知らぬが仏
昨晩は大量の里芋どもに囲まれ、楽しい一時を過ごす事ができた。これも、ひとえに拙者の体を張った一芸のお陰であろう。あの時、転んで笑いをとるという機転をきかせたのは間違いではなかったでござるな。
親睦を深めるうちに、里芋どもからは親しみを込めて陽炎と呼ばれていた。正直良い気分でござった。あまりに良い気分で、ついつい飲み過ぎてしまったな。酒が周りさらに良い気分になったので、昨日の失態は、良しとしておこう。
「うーむ、魔物でござるか…。」
里芋どもの話しによると、動物と違い、魔法なる面妖な術を使うことの出来る獣。ということであったな。即ち、妖怪変化のたぐいであろう。里芋の化身も同じだと思うのだが、いまいち違いが分からなかったでござる。強いて言うなれば、言葉を発するということか?いやしかし、妖怪変化も言葉を発するではないか。うむ、分からん。賢い拙者が分からぬのだ、凡人に説明を求めるのがそもそもの間違いなのであろう。
「おう、あんちゃん起きたか?」
またもや勢い良くドアが開けれれる。こやつは加減するということが出来ぬのであろうか?
「昨晩は楽しい時間をありがとうございまする。かたじけないが、今日もよろしくお願いするでござる。」
「がははは、昨日のあんちゃんはノリが良かったよ!最高だった。さて、昨日言ってたギルドに登録しにいくか。」
海苔など久しく食べておらぬ。食べられるのであれば良し悪しなど気にならぬでござるよ。
ともあれ、ギルドなる物に登録しないと、何処からきたかも分からぬような流浪人として扱われるというのはいただけぬ。とりあえず登録だけでもしてみるか。確か、仕事の斡旋もあるという話であったしな。
「かたじけない。」
素直に里芋に礼を言い、後ろをついていく。昨日も宿のない拙者を、気遣ってくれおった。一宿一飯の恩は返したいでござるな。厳密に言えば三宿六飯くらいになりそうでござるが。
綺麗に整備された道を進み、やはり城があったなと勘違いするほどの立派な建物に案内された。またもや石でできておる。ここには金持ちしかおらぬのか?
「あんちゃん、ここが冒険者ギルドだ。さくっと登録して、さくっと狩りにでれば、宿借りて良い飯食いにいけるぜ。なんなら、ギルドでも安く飯が食えるぞ。」
なんと素晴らしい。ここは天国でござるか?
「ようこそドワーフ村のギルドへ。依頼ですか?登録ですか?」
人だ!人がおる!久しく人など見ておらんかったぞ。くっきりとした
目元、すらっと伸びた鼻。ぷっくりとした口。
むむむ、こやつも口が半分開いておる。顔は綺麗だが、確かにうつけ者に見えるな。
「登録をお願いする。」
「かしこまりました。カードを作りますので、まずは人差し指を出してください。」
プスリ。針を刺される。
「あいたっ何をするでござる。」
「ごめんなさい、手続きの仕方を知らないなんて思ってなくて。」
ほほう、拙者をうつけかなんかと思っておるのか?口が半分開いておるくせに。
だがしかし、拙者はうつけと思われとうない。ここは、知ったかぶるしかあるまい。
「気にするな。びっくりしただけでござる。」
「では、カードに先程の針についた血を垂らして、登録は完成です。ランクについての説明はどうされますか?」
里芋に何と思われようとも気にならぬが、人にはなぁ。一度知ったかぶった手前、引き返す事はできぬ。
「結構でござる。」
「分かりました。クエストを受ける際にはまたお声掛けください。」
らんく?くえすと?尻取りか?後で里芋に聞く事にするでござる。
「無事登録できたでござる。」
「良かったな。ステータスオープンって言えば、カードの裏にステータスが表示されるぞ。」
では、里芋を、信じようぞ。
「すてーたすおーぷん。」
カードが光り、裏に文字がならんでいく。
名前から始まり、ん?
名前の欄に通り名とあり 禿郎 と記してあった。
か ではなく は であったのか……。
ということは……陽炎では無く禿郎であったと……。
ははは、昨日のフライドポテトなるものは、真に美味であったでござるな。拙者は遠い目をしたのであった。
「がはははは、あんちゃん、また面白い顔になってるぞ!」
口が開いておると言いたいのであろう?案ずるな。拙者の癖はそうそう直るものでは無い。
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