エピローグ
「は?神様でござるか?」
目の前には白髪の絶世の美女。年の頃は16と言ったところであろうか。しかし自らを神と名乗るなど、よほどのうつけ者らしい。白髪なのも、座敷牢にでもいられていた反動であろう。こんな女には関わらぬが一番。くわばらくわばら…
「ふふふ、若く見られるのは悪い気しないわね。けど、うっかり肥溜めに落ちて死んだあなたに、うつけなんて言われたくないわ。」
なんと!こやつ、心を読みおった。しかも肥溜めに落ちて死んだだと?
「お主、もののけか!拙者を愚弄しおって。」
辺りを注意深く観察する。周りには何もない。一面真っ白の世界とでも表現する他ない。
とりあえず腰から刀を……刀を……。
か、刀が無い!丸腰では、もののけ退治などできるはずがない。いや待てよ。このような美女に喰われるのなら男の本望というものよ。それも悪くはあるまい。苦しゅうない、もっと近う寄れ。
って待て待て。まだ収穫済みの米を脱穀しとらんではないか。あれを食わねば拙者の1年は何だったのだ。
「どういうことだ?拙者の刀をどこにやった?そして、米はどうなった? 」
「だからあなたは死んだって言ったでしょ?刀は体と一緒に肥溜めの底よ。もっとも、刀が無ければ肥溜めで死ぬこともなかったんでしょうけど。……米は知らないわ。家にでもあるんじゃない?」
肥溜めに落ちて死んだなど、その辺のうつけ者よりもひどいではないか。馬鹿にしおって。
「ふふふ、馬鹿にしてはいないけど、勿論その辺のうつけ者よりひどいわよ。それに、残念だけど、あなたとなんてお断りよ。」
またしても心を読みおった。そして、お断りなど何と失礼な!この様な経験は初めてでござる。拙者の堪忍袋の緒が……いや、切れる事はあるまい。きつめに言われるのも悪くはないでござるな。これはこれで良しとしよう。
「心読めてるから、そういうの辞めてよ。」
やはり読めておるのか……そうか。分かったぞ。そういえば母上が、隠し事をしてもサトリなるもののけが、拙者の嘘を見抜きに来るから、何でも正直に言いなさいと言っておったな。
ならば、ここはあやつの術のなかであろう。拙者の嘘や隠し事を暴かれてたまるものか。しかし、思えば思うほど、やましい事が頭から離れぬ。このままでは、地蔵様からとったあの饅頭まで見つかるのではなかろうか。拙者が後でこっそり食べるのを楽しみに隠しておるのだ。神棚の上などと、おっと危ない。隠し場所は神棚では無い、囲炉裏の中でごさるよ。と思っていても神棚が頭から離れぬ。おのれ、サトリめ。なんと手強い。
「だから、もののけじゃなくて神様だってば。でもまあ、あの饅頭は美味しかったわ。あなたが供えてくれたお蔭でね。それに、あなたは本当に死んだの。お酒を飲み過ぎて、帰りに肥溜めにポチャンとね。」
「饅頭泥棒め!あれは拙者が楽しみに。それはもう楽しみにしておったのに。しかし、そういえば昨晩は収穫後の祭りで飲み過ぎた気がする。記憶があやふやで何とも言えぬが。仕方あるまい。」
なんだか腑に落ちない気がする。しかし、面妖な術にでもかかっておるのか何故か信じてしもうた。美人な女神様、どうにかならぬでしょうか?饅頭は諦めるでござる。その代わり、拙者は一年間苦労して作った米を食べたいでござる。出来ぬなら、罵ってもらえぬであろうか?出来ぬのならしょうがない。仕方なく罵られようぞ。
「こっちの世界ではどうにもならないけど、お供えもらったし、あなた面白いから考えてあげる。そうねぇ、もし私の願いを叶えてくれるなら、特別に別の世界に転生させてあげようかしら。」
セカイ?セカイとはどういう意味なのか?しかも別のセカイ?うーむ、全く意味が分からぬ。セカイとは米の代わりの食べ物であろうか?そしてテンセイだと?こちらも初めて聞く食べ物ではあるが、自称神様が特別にと言うのであれば、さぞかし美味に違いない。あいやわかった。たいした願いではあるまい。それで死を受け入れようではないか。
「では、その二つをお願いするでござる。」
「んー、説明しても、どうせ無駄だからもう良いわ。体験したら分かるから!見た目も記憶もそのままにしておいてあげる。ちなみに、私のお願いなんだけど、別に無理しなくて良いからね。出来そうであれば魔王を倒してもらおうかしら。では、あなたの未来に栄光あれ。」
「ん?待ってくれ。拙者信長公など討ち取る気はない。」
あまりの眩しさに何も見えなくなり目を閉じた。光か消え、ぼんやり視界が戻っていく……
ここは、多分森でござるな。
はじめましてcycloneです。初めての投稿になります。初心者ですので、文がおかしい。センスないなど、批判的な意見でも、何かしらコメントして頂けると嬉しいです。でも、肯定的だったら、もっと嬉しいです。