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アミーリアの日常 前編

お邸で働く人の紹介も軽くしてます。短めです。

 次の日、昨日の疲れが原因か、いつもより少し目覚めが遅くなってしまいました。


 コンコン


 扉を叩く音がして「どうぞ」と声をかけると、サラが私の朝の支度をする為にお部屋にやってきます。


「失礼いたします。お嬢様、本日も湯浴みをされてからお食事になさいますか」


「そうね。柑橘系の香りの入浴剤を用意しておいてもらえるかしら」


「かしこまりました」


 私の1日は、朝の湯浴みから始まります。

 浴室へ向かい、軽く寝汗をかいている身体をすっきりとさせます。

 浴槽のへりに頭を乗せ、目を閉じて寛いでいると浴室の扉の向こう側から、サラとは違う間延びした侍女の声が聞こえてきました。


「お嬢様ぁー、今日もぉーモニカがお(ぐし)を整えてもいいですかぁー?」


 この独特な話し方の侍女は、2年前にトルストイ家にやってきたモニカ・オルレアン。

 オルレアン男爵の末娘で、以前は王城で働いていました。

 主に私の着付け、お化粧、結髪をしてくれています。

 何故、貴族のご令嬢がトルストイ家の侍女をしているかと申しますと、4年前にオルレアン男爵の事業が失敗し、多額の負債を抱えた事で一家総出で働かざるを得ない状況になり、初めは知り合いの(つて)で王城で働いていましたが、モニカの口調が周りに受け入れられず辞めてしまったところ、王城に出仕していた私のお父様が声をかけたのだそうです。


「ありがとう。モニカが結ってくれる髪型はいつも素敵で、気分が上がるわ」


「ふふー、お嬢様は元が良いからぁー、モニカの腕も鳴りますぅー!」


 浴室を出てドレスに着替え、モニカに髪と化粧を施してもらった私は広間に向かいます。





 広間にはお母様しかいらっしゃらず、お父様は既に王城に出仕されたようでした。

 お母様に朝のご挨拶をして席に着き、お食事の前の挨拶を済ませ、トルストイ家お抱え料理人(シェフ)パトリックのお料理をいただきます。

 焼きたてのパン、ふわふわ卵のスクランブルエッグとベーコン、野菜たっぷりのスープ、フルーツサラダ。


「パトリック、とても美味しかったわ」


「ありがとうございます、お嬢様」


 私達が食べ終えるまで後ろに控えているパトリックに向けて声をかけると、目尻が垂れた優しい眼差しで微笑まれます。

 このパトリックの"まるで愛娘を見るような目"で見られると、お父様と年齢も近いせいか第二のお父様のように思ってしまいます。

 パトリックは侍女頭のアンヌと夫婦で、確か私と同じ歳くらいの娘さんがいたので、その子と私を重ねて見ているのかもしれませんね。





 食事を終えた私は、一旦お部屋に戻りドレスを着替え、お邸の庭園に向かいます。

 女性貴族の着替えは1日に5〜6回で、別の行動をする度に着替えなければならないのが大変ですが、もう習慣ついてしまいました。


「トマスお爺様!」


 庭園に着くと見知った後ろ姿を見つけ声をかけます。


「ほっほ、お嬢様。私のことなぞ呼び捨てにしてくださいと、何度も申し上げたはずですぞ」


「まあ!私も親しみを込めてそう呼んでいると、何度も伝えたわ」


 トマスお爺様はお邸の庭師で、私が庭園によく足を運ぶので必然的に会う回数も増え、花の知識を教えてもらっているうちに親しくなり、今では家族同然のように思っています。

 お邸に仕えてくださっている年数も1番長いのではないかしら。




 存分に花を愛でた後は、また着替えを済まし書斎で読書をします。

 この書斎は祖母のもので、生前読書好きだった祖母のたくさんの本で溢れています。

 まだ少し内容が難しく読めないものもありますが、本から得られる様々な知識が新鮮で興味深く、ついつい時間を忘れて篭り気味になってしまいます。

 太陽が高い位置に登り始めた頃合いで、扉の前で控えていたサラが私に声をかけました。


「お嬢様、そろそろスタンリー先生がお見えになるお時間です」


「もうそんな時間なのね。スタンリー先生は時間にとても厳しい方だから、急いで準備を済ませないと…」


 スタンリー先生とは、私が4歳の頃から淑女教育をしてくださっている先生です。

 黒髪をいつも夜会巻きにし、高い鼻に切れ長のオリーブ色の目、片方にチェーンのついた丸い鼻眼鏡をされています。

 スタンリー先生は、キツイ印象の見た目とは反してとてもお優しい方です。

 確かに、淑女教育時は厳しくご指導いただくこともありますが、私の為を想って教えてくださっているのが伝わります。

 昔はよく淑女教育の時間が嫌で逃げ出し、お兄様に泣きついたこともありましたが、必要なことだとわかってからは1度もお休みすることなく淑女教育を受けています。

 そのおかげで、お茶会ではトルストイ家の令嬢として対応出来たと思います。

 ーー上の空で、殿下のお話を聞き逃してしまったことは口が裂けても言えません。


 準備を済ませ、淑女教育用のもうひとつの書斎に移動した私は、席に着き教本を開いて待ちます。


 暫くすると、スタンリー先生が書斎に来られました。

 私は先生が室内に入られたと同時に席を立ち、カーテシーをしてご挨拶いたします。


「スタンリー先生、本日もご指導よろしくお願いいたします」

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