2度目のお茶会と変わり者のご令嬢
投稿遅めですが、修正を繰り返し頑張っています。
数日後、王城から「アーネストが、アミーリア嬢に会って話がしたいらしい。お茶会を催すので来てくれないだろうか」という旨のお手紙が届きました。
殿下の生誕のお祝いで登城したのはつい最近です。次のお誘いのあまりの早さに驚きました。
お手紙には"私と会って話がしたい"と書かれてはいましたが、王族が1人のーーそれもご令嬢を呼んだとあれば、あらぬ噂が広がってしまいます。
なので実際には、他の方にも招待状を出されているでしょう。
ご招待の早さにはお母様も驚いていて、慌てて仕立て屋の方をお呼びになられていました。
お茶会は2週間後を予定しておりまして、お母様が仕立て屋の方にある程度の希望を伝え、何着か用意が整った後1着ずつ着てみることとなりました。
ドレスを選んでいる間のお母様は目の色を変え、視線はドレスに注がれていましたが、時折試着した私を見ては、うっとり恍惚とした表情をなされています。
合計何着あったのか、試着は途中お食事を挟み朝から晩までかかりました。
そして漸く、ふんわりと可愛らしい青い生地に、白いフリルがあしらわれたプリンセスラインのドレスに決まりました。
◇
そうして訪れたお茶会当日。
今日は、留学先への休暇申請が許可されたお兄様と登城しています。
王城に着くと何人かのご令息、ご令嬢の方がいらっしゃいました。お兄様は人目を引く美しい容姿なので、たくさんの視線を感じます。
以前お茶会をした庭園へと通され暫く待っていると、アーネスト殿下が現れました。
「皆様、本日はお越しくださりありがとうございます。そして、私の生誕の日ではたくさんの祝辞をいただいたこと、大変嬉しく思っております。本日は気兼ねなく各々楽しくお過ごしください」
殿下は、初めてお会いした時とは別人のようにしっかりと前を見据え、お越しくださった皆様へ向け歓迎の意を表されていました。
「アミーリア嬢!来てくれて嬉しいよ」
殿下の変わり様に呆然としていると、目の前に殿下がいらっしゃっておりました。
「…アーネスト殿下、お初にお目にかかります。トルストイ伯爵家長子、エヴァン・ルナ・トルストイと申します。先日は妹と仲良くしていただいたそうで…」
私の思考が少し止まっている間に、隣にいたお兄様が殿下にご挨拶されました。
「ああ、これはエヴァン殿。こちらこそ、アミーリア嬢と話す機会をいただけて感謝しています」
私もご挨拶させていただこうと口を開きかけましたが、その前に殿下がお兄様と会話を始められましたので、大人しく会話が終わられるのをお待ちします。
「…妹はあまりお茶会に参加する機会もなく、こういった場はまだ慣れておりません。少しでも不安を取り除きたいと、兄である私が本日付き添いをさせていただいております」
「そうでしたか。アミーリア嬢にはこの間の続きを話したいと思っていたのですが…」
「恐れ入りますが、殿下は婚約をされていらっしゃらないとお伺いしております。同じく婚約者を持たない妹と2人きりでお話されるとなれば、周囲に多種多様な憶測が飛び交うこととなるでしょう。ご自身のお立場をご理解ください」
私はお兄様の言葉に息を飲みました。
確かにお兄様は正当なことを仰られていますが、殿下に対してあまりにもはっきりと刺のある言い方だと感じたからです。
「貴殿が心配されるのも無理はないですね。確かに先程の発言は軽率なものでした。では、時間をおいて他の方ともご一緒の席でお話ししましょう」
そう言って殿下は少しも気分を害された様子はなく、私に笑いかけてから、近くにいたご令息達にお声をかけに行かれました。
はらはらと成り行きを見つめていた私は、挨拶の事などすっかり頭から抜けておりました。
「もう!お兄様、私生きた心地がしませんでし…た…」
ひと言文句を伝えようと隣を見ますと、お兄様はたくさんのご令嬢達に囲まれて話しかけられる様子ではありません。
ご令嬢達は、殿下との会話が終わるのを今か今かと待っていたのでしょう。
私は文句を言うことを諦め、近くのテーブルへ向かいました。
そこには2人のご令嬢がいらっしゃいました。
「お席、ご一緒させていただいてもよろしいでしょうか」
「ええ、もちろん」
「…うん。…空いてるから…好きに…座ればいい…です」
1人は、蜂蜜色の髪に薄茶色の瞳のベルジット侯爵家のご令嬢、カロリーナ・ディア・ベルジット様。
もう1人は、藍色の髪に水色の瞳のティロル伯爵家のご令嬢、シャルル・ド・ティロル様。
お2人とも、貴族の間では少し有名な方でした。
カロリーナ様は、可愛らしい見目からは想像もつかないほど自分に厳しい性格で、男性がお嫌いとのお噂もあります。
あるご令息が「友人と談笑していたら、カロリーナ様にすごい形相で睨まれた」と仰られていたそうです。
シャルル様は、常に無表情で貴族的な喋り方が苦手、ティロル伯爵家が力を入れている研究機関に携わられていて、一部には"天才"と呼ばれていらっしゃるようです。
「お初にお目にかかります。私、アミーリア・ルナ・トルストイと申します」
「カロリーナ・ディア・ベルジットよ」
「シャルル…ド…ティロル…です…」
「アミーリア様は確か、エヴァン様とご兄妹だったかしら」
「はい。ご紹介出来ず申し訳ございません」
自己紹介が終わって唐突に、カロリーナ様はお兄様の事を私にお聞きになられました。
「…先程、エヴァン様は殿下と何をお話になられていたのかしら」
「ご挨拶と、また後でお話しましょうとのお約束だけです」
どうやらカロリーナ様は、殿下とお兄様がお話しになられていたのを見ていたようです。
詳細については殿下のお立場を考え省き、簡単にご説明させていただきました。
「……はあ……尊いですわ…」
私の話を聞いたカロリーナ様は、顔を両手で覆い天を仰いで小さく震えておりました。
「…大丈夫…カロンのこれは…一種の病気…」
カロリーナ様のご様子を心配している私に、シャルル様が"大丈夫"と仰います。
「貴女とはぜひお友達になりたいですわ。私のことは、リーナと呼んでください」
「…シャルルのことも…シャルと呼んで…いーよ…」
「ありがとうございます、リーナ様、シャル様。私のことも、エイミーとお呼びください」
これが貴族の間で"変わり者"として有名な、お2人との出会いでした。