第二話
あのね……ぼくらの島には、宇宙人が住んでいるんだ。
岬の端っこに不時着している宇宙船に乗って来た、三人家族の宇宙人だ。特に秘密にはされていない。
ある日の明け方頃に、朝焼けの空からヘロヘロと落ちて来たらしい。
磯釣りから帰る途中だった木島の爺ちゃんが行ってみると、困った様子の宇宙人が三人、細く煙の出た宇宙船の前で途方に暮れていたんだって。
木島の爺ちゃんは、さっそく三人を家に連れて帰った。さすが村一番の世話焼きだ。ぼくも去年の秋ごろ、爺ちゃんに叱られて家出した時、たいへんお世話になった。
宇宙船は壊れてしまっていて、すぐに修理屋のうちの爺ちゃんが呼ばれた。
「ダメだな。動力部のかんじんな部品がイカレちまってる」
戻って来た爺ちゃんが言った。『動力部』っていうのは、宇宙船を動かすための大切な仕組みだ。そしてそれを修理するには、地球にはない材料が必要らしい。
「材料があれば、爺ちゃん修理出来るの?」
ぼくが聞いたら爺ちゃんは、ニヤリと笑って「まあな」と言った。ぼくの爺ちゃんはなんでも修理する、島でたった一軒の修理屋だ。
お父さん宇宙人は壊れた部品の材料を取りに、一旦自分の星へ帰ってしまったので、しばらくのあいだ、お母さん宇宙人と子供宇宙人はうちの島の住人になった。
お母さん宇宙人は木島の爺ちゃんの畑を手伝ったり、役場の仕事をしている。子供宇宙人は、春からぼくらの分校に通う。
ぼくは少し心配で、少し怖かった。
だって宇宙人だよ? なんでみんな平気で会いに行ってるんだろう。かわりばんこに、野菜や晩ごはんのおかずを持って、木島の爺ちゃんの家に行っている。
ぼくは宇宙人が来たら、他にもっとやることがあるんじゃないかなって思う。うちの村は離島で人も少ないけれど、これが都会の街だったら、きっと今ごろ大さわぎになっている。間違っても、役場で働いたり、学校へ通ったりなんかしない。
ぼくの持っているマンガの中には、宇宙人が地球を滅亡させてしまう怖いマンガがいくつもある。そりゃあぼくだって、悪い宇宙人ばかりじゃないとは思うけど。
だから爺ちゃんが宇宙船を修理している時も、ぼくはついて行かなかったんだ。宇宙船……。本当はすごく見てみたい。どんな形なのか、想像するだけで背中がソワソワする。
「アメリカの宇宙局の人に来てもらったり、科学者に相談した方が良いんじゃない?」
ぼくはちょっとモヤモヤした気分になっていた。だってまるで、ぼくだけが意気地なしみたい。
「そんな大ごとにするもんじゃねぇ。あちらさんにも事情ってもんがある」
ぼくの爺ちゃんは、なんでも修理出来るだけじゃなく、時々カッコイイことを言う。
あちらさんって、宇宙人家族のことかな。事情ってのは『宇宙船が壊れて、知らない星へ不時着』ってこと? うーん、それはかなり困ったことだ。島のみんなが世話を焼くのも無理はない。『ぼくだったら』って考えたら、怖くて足もとがスース―した。
爺ちゃんはぼくのモヤモヤがわかっていたみたいで「セイ」と呼んでから、ぼくの背中をバーンと叩いた。モヤモヤは、なぜかそれで少しすっきりした。
「未知のウイルスや外来微生物については、あちらさんで対策済みだ。心配しなくていいぞ」
地球にはない病気やなんかを持ち込んだりすると、大変なことになったりもするらしい。大人の事情は、ぼくにはちょっと難しい。