勇者の奴隷
久しぶりに書いた。
いつ以来だろうか?
勘を取り戻すつもりなんで結構適当です。
クロウという少年について語ろう。
彼に付けられた字は『裏切りの罪人』、『邪知の使徒』、『国喰らい』、『勇者殺し』と多々あれど、そのなかでも彼を表すものとして最も知られているものがある。
多くの無知なる人々は彼をこう呼ぶ。
―――『最後の魔王』と。
(・ω・)
「ねぇ、もし私が帰りたいって言ったらあなたはそれを叶えてくれるのかしら?」
何気ない会話のなかでの問い。
聞いた本人すら冗談で聞いたことがわかるほどにふざけた問いである。
しかし、その問いかけをされた方にとっては違ったらしい。
ひどく真面目な声で答えは返される。
「それがあなたの願いならば」
そんな答えに流石に問いかけた本人すら少し慌てた様子で声を掛ける。
「もう! 冗談に決まってるじゃない」
「そうなのですか?」
慌てて冗談だと明かした声に不思議そうに問い返す。
「当然です!」
強い肯定の言葉。そして、それに続くのは……。
「だって私は勇者なんですから」
「あなたがそう仰るのでしたら」
何の疑問もなく肯定された言葉に勇者を名乗る少女は不満を口にする。
「クロウは駄目ね。良い従者ってのは言葉にしなくても主人の願いを汲むくらいじゃなきゃ」
少し考え込むようにしてクロウと呼ばれた少年は言葉を返す。
「私もまだまだということですね。精進します」
それは勇者の少女が望んだ答えではなかったけれど、少女は苦笑いを浮かべた。
「よろしい」
いつかあった主従の会話。
二人がそんな風に会話することはもうない。
(`・ω・´)
その光景に勇者である少女、ナギ・クジョウにとっても絶句するしかなかった。
父親である国王の首を抱え、血に染まった姫の姿。
その顔にはどこか壊れた印象を受ける笑みが張り付いていた。
王城からの呼び出し。大抵は事前に何かしらの連絡があるはずだったが、その日の呼び出しにはそれがなかった。
勇者になってからそういうことがなかったわけではなかった。ただそういう場合の多くは厄介な事件が起こっていた。そして、勇者たる自分が苦労するのだ。
うんざりしながらも王城に向かい、通された謁見の間でその光景に出くわした。
同じパーティーを組んでいる騎士が声を上げる。
「姫、何を!?」
その声に姫は今やっと気づいたのかのように……。
「ああ、ようこそいらっしゃいました。勇者御一行の皆さま、歓迎しますわ。ほら、お父様もご挨拶して」
そうして掲げられた王様の首は当然何も答えはしない。
「まぁ「まぁ!「まぁ!!」
「こんな風に首だけになってしまったら挨拶もできはしないわね!」
「いつも厳しく挨拶をしなさいと言っていたのに、情けないわ!!」
「ねぇ、そうは思わないかしら勇者様!」
支離滅裂、何を言っているのかわからない。
「一体どうしてこんなことを……?」
その問いかけに姫は待ってましたと言わんばかり話始める。
「実はね。お父様にお願いをしたの」
「お……ねがい?」
口のなかが乾く。
パーティーのメンバーである魔術師が耳打ちしてくる。
パーティーの頭脳たる彼女はこんな状況ですら冷静だった。
「お姫様に魔術反応がある。催眠か何かを仕掛けられてる可能性がある」
しかし、そんなことを気にした様子もなくお姫様は話し続ける。
「でもね、ひどいのよ。お父様ったら『そんなことは認められん!』の一点張りでね。ついにはお母様やお兄様も爺やもだめとしか言わないの!」
憤懣やるかたないといった様子だ。
普段なら可愛らしいで済む話だが、この状況では狂気しか感じない。
「だから、わたしね。怒ってみんな殺しちゃった」
そういって玉座から姫が玉座から立ち上がると、ゴロゴロと丸いものが転がる。
どうやら彼女の足元にあって、スカートに隠れて見えなかったらしい。
「あ、あああ、ああああああああああぁぁぁ!!??」
誰の叫びだったか、自分かもしれないし、他の誰かだったかもしれない。
無造作に転がる首は見知った顔ばかりだ。
少しキザったらしくはあったが次期王位継承者として相応しい風格を持ち始めていた王子。
お姫様と一緒にこちらに来たばかりで混乱していた勇者に優しく接してくれた王妃。
文武の分野において王様を支えて国のために働いていた宰相と近衛騎士団長。
胃が冷たい手に捕まれたかのようにキュッとなる。
吐き出さなかったのは単なる偶然だった。
「さぁさぁ、さぁ! これであなた様とわたしを邪魔するものは誰もいませんわ!!」
勇者になってから辛いことも怖いこともあった。
しかし、これは何だというのだろう。
ただただ意味がわからない。
立ち上がり、こちらに近づいてくるお姫様に思わず後ずさる。
「ねぇ、クロウ様!!!!」
その場にいたパーティー全員が振り向く。
その場にいながら一言も口を開くことのなかった少年に目を向ける。
勇者はすがる気持ちで少年を見る。
クロウは相変わらずの無表情で、その様子に安心したのも束の間。
少年は口を開く。
「おめでとうございます。姫、これで全てあなたの望むままに」
その言葉に勇者一行は目を剥く。
ただ姫だけが嬉しそうに笑った。
クロウはそのまま勇者たちを気にした様子もなく、姫の隣に並ぶ。
お姫様は嬉しそうにクロウの腕に自らの腕を絡ませる。
「申し訳ございません。ご主人様、皆様方。あなたたちの旅はここまでです」
「貴様ァァァァッ!?」
「ッ!!」
騎士の突貫も、魔術師の無言の炎撃も流される。
「……どうして?」
勇者の疑問にその奴隷は答える。
「きっと運命なのでしょうね。あなたが私を拾った時からこうなると決まっていたのでしょう」
そういって掲げられたクロウの右手には紋章が浮かんでいた。
思わず勇者は自分の左手を見る。
そこに浮かんだ紋章はクロウのそれと似ていたがどこか違っていた。
「魔王の、紋章!?」
「ご名答にございます。流石、当世一の魔術師」
そんな褒め言葉も皮肉でしかない。
不意にクロウは空を睨むと、
「申し訳ございません。時間が押していますのでここまでとさせてもらいます」
「ふざけるな!?」
「いいえ、大真面目でございます」
お互いに融通のきかないもの同士、意見の対立も多かった。
騎士と奴隷の会話はいっそいつもと変わらないのに寒々しい。
「ではご主人様、皆様ご機嫌よう」
足元で輝く魔法陣。
それがどういったものかはすぐに理解できた。
気づけばそこは王国の国境付近だった。
転移の魔術だ。
(´・ω・`)
私たちは混乱しつつも見覚えのあった国境の砦を拠点に情報を集めた。
そこで判明したのは王国の領土その八割が結界によって封鎖されたこと。
それによって起きた混乱は大きなものだったらしい。
伝聞なのはあとになって結界のなかで生き延びた人々から聞いた話だからだ。
そして、その状態は正式に王国周辺国にも伝わり、ついに聖国によって『勇者の奴隷』クロウを『魔王』として認定、同時に討伐令が出された。
その討伐メンバーには当然、勇者である私の名前も連ねられていた。
そこからは早かった。
集められたメンバーで結界に穴を開けて内部に侵入。
そのまま王都に一直線に向かった。
不思議なことに道中、魔物に出くわすことはなかった。
生き残った人々からの話ではある時を境にそれまで結界内の人々を殺し回っていた魔物もぱったりと姿を消したらしい。
そうして、たどり着いた王城では変わることのないクロウの姿があった。
「ようこそ、ご主人様、お連れの皆様方も」
傍らに少しボロボロになった姫の姿もあったが、誰も気にしない。というよりは、そちらに意識を向けることができない。
姿かたちは変わらないのに纏う雰囲気だけが桁違いに禍々しかった。
それこそ魔王であることに疑いの持ちようもなかった。
「積もる話もあるでしょうし、聞きたいことも山ほどあるでしょう。ですが、あまり時間もありませんので始めてしまいましょう」
無造作に振るわれた腕から走る衝撃は嵐のよう。
しかし、今更それぐらいでひるむような人間はここにはいなかった。
衝撃は魔術師の攻撃によって無効化される。
相殺された攻撃の隙間にできた凪を勇者が駆けていく。
その視線の先にいるのは当然、魔王たるクロウだ。
いつでも勇者を魔王の攻撃からカバーできるように騎士は二人から目を逸らさない。
魔術師も隙がさえ出来たならより強力な一撃を叩き込むために魔力を練り上げる。
斥候たる盗賊は意味はないと知りながら牽制の矢を放つ。
聖女もいつでも味方の傷を回復できるように神への祈りを捧げる。
勇者は色々な感情を飲み込んで魔王の心臓を目掛けて聖剣を振るう。
そうして、魔王はそのまま聖剣に貫かれる。
「……え?」
勇者の呟きが宙へ溶ける。
(´;ω;`)
動きを止めた勇者を魔王は抱きしめる。
その動きに他のメンバーは危機を感じて、攻撃を再開する。
しかし、魔王の張った結界によってそのすべてが阻まれる。
「申し訳ございませんが皆様方においては邪魔をされませんように」
結界の強さに比べて魔王の声には力がない。
まるで今にも死んでしまいそうなほど弱々しい。
「なん、で……?」
「そう不思議そうな顔をしないでください」
「だって、あなたは魔王で……」
言葉は続かない。
場には静かな混乱と困惑によって支配されていた。
ただ魔王だけが全てを理解していた。
そして、その全てを語る時間が残っていないことも。
「おめでとうございます」
いつかこの場所で聞いた同じ言葉。しかし、その言葉を向けられたの勇者で、その言葉を贈った本人も心のそこから嬉しそうに告げる。
「あなたに辛い想いを強いてしまったのは、あなたの僕としては失格ですね」
「ここまで辛いこともあったでしょう。悲しいこともあったでしょう。よく頑張りました」
「しかし、それも今日までです」
「あなたの願いは叶います」
そんな言葉に勇者は混乱する。意味を理解できないからだ。
「私は、そんな願いなんて」
ない、と続けようとした言葉は止まる。
勇者自身の体が淡く輝きだしたからだ。
「勇者様!?」
その光景にこれまで黙していた聖女たちの声が上がる。
「ああ、ご心配なく。ご主人様に危害があるようなものではありません」
「そんな話が信じられるか!?」
魔王の言葉に騎士が叫ぶ。
「別にあなたに信じてもらう必要はありませんが、一応話しておくと単なる帰還の準備のようなものですよ」
帰還、その言葉の意味を理解するには時間がかかった。
この世界に召喚されて五年の年月が過ぎた。
帰還を諦めていたわけではない。
それでもこうやって突然、帰還の切符を一方的に押し付けられるとは思ってもいなかった。
「帰れる、の……?」
「ええ、言ったでしょう。あなたの願いは叶うと」
魔王は静かに続ける。
「これからはもう生き物を殺し見えない怨念に怯えながら眠れぬ夜を過ごすことも、会えない家族や友人を想って涙することも必要もないでしょう」
「いつも通りの日常を過ごして、友と語り合い、家族とともに温かい食卓を囲み、今日を名残惜しみ明日を想いながら眠る」
「そんな当たり前へと帰れるでしょう」
徐々に力の抜けていく腕のなかで勇者ナギは涙を流す。
帰還を望まなかったと言えば、嘘になる。
しかし、しかしだ。こんな風に色んなものを犠牲にしてまで帰りたかったわけではなかった。
「後悔することなどありません。元よりこの命はあなたがくれたもの、ならばあなたのために使っても少しも惜しくはありません」
「……でも……でも」
国一つだ。魔王が勇者の願いを叶えるための贄として国一つを消費したのだ。
力なく首を振る勇者をあやすように抱きしめながら、魔王は笑う。
ざわり、と初めて魔王が魔王らしい気配を纏う。
思わず相変わらず結界に弾かれている騎士たちも武器を構える。
「無責任に小娘一人に救済を願う世界なんだから、小娘一人のために滅んでしまっても構わないでしょう?」
あなたが気にする必要なんてないと魔王は言う。
それでも顔を歪める勇者に……。
「それにもう始まってしまったものは止められません。だから、せめて幸せになってください」
―――それがあなたの奴隷である私の最期の願いです。
その言葉を最後に勇者は世界から消失した。
(# ゜Д゜)
消えた勇者を抱きしめていた腕を奴隷は名残り惜しむように解く。
「皆様方におかれましては大変お待たせいたしました」
「結局、お前は何がしたかったんだ?」
騎士の問いかけに、奴隷は笑う。
「決まってますよ。あの人の良き奴隷たれ、それだけのこと」
「こんなことを勇者が望んでいたとでも!?」
騎士が声を荒げる。
それも仕方ない。仕える主人を殺され、守るべき国を滅ぼされた。
それが一人の少女を元の世界に帰すだけのために行われたのだ。
それも少女すら望まないであろう方法でだ。
納得しろというのも無理な話だ。
「きっと何を言ってもあなた方には理解してもらえないのでしょう」
そういって心臓に刺さったままの聖剣を掴む。
騎士たちは魔王が何かするのではないかと警戒する。
そんな騎士たちに思い出したかのように言う。
「そちらのお姫様には催眠は掛けましたそれぐらいで記憶すら残っていないでしょう。まぁ、あなた方ならばどうにかできるでしょう」
その言葉を最期に奴隷は自らに突き刺さった聖剣を捻るように引き抜いた。
零れる血は真っ赤に王城の床を濡らした。
―――それでは、さようなら。
斯くて魔王は死に、勇者は役目を果たしたかのように自らの世界へと帰還した。
(´・ω:;.:...
目覚めると何か悲しいような、辛いような気持ちになった。
記憶にはないけれどそんな夢でも見たのだろうか?
胸の奥の痛みに、ただただ流れる涙が止まることはなかった。
王国の滅亡と同時に勇者召喚の術式も失われた。
最後の勇者と魔王の戦いを境に、この世界に勇者も魔王も姿を現すことはなかった。
『最後の魔王』クロウ。
少なくこそあれ歴史を正しく知るものは彼を『最後の魔王』とは決して呼ばない。
では、なんと呼ぶか?
人魔戦争に終止符を打った『救済者』?
たった一人の少女のために命を投げ出し国を亡ぼす『傾国の暴君』?
いいや、どれも違う。
彼は『勇者の奴隷』である。
気分が乗ったら設定とか付け加えます。
簡易設定
勇者の奴隷
勇者に拾われる。ありきたりだけれど勇者信者。
言われないでも主人の意を汲むのが良い僕らしいので、ご主人に黙って王国滅ぼして魔王に就職した。
最後ら辺は気合で生きてた。ハイスペックというかたぶん現地チート。勇者ぐらいなら倒せる。
勇者
奴隷を拾う。奴隷に裏切られてからは結構危なかった。再起不能一歩手前。
そうなったら魔王が襲撃してきてやっぱり目の前で死ぬ。
騎士
魔王討伐後引退。お姫様の面倒見るために執事とか庭師になる。
魔術師
魔王討伐後引退。お姫様の面倒見るためにメイドとかになる。
聖女
国に帰ってから信仰に悩む。お姫様と友達になる。
盗賊
ファンタジーだから出したが正直居ても居なくてもよかった。暗殺者への転職をお勧めする。
お姫様
魔王の一番の被害者。箱入りお姫様。王族のなかで一番ガードがゆるかったので狙われた。
気づいたら家族皆死んで、国滅んでるかわいそう。
でも、結婚して子ども産んで。
子どもは転生者とかではないけれど、騎士と魔術師に鍛えられて英雄になった。