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カロリーナ嬢の特殊な嗜好

「そういえば、リーナ様はお兄様にご興味がおありなのですか?」


 侍女の淹れてくれた紅茶をひと口飲み、先程少し気になった事をお聞きします。


「興味はありますけれど…きっとエイミーが思ってるような興味ではありませんわ」


 私は男性がお嫌いと噂されるリーナ様が、お兄様にご興味を持たれた事を疑問に思い、お兄様のあの容姿であれば"一目惚れ"もあり得るのかと考えておりました。


「私は、殿下とエヴァン様の()2()()()興味がございますの」


 どういうことなのか尋ねようと口を開きかけるとーー、


「…エイミー。…カロンは…美少年の男の子同士が…仲良くしてる姿…好きみたい…。エイミーのお兄さん…実は男色だったり…しない?」


「え!?だ、だ…男色…ですか?いいえ、それは…決してそんな事はないと…」


 私はシャル様の予想していなかった言葉に驚きました。


「リーナ様は男性が苦手だとばかり…」


「あら、私は苦手なのではなくて、ただ眺めているだけでいいのですわ。男性同士が友情から恋情、そして愛情になるその瞬間を見られれば、今世に悔いはなしですわ!」


 リーナ様が熱く語られていらっしゃるのを見て、あるご令息が仰った"談笑していたらリーナ様に睨まれた"というのは、真剣に見つめていらして睨んでいたように勘違いされたのではと思いました。

 私が胸の内で納得していると、リーナ様の顔が陰りました。


「エイミーも、このような嗜好には不快感を抱かれるかしら。私、お友達に隠し事はしたくなくて…」


「…少し驚きましたけれど、この国でも同性愛に対して特に禁じられておりませんし、世間から受け入れられている数は少なくても、誰を愛するかは個人の自由だと思います。その事に関して私が不快に思うことなどありません」


 私がはっきりと申し上げると、リーナ様は嬉しそうに微笑まれました。


「ありがとう。…ふふ、エイミーはシャルと同じようなことを言ってくださるのね」


 それからはリーナ様から僅かに感じていた壁が、霧が晴れたように取り払われ、"男性同士の恋愛について"のお話をたくさん聞かせていただきました。

 話を聞いているうちに、殿下とお兄様ももしかしたら…と考えてしまったことは秘密です。




「会話に華を咲かせているところ失礼します。僕達も混ぜてはいただけないでしょうか」


 後ろから聞こえた声に振り向くと、殿下とそのお隣に同じ年齢くらいの男の子がいらっしゃいました。


「ええ、どうぞ。そちらのお席が空いておりますわ」


 殿下のお姿を認め、カロリーナ様がすぐ対応されます。


「感謝します。…貴女は、ベルジット侯爵家のカロリーナ嬢でしょうか」


「その通りです、殿下。お久しぶりですわ」


「久しぶり、カロリーナ嬢。…そして先程振りですね、アミーリア嬢」


「はい。殿下とお話出来る機会が持てて嬉しく思います」


「こちらこそ、嬉しいよ。…後、そちらのご令嬢とは初めてお会いするだろうか」


「…殿下……はじめまして……ティロル伯爵家の…シャルル…です…」


「ティロル伯爵のご令嬢ですか。お父上の開発は、この国にとても貢献なされていると兄から聞いています」


「…殿下、お隣にいらっしゃる方はどなたかしら?」


 殿下のお隣で静かに座られていたご令息を、気になったリーナ様が殿下に尋ねます。


「ああ、紹介が遅くなって申し訳ない。こちらは、ゾルムス伯爵家子息のヴェルヘルム・アルマン・ド・ゾルムス。先程知り合って、行動を共にさせてもらっていたんだ」


 ヴェルヘルム様は、灰色の髪と瞳で、頬に雀斑のある小柄な男の子でした。


「…見た目はぱっとしませんけど、殿下は地味専…?」


 隣に座っているリーナ様の独り言が聞こえました。

とても小さいお声だったので、私以外には聞こえていらっしゃらないと思います。


「殿下からご紹介に預かり光栄です。皆様、よろしくお願いいたします」


 ヴェルヘルム様はそう言って、リーナ様を見て笑顔でご挨拶された後、私とシャル様に視線を移すと一瞬表情を消し、睨まれました。

 何故睨まれてしまったのか不思議に思っていますと、殿下が口を開かれたことで、ヴェルヘルム様の視線は私達から殿下に移りました。


「アミーリア嬢、貴女からの助言のおかげで兄上とゆっくり話す機会が出来ました。改めて礼を言わせてください。ありがとう」


「いえ、そんな…」


 あの時私が殿下に申し上げた事を思い出し、顔が熱くなるのを感じました。


「兄上も私の変わり様に驚かれて、僕がアミーリア嬢の話をしたら、ぜひ会ってみたいと仰られていたよ」


 私の赤くなっていた顔は殿下の発言を聞き、一瞬で血の気がひいて青くなります。

 ああ…ウィリアム殿下に私の身分を弁えない発言を知られてしまいました。


「…そんな不安そうな顔をしないでください。兄上は、貴女の事をとても褒めていました」


 私の表情を見て、殿下は困った様な顔をして微笑まれます。


「ウィリアム殿下といえば…近々隣国の王女様とご婚約なされるとか…」


「ああ、まだ非公式だったのですが…よく知っていましたね、カロリーナ嬢」


「ええ、まあ…。私のお父様と陛下は古くからの友人のようですので。…残念ですわ」


「残念?カロリーナ嬢は、兄上の事を慕っておられたのですか?」


「いいえ。失言でしたわ…お気になさらないでください」


 リーナ様が明らかに気落ちしているお姿を見て、殿下は勘違いなされたと思いますが、私はリーナ様の嗜好を教えていただいていたので、お隣から心の声が聞こえてくるようでした。

 "また1人、男性同士を特別な関係で結び付ける対象がいなくなった"と…。


「ウィリアム殿下も漸くご婚約されるのですね。発表の際には、僕もぜひ直接お会いして祝辞を述べさせていただきたいです」


 ウィリアム殿下は御歳12歳。

 隣国の王女様とのご婚約のお話は5歳の頃からあったそうです。

 ウィリアム殿下が頑なにご婚約を拒んでいたというお話は、引き篭もりがちな私の耳にも入ってくる程有名でした。

ヴェルヘルム様が"漸く"と仰られていたのはそういう事です。


「ウィリアム殿下のご友人の、フィンリー様はまだご婚約なさっていないそうですわ、殿下」


「…ん?ああ、そうみたいですね。彼とはあまり接する機会がなくて…」


「まあ!そうなのですか?殿下もご婚約されていらっしゃらないとお聞きしておりますし、ぜひ!フィンリー様ともお話されてはいかがかしら!」


 …リーナ様…殿下とフィンリー様を恋仲にされたいのですね。


 話題に上がったフィンリー様の事を思い出します。

 私のお話を飽くことなく終始微笑みながら聞いてくださるお優しい方、所作も綺麗で、眉目秀麗。

 そんなフィンリー様に好意を寄せている女性も多いことでしょう。


「そうですね…。今度兄上に会いに王城へお越しになられた際にでも、話してみようかと思います」

リーナ嬢、まさかの男色嗜好。

シャル嬢についてもいつか書きたいです。

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