第1話 木崎賢吾
20年前、突如として世界中に出現したダンジョン。
その数は数百とも数千とも言われているが、それらのダンジョンにはほぼすべてに所有者がいる。
所有者というのはそのダンジョンに最初に足を踏み入れた者のことで、どういうわけかそれ以外の者が中に入ろうとしてもダンジョンは一切受け付けないのだ。
そのため、今に至る20年の間に世界中のダンジョンは誰かしらによって発見され、それらはみなその者たちの所有物となっているのだった。
ダンジョン内部からは現代科学では説明できないアイテムが無数発見されており、それらは世界各国で高値で取引されている。
また、ダンジョン内部にはモンスターと呼ばれる未知の生物が潜んでいることがあり、それらを倒すことでレベルアップし、身体能力を大幅に上げることも出来た。
よってダンジョンを所有する者は時間とともに富と名声を持つようになっていった。
そして現在。
まだ発見されていないダンジョンなど、もうないのではないか、そう世間では噂される中、俺、木崎賢吾だけはダンジョンの所有者になるという子どもの頃からの夢を諦めきれずに、バイトをしながらダンジョン捜索を続けていた。
「おい、木崎。お前、まだダンジョン探ししてるんだって」
「はい、そうですけど」
「無理だからよせってそんなこと。時間の無駄だぞ」
バイト先の店長が俺を見て、あざ笑うかのように口角を上げる。
「ダンジョンが世界中に現れてからもう20年も経ってるんだ。誰にも発見されてないダンジョンなんてあるわけないだろ」
「いや、でも――」
「そんなことばっかりしてるから22歳にもなって彼女もいないんだぞ」
「はあ、まあ……」
痛いところを突かれ反論できないでいると、ホール担当の岸田さんが厨房にやってきた。
「店長。一番テーブルのお客様がお呼びです」
「は? なんだよ、面倒くさいな」
「料理について文句があるとかで、店長を呼べって言ってます」
「まったく」
不機嫌な様子で厨房を出ていく店長。
それを横目に岸田さんは俺に話しかけてきた。
「木崎さん、もしかしてまた店長にからかわれてました?」
「はい、まあ」
「わたしが言うのもどうかと思いますけど、ここのバイト辞めた方がよくないですか? ストレスでしょう」
「うーん、でも時給は割といいですし、店長以外はみんな親切ですから。あ、もちろん岸田さんも含めてですよ」
言うと岸田さんは眠そうな目を少しだけ開き、
「ていうかいつも言ってますけど、わたしに敬語使うの止めてくれませんか? なんかむずがゆいんですけど」
俺を見上げてくる。
岸田さんは俺より二つ年下の女子大生だが、このレストランでは俺の方が後輩なので敬語を使って接しているのだった。
「ここでは岸田さんの方が先輩ですから」
「むぅ……だったらせめて店から一歩出たら普通に話してください。じゃないとこれからずっと無視しますからね」
「はあ、わかりましたよ」
淡々と話す岸田さんは基本無表情なので何を考えているのかよくわからない。
それなりに整った顔立ちをしているせいか、常連客からは人気があるようだが。
「じゃあわたしホールに戻りますから。あ、それと、三番テーブルにサイコロステーキセット二つです」
そう言うと、最先端ロボットのような動きを見せつつ岸田さんは厨房を出ていった。
「さてと、作るか」
◆ ◆ ◆
午後九時にバイトが終わり、俺は帰路につく。
その道中、一人夜道を歩きながら考えるのはやはりダンジョンのこと。
「明後日はバイトが休みだから、長野県の山奥にでも行ってみるかなぁ」
未発見のダンジョンを探し当てるため、俺が住む東京都と同じ関東圏の長野に朝一で向かおうか、などと考えを巡らせていると、ドンッという大きな縦揺れを感じた。
続けて、
「きゃあぁぁーっ」
女性の甲高い悲鳴が聞こえてきた。
と同時に若い女性が暗がりから飛び出してくる。
そして俺の横を必死の形相で駆け抜けていった。
「な、なんだ……?」
小さくなっていく女性の背中を眺めてから、女性が飛び出てきた方向に顔を向ける。
するとその方向には公園があり、さらにその中には黒い大きな建物のようなものが見えた。
「あれ? あんなところに建物なんてあったかな……?」
ふと気になり公園へと近寄っていく。
しばらく進んで黒い大きなものの前に立ち、それが何かがはっきりとわかった。
「……マ、マジ!? こ、これ、間違いない……ダンジョンだっ!!」
物語の始まりです。
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