口は災いの元
「なんだこれは…。」
拙者は、里芋に連れられ、里芋の里にきていた。先程の場所から歩いて半刻(1時間 )程であったか。途中の道の険しいのなんの。何度も木の根に足をとられ、何度も坂を転げ落ちたものよ。そのような思いをするくらいであれば、休憩しながらのんびり行きたかったが、逆らって斧でも向けられたら、容易く失禁したであろう。そんな愚行は犯さぬのが拙者の賢さよ。
「これは入り口だ。村の中まで魔物にが入ってきたら困るだろ?」
ふむ、関所ということか。いやはや、村をこのような高い壁で囲うとは。いったいどうやっておるのだ?ここに城でもあるのだろうか?それにしても、この壁2丈(6m)くらいあるのではなかろうか。しかもその辺の石では無く、綺麗に整えられた赤茶色の石をつかっておる。なんと几帳面な職人よ。
「素晴らしいでごさるな。して、魔物とはいったい何であろうか?」
「魔物も知らねえのか?今までよく生きてたな。」
「まだこの辺りに来たばかりで。その辺の事は全く分からないでござる。」
「来たばかり?ということは、あんちゃん、女神様に連れられてきたのか。まあいいや。とりあえず中に入るぞ。」
里芋はそう言って、門の前にたつ別の里芋に話しかけおった。なぜか里芋が同じ顔にしか見えぬ。こやつも簡単な顔をしておる。違うのは、服と……あっ、ひげが髪と繋がっておらぬ。その辺りでござろうか。
「ちょっと変わったやつを拾ってきた。悪いやつじゃなさそうだから、いれてやってくれ。」
「アニキがそう言うんなら、文句ねえよ。しかし拾ってきたって、あいつは人間の村で嫌がらせでもされてきたのか?」
なぜ拙者をその様な哀れみの目でみる。
「いや、よく分からんが、あんちゃんの特権だそうだ。気にしないでやってくれ。」
「何の罰ゲームだよ。そんな特権いらねぇよ。」
何か良く聞こえぬが、悪口を言っておるわけではあるまい。気にするだけ無駄と言うものよ。
「あんちゃん、ようこそ、俺の村へ。とりあえず飯でも食いに行くか!」
「お願いするでござる。」
よく考えたら飲まず食わずではないか。いや、待てよ。更によく考えたら、雨が降っておったので水分だけは補給できておったな。さすれば、最初はよく考えておらんかったと言うことか?
「あんちゃん、何面白い顔してんだよ。目の焦点あってないし、口が半開きだぞ?」
失敬な。考え事したら、ちょっと口が開いてしもうただけではないか。母上から頭が悪そうに見えるから口を閉じろと言われ続け、口が開く度に虫を入れられておったが、それでも直っておらんかったか。
ちょっと前から虫を入れられなくなっておったから直ったとばかり思うておったが、母上が観念していただけであったのか……。面目ない。
「済まぬ、ちょっと疲れておってな。」
とりあえず誤魔化すのが、吉とみた。会って早々馬鹿にされるのもな。
「あんちゃん、無理すんなよ。それならとりあえず俺ん家で休むか。」
そう言って里芋の家に連れてこられた。普通に心配してくれて、良いやつだ。本当の事を言いたくなるが、今更口に出来ぬ。
里芋の家も同じような石でできておるな。ずいぶんと広いではないか、田んぼ二つ分と言ったところか。拙者の家とは大違いでござるな。
「あっちは工房だ。寝るスペースはそんなに無いが、とりあえずここの部屋を使ってくれ。」
「かたじけない。」
「俺は飯でも食ってくるから、夕方まで寝とけ。夕方になったら飯食いに行くぞ。」
里芋は出て行った。が、あまりのひもじさに寝れないでござる。嘘などつくものではないでござるな……。これで拙者は、また一つ賢くなったのでござった。
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