令嬢は覚悟を決めます~絶対に現実になんてしない!~
よろしくお願いします。
―信じられない、レオがあんな事言うなんて…!
なぜ?どうして?と何度訪ねても、頑として理由を話してはくれなかった。
―レオなりの考えがあるはずよ、彼が何の理由もなく、あんな事言う訳が無いわ。
そう思い理由を話してくれるよう頼んでも、
話せないの一点張りで、全く埒があかなかった。
「今日はもう帰った方が良さそうだ…。
ごめんね、シア。また明日」
こちらを見つめる視線に気づいているけれど、
顔を向けることが出来ない。
そのまま固まった様にじっとしていると、
そっと後ろから声がかかった。ミラだ。
「お嬢様…まだ制服のままでございますから、
まずはお着替えいたしましょう」
レオが帰る前に、私の様子を見て欲しいとミラに声をかけたらしい。
そんな優しさを持っている人なのに、どうして?
相談の前に、拒絶されてしまったわ…。
「お嬢様…」
そっと頬を拭われる感触で、わたくしは自分が泣いていることに気づいた。
そのまま身支度を整えられ、機械的に夕食を口に運び、ベッドに身を横たえるまで、ミラは側にいてくれた。
寝ようとしても今日の出来事が頭から離れない。
自分の言うことを聞いてくれなかったから、
怒っている訳じゃない。
いつもの彼の優しさを知る私には、どうしても納得出来なかった。
助けが必要なアリステア様を、
ただ一方的に何の話も聞かず見捨てるなんて、そんなのレオらしくない!
せめて何かしらの話を…聞いてくれても良かった?
―え、何の、話も聞かず…?
自分の言葉に、違和感を持った。
―レオは何か知っているの?
私はアリステア様の事を聞いただけ。
それに対してレオは、助けられないと答えた。
現時点でアリステア様は、マッケンジー男爵令嬢を苛めているという噂が出回っている立場。
それなのに、マッケンジー男爵令嬢ではなく、なぜアリステア様を助けるという言葉が出てきたの―。
そしてもう一つ。
無意識に考えた自分の言葉によって、
ハッキリと気づいた事がある。
「わたくしは、アリステア様を助けたい」
―ただ一方的に何の話も聞かず見捨てるなんて、そんなのレオらしくない!―
レオにぶつけた言葉が、そのまま自分に戻ってきた。
それではわたくしは?
なにもせずアリステア様を見捨てるの?
レオにはそう言っておきながら、知っているのに傍観するの?
―正直怖い…。
王子殿下も幼い頃から見知っている方とは言え、王族が仕掛けようとしている婚約破棄を潰す…それは王族に歯向かうという事に他ならない。
もしかしたら、子どもの仕出かした事とはならず、お父様、お母様、ひいては公爵家に迷惑をかけるかも知れない。
そして、誰よりも大切なレオだって、無事では済まないかも知れない…
「それでも、私はやってみせますわ!」
どうなるかなんて分からない。
ただレオには自分の気持ちを伝えよう。
レオの答えがどうでも、わたくしが自分で決めたこと。
後悔だけはしない。そう決めたのだから。
「夢恋」の悪役令嬢の結末は…
アリステア様は国外追放、公爵家は断絶だった。
聖女に害をなす家という理由で―
そして皮肉なことに、ロック・フィールド家の領地の大部分を引き継ぎ、発展を遂げるのはスタンフィールド家。
ゲームの終わり、笑顔の王子とヒロインの後ろで、たった2行で語られるお話。
―絶対に、現実になんてしない!