっ。なんでそんな大事なこと黙っていたのよっ」
母さんは言葉を浴びせてくる。
どうでもいいけど結衣さんといい、母さんといい、どちらも声が大きいな。
近所迷惑にならないか心配になるくらいだ。
「ところであんた、そのぬいぐるみは何?」
「いいだろ別に。それより俺、バイト辞めてこれからはダンジョン探索するから。じゃ」
それだけ言うと、まだ何か話している母さんの横をすり抜け、俺は二階の自室へと駆け上がった。
部屋に入ると鍵をかけてベッドに腰を下ろす。
そして腕の中に抱いていたベビーを放してやった。
『へー、ここがマスターの住んでいるところなんだね』
ベビーは『んーっ』と伸びをしつつ、俺の部屋を見回す。
「ああ。ぬいぐるみのフリさせて悪かったな」
『えっへへ、おいら気にしてないよ。おいらみたいに人間の言葉を喋れるモンスターがいたら、みんなびっくりしちゃうもんね』
とベビー。
理解のあるやつで大いに助かる。
そこでふと俺は骸骨の存在を思い出した。
「なあベビー。俺さ、あのダンジョンでお前みたいに人語を操る骸骨みたいなモンスターに遭ったんだけど、お前そいつのこと知ってるか?」
ベビーはあのダンジョンについて何でも知っていると豪語していたので、訊ねてみる。
『人語を操る骸骨みたいなモンスター?』
「ああ。知らないか?」
『うん。おいらあのダンジョンに出てくるモンスターは全部知ってるけど、人間の言葉を喋れるモンスターはおいら以外いないはずだよ』
「そうなのか……うーん」
ということはやっぱり、あれは幻だったのか?
いやいや、そんなはずはない。
自問自答するが、考えても答えが出ないので俺は考えることを止めた。
そして、ついでとばかりに俺は公園にあるダンジョンについて、気になっていた質問をいくつもぶつけてみた。
おかげで公園のダンジョンの大きさや出てくるモンスターの名前や特徴など、いろいろと知ることが出来た。
ちなみにあのダンジョンは、ベビー曰はく白金の大迷宮という名前らしい。
俺のいだいていた疑問が解消されるやいなや、ベビーが目を輝かせながら口を開く。
『ねぇねぇ、それよりもマスター。おいらお腹空いたよぉ~』
ベビーが甘えた声で訴えてきた。
「わかったよ。ちょっと待ってろ」
俺はベビーに背を向けると戸棚の中にしまっておいた大好物のメロンパンを二つ取り出し、
「ほら、これでいいか」
その一つをベビーに手渡してやる。
『これなに?』
「メロンパンだ。美味しいから食べてみな」
『ふーん。あ、いいにおい。それじゃあ、いっただきまーす!』
メロンパンにかぶりつくベビー。
その途端ぴくっと動きが止まる。
どうしたのだろう。
口に合わなかったかな……?
「どうかしたか?」
すると、ベビーは俺の顔を見上げて、
『……マスター。これ、メロンパンってやつ、めちゃくちゃ美味しいよっ!』
興奮気味にまくしたてた。
『こんな美味しいものがあるなんて! マスターはこんな美味しいものいつも食べてるのっ? いいなぁ! マスター、おいらメロンパン大好きだよ!』
「おいおい、あんまり一気に食べるなよ。喉に詰まるぞ」
苦笑しながらも俺は自分のことのように嬉しくなった。
「あーそうだ。ところでさ、白金の大迷宮にゴールドメタルスライムってのがいるだろ」
『ふん、いふよ』
「そいつを倒したいんだけど、すばしっこくて攻撃が当たらないんだよな。ベビー、何かいい方法はないかな?」
『あふよ』
メロンパンをごくんと飲み込んで、
『おいらの魔結界なら、おいらより弱いモンスターの動きを封じられるから、おいらの魔結界でゴールドメタルスライムの動きを止めちゃえば、あとはマスターが倒せばいいだけさ』
ベビーはそんなことを言う。
「え、お前、そんなこと出来るのか?」
『うんっ。おいらの自慢の特技さっ』
「マジかよっ。すごいぞベビー!」
もしそれが可能ならば、もうゴールドメタルスライムは狩り放題じゃないか。
つまりはレベルも上げ放題。
ふふふ……いいぞ、ツキが俺に向いてきた!
「ベビー、俺のメロンパンもやるよ。ほらっ」
『え、いいのっ!?』
「ああ、これからはいくらでも食べさせてやるからな」
『いぇーい、やった、やったーっ!! ありがとうマスター!!』
手放しで喜ぶベビーを見ながら俺は、感謝するのはこっちの方だよ、と口元のにやけが止まらなかった。




