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お兄様の忠告

 殿下とリーナ様がお話をされている間、視線を感じ周りを見ると私達が多くの方に注目されている事に気づきました。

 それも仕方のないことでしょう。

 このお席には殿下や侯爵家のご令嬢、社交界で有名な家の方々が揃っていらっしゃいますので、どうしても目立ってしまいます。

 そして、周囲にも聞こえるような声量で婚約者についてお話されているとなれば、皆様が注目するのは当然です。


 …周囲の方々の表情は、まるで笑顔の仮面を貼り付けたように変わらず、近くにいるご令嬢、ご令息とお話をされながら私達の様子を窺っていて、不気味に思えました。


 そんな皆様が気になる話題の婚約者について、私も改めて考えてみました。

 私にはまだ縁談のお話が来ておりませんが、いつかはお父様のお決めになられた方と婚約をするでしょう。

 そして、順調に進めば結婚。

 政略結婚とはいえ、冷めた結婚生活は送りたくないものです。

 ですので、婚約者となられた方とは出来るだけ仲良く、叶うことならお互い思い合える存在になれたらと思います。


 本当は少し、いつかの小説で読んだことのある"身も心も焼き尽くすような激しい恋"に憧れはありますが、ほとんどの家が政略結婚の貴族社会では出逢いを待っていては嫁ぎ遅れてしまいます。


 殿下やフィンリー様は例外ですが、もうほとんどの方はご婚約者様がいらっしゃるそうですしーー


「………ーー嬢、……ーーリア嬢、…アミーリア嬢」


「は、はい!」


 考えに耽っていて、殿下が呼んでいることに気づきませんでした。


「大丈夫?体調が優れないのでは…」


「いいえ、少し考え事をしていたもので…。申し訳ありません」


 必死に会話の内容を思い出そうとしますが、全く私の耳に入っていなかったようで思い出せません。


「…ちっ。殿下が話しかけてくださっているのに、話を聞いていないとは無礼なやつだな」


 トドメとばかりにヴェルヘルム様から、剣のある物言いで苦言を呈されます。

 私は返す言葉もなく俯きました。


「僕のは大した話ではないので……それよりも、アミーリア嬢の考え事の方が気になりますね」


「大した話でないなどと!とても有意義なお茶会だというのに許されたことでは…」


「あら。殿下が気にしていないと仰られているのに、外野が騒ぎ立てることではないと思いますけれど」


「…カロンの…言う通り…」


 ヴェルヘルム様は、リーナ様のご意見に悔しげな表情をされた後、シャル様に鋭い視線を送られました。

 ピリッと剣呑な雰囲気になってしまったので、私は改めて殿下に謝罪と考え事の内容をお伝えしようと思いました。


「本当に申し訳ありません。…私もまだ婚約者がおりませんので、婚約について考えておりました。」


「婚約者…アミーリア嬢もまだ婚約者がーー」


「エイミー!こんなところにいたんだね。探したよ」


 殿下のお言葉を遮るように、お兄様が私を呼ぶ声が聞こえました。

 お兄様は私の傍まで足早に歩を進め、皆様の前まで来ると急に私の手を取り立ち上がらせます。


「皆様、私アミーリアの兄のエヴァンと申します。挨拶も早々に申し訳ありませんが、私と妹はそろそろお(いとま)させていただきたく存じます」


「…お兄様!?」


 お兄様は皆様のお返事もお聞きにならず、私の手を引き会場の出口へ向かわれましたので身体を捻り振り返ると、皆様の呆然としたお顔が見えました。

 私はどうにか一礼だけしてお兄様と会場を後にします。


「突然どうなされたのですか?」


 馬車に乗り込んですぐお兄様にお尋ねしました。


「ごめんね、エイミー。ちょっと、人に揉まれすぎて気分が優れなくなってしまってね。せっかくエイミーが楽しんでいたのに水を差したね」


「そんな…私の事などいいのです。早くお邸に戻ってお休みになりましょう!」


 私はお兄様の行動を批難しようとしていましたが、お兄様の体調が優れないと聞いて心配になり、すぐお邸に戻るように御者に急がせました。


 殿下と皆様にはお邸に着いたらお手紙で謝罪いたしましょう。


 お兄様の体調を気遣いつつ馬車に揺られていると、お兄様が静かに話始められました。


「…エイミー、一緒にいた灰色の髪の少年はゾルムス伯爵家の御子息だね?」


「ええ、次男のヴェルヘルム様です」


「ゾルムス伯爵家は…少し気をつけた方がいい。当主のヨハネス・アルマン・ド・ゾルムスは、アートリー地区を数多くの一流ブランドが立ち並ぶ高級住宅街へ変貌させて、元々アートリー地区で暮らしていた貧困層を全て追い出す程、地位と権力、財が全てと考えている人物だ」


「…数年前から、領地に人が移り住んで来たのも何か関係が?」


「そうだね、父上や領地を持つ他の貴族が受け入れていたよ。私達は同じ伯爵家といっても、田舎の領地で農作物や鉱物、絹の交易をしているくらいで、ゾルムス家とは雲泥の差だ。もし、息子である彼も父親の影響を受けているなら…」


 私はお兄様のお話を聞いて、ヴェルヘルム様の私を見る冷たい視線を思い出しました。

 お兄様の仰る通りであれば、同じ伯爵家であっても資産で劣るトルストイ家やティロル家が、殿下や侯爵家であるベルジット家と懇意になるのは面白くないことでしょう。


「…とにかく、注意してほしい。私の可愛いエイミーが傷つけられたとあっては、黙っていられないからね」


「…わかりました」





 暫くするとお邸に到着し、お兄様の体調を御者から聞いた数名の使用人が出迎え、すぐお兄様をお部屋に連れて行きました。

 私も侍女のサラと自分のお部屋に入ります。

 お部屋に入りすぐ椅子に腰掛けると、サラが紅茶を淹れてくれました。


「…お嬢様。お疲れのようですので、本日はローズヒップティーをご用意いたしました」


「ありがとう。……周囲の会話を耳にした時、お母様の仰る通りだと思ったわ。お茶会は色々な方の思惑が渦巻く場。自身の権力誇示や、派閥争い、下位貴族が上位貴族へ媚び諂ったり、人脈を増やそうと積極的な方も多くて…」


「…楽しくは…なかったのですね」


「いいえ。女の子のお友達と、お話が出来て楽しかったわ。リーナ様もシャル様も…周りが噂しているような方ではなくて、素敵な方だったの。…少し…そう…ほんの少しだけ、お変わりになられていらっしゃるだけで…」


「殿下とは、お話になられたのですか?」


「ええ。結局、私にお話したかった内容がわからなかったけど…」


「…きっと殿下は、お嬢様の近くに居られるだけで良かったのだと思います」


「ふふっ…サラったら冗談も言えたのね。」


「………」


 サラの発言だと、まるで殿下が私を慕っているかのようです。

 有り得ない事実にくすくすと笑いながら、殿下達への謝罪のお手紙を書く為に準備をしました。

殿下はアミーリアを気になっている様子。

アミーリアも決して鈍い方ではないですが、殿下自身もアミーリアを気にしている事に気づいていないので、サラの発言を冗談と捉えました。

サラは冗談が言えない真面目な性格です。

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