戦闘後のご褒美
「な、なんですかぁ!?この、この体はぁぁ!?」
フェロメロがゲル状になった自分の体に気付いて叫ぶ。
このイベント『邪教信者』のオチは祭壇の作りが歪んでいて、なんやかんやあって上手く邪神を憑依することが出来ないというものだ。
結果、このように人とも魔物とも取れないゲル状の生物が出来る。その見た目はスライムに酷似しているが、スライムではない。
もうそれは、ただの人だったモノだ。
「醜いですね」
「だな。このイベントはネタイベントだったが、この始末だからな。あまり良い評価も貰っていない。ジャンヌも知ってるだろう?」
「昔のことなので、興味もないです」
「そ、そっか」
ジャンヌさんは度々冷たいよね。俺はこんな無感情な眼を向けられたら泣きそうになるよ。
「う…ぅぁああうぅぅ」
「ああなったら最後、もうアイツは喋れない。その内に自我もなくすはずだ」
「そうですか」
パッと見、フェロメロの奴が可哀想かと思うかもしれないが、元々邪神の召喚のための生け贄、つまり供物は信者たちを捧げる つもりだった。
それに今までにもフェロメロは沢山の人を殺してきた罪がある。因果応報というやつだ。
「ぅぅうぅぅあ…あ」
「見てられないな…」
「私が殺してきましょう。このまま苦しむよりも、楽に死ねた方が…ふぁ?ふぃ?ふぇ…フェロメロさんにも良いでしょう」
「名前ぐらい覚えておいてやれ…いいよ、こんな仕事は女の子には任せられない」
ジャンヌは強い。肉体的にも、精神的にも。
あ、いや俺がいないときはどうか知らないけど…それでも鋼と比喩しても劣らないほどに、だ。
ここでとどめを任せるのは簡単だが、それは俺のプライドが許さない。最後は俺が見届けてやる。
「あぁぁ…わ…わた…たしぃ……がぁぁ」
「っ!?……まだ、人格があるのか……」
「わたしぃぃがぁぁぁ…ま…ま、ま、ちがってたぁぁの…ですかぁぁ……?」
もう上手く喋れないほどに、顎も人格も崩壊しているはずなのに、フェロメロは喋り続ける。
その精神力は、感嘆に評するけどよ。もっと別のことに向けられなかったのかよ。邪神なんかじゃなくてさ。
「間違ってたのかどうかは知らないよ。俺はお前の死を見届けるだけで精一杯だ。人生を肯定してやれるほど、高尚な人間じゃねえんだ。」
俺も、お前もな。
「あぁあぁぁあ…り……が」
ザシュっという音と共にフェロメロ、いや人であったモノが、モノですら無くなった。
最後に何を言おうとしたのかは知らないけど、出来れば聞きたくなかったな。それは。
「ゲームの時は…そんなこと言わなかっただろ……っ!」
「マスター」
ジャンヌが俺の涙を拭う。
いつの間にか泣いていたみたいだった。
「俺っ…人をっ!……ころっ…殺し…殺して……」
「はい」
さっきまで気分が高揚していたお陰で忘れていたが、俺は今、モンスターじゃなくて『人間』を殺した。
平穏で、平静で、冷静で居ようとした筈なのに、眼から溢れるそれを止めることが出来ない。
ジャンヌはただ、俺を見つめている。でもそれだけで『君は悪くない』と言ってくれているようで、溢れる涙が更に激しさを増す。
フェロメロがどんな人生を送ってきたのか、どうして邪教なんかを始めたのか、それを知る術はもうない。
だが、フェロメロが人を殺したのは真実だ。否定しようもない事実。それが罰されるのは当たり前だし、死刑が下されるのも仕方がないことなのだろう。
ただ、俺がその死を受け止めるにはまだ時間が足りなかった。
その後、すぐにカイドがやってきて周りの邪教徒の死者や、目の前にあったナニカを片付けるべく応援を呼び、俺達は宿屋に帰された。
カイドは俺を見たとき、涙の跡に気付いたが何も言わずに、帰るように言ってくれた。空気が読めるときもあるんじゃないか。囮にしてごめんな。
ちなみにまた後日、ギルドから直々に報酬についての話があるらしい。それまでしばらくは自由ということだ。
「マスター」
「なんだ?」
夕食を食べ、部屋でゆっくりとしているとジャンヌが不意に話しかけてきた。
「スマホを見てみてはどうでしょうか?」
「え?うん、分かった」
スマホ?何かあったっけ?
俺はスマホを懐から取り出して、いつものホーム画面を開く。
「あ、魔石が増えてる」
「あの花の冠をした少年が言ってましたね、人の役に立ったり大きな依頼をこなしたら魔石が増えると」
「ゴッドちゃんのことか」
魔石が125個まで増えている。急に増えたな…
邪教を潰したことがトリガーとなったみたいだな。これで25回ガチャが引けるわけだ。
「どうでしょうか?マスター。このままギルドで働いてみるのは」
「ん、そうだな」
「依頼を達成すれば魔石は貰えますし、その分ガチャが回せます。更にお金も入ってきて一石二鳥ではありませんか?」
「それもいいかもな」
お金に関してはまあ、あまり困っていないがあって困ることはないしな。それに魔石が手に入るのは嬉しい。これからもジャンヌのような仲間を得たいからな。
「ガチャ、回してみるか」
「はい、マスター」
落ち込んでばっかりはいられない!
どうせなら楽しいことをしよう!何のために異世界まで来たんだ!俺はスローライフを楽しむために来たんだぞ?泣いてばっかで居てたまるか!
「なんだよ…ジャンヌ」
「いえ、ただ、マスターは可愛いなと思ったのです」
「か、かわい…あのなぁ、男はそんなこと言われても嬉しくないぞ?」
「そうなのですか?」
嘘です嬉しいですありがとうございます。
仕方ないだろ!?美少女に誉められたらなにがなんでも嬉しいもんなんだよ!みんなもあるだろ!?クラスのマドンナに『○○くんって面白いね!』とか言われたときの高揚感!あれだよあれ!
「ほら、ガチャやるぞガチャ!」
「はい」
いつもの生暖かい笑みを向けてくるジャンヌを睨んでからガチャ画面を開く。
『LRゲット確率超絶アップ×3!!』
どでかい文字が浮かび、ガチャ画面が表示される。
「出たよ…この手の煽り文句。信じらんねぇよなコレ」
大概こういった文章は言うだけ言って変わらない。当たり前だろう。仮に5%の確率で最大レアのキャラクターがゲットできるとして、超絶アップで10%になったところで×3の30%だ。10連ガチャを三回引いて当たるか当たらないかぐらいだぞ?か金額でいうなら5000位だ。
ここから一番欲しいキャラを当てるとしよう、単純計算ならその確率は総キャラ分の一だ。そこからもう少し上げられたところでその確率に大差はない。
何が言いたいかと言えば
────この手の煽り文句には騙されちゃいけません。
「では、引かないんですか?」
「そうは言ってないだろうっ!!」
「えぇ…」
ジャンヌが多分初めて俺に向けて『めんどくさ』みたいな顔を向けた。
うん、ごめんね?長々と話したわりにそこに着地したらそう思うよね?
違うんです、それでも『当たりそう』とか考えて回しちゃうのが人間というものなんです。
「人ってのは…当たらないと分かっていても、希望を抱いてしまうもんなんだよ…」
例えるならそう、宝くじだ。
まあそこまで極端に当たらないわけじゃあないが、その本質は同様と言ってもいいだろう。
物によっては隕石が落ちるよりも低い確率なんて言われてるらしいからな。
その結果、宝くじはあるロマンチストによってこう例えられるんだ。
「俺達は宝くじを買ってるんじゃない『夢』を買ってるんだ…ってな」
「へぇ、バカみたいですね」
「ぐはっ!?…ば、バカは言い過ぎじゃない?」
俺も宝くじは当たらない、当たらないとか思いながら買っちゃうタイプなんだよね。
そういうタイプって、大概はガチャ好きなんだよ。あ、そうでもない?
「で、ガチャは引かれるんですか?」
「当たり前だ!行くぞジャンヌ!」
「そういえばマスターはガチャを連続で引くときに毎回、キャラが変わってましたね」
ついテンションが上がっちゃうんだよね!
例えば…
あ、例はいらない?早くガチャ結果見せろ?
分かった分かった、いやしんぼめ。それなら引いてやろうじゃないか!!
「見よ!俺のガチャ運!」
気合いをいれてガチャを始める。
白色の宝石が光り、色が変わっていく。
───黄色
───青色
───赤色……が、そこで宝石が割れる。
「くっそがぁぁぁぁっ!もう少しだろぉぉ!?気合い入れろや宝石ぃぃぃ!!!」
「マスター…あの教祖を殺したときよりも涙流してませんか?」
「この絶望感は何にも負けねぇ!!」
あひあひと泣いて四つ手をついていると、リザルト画面に変わる。
【Rアイアンナイフ SRクレアベルト UR隠れ蓑の衣 URブーストブーツ Rステテコパンツ R水の指輪 Rフライパン R革のグローブ SR凄いぬいぐるみ R木の杖 】
「マスター、URが二つもありますよ」
「うん?ブーストブーツと…あぁ、隠れ蓑の衣じゃんか」
隠れ蓑の衣 UR
姿が見えなくなる。
(気配を隠して隙を突くことができる)
隠れ蓑の衣、面白アイテムとして使われてたが、実際に戦闘中に効果を及ぼすことはなかった。
ん?でもこの世界じゃ使えるのか?
「装備っと……ジャンヌ、見えるか?」
「急に見えなくなりました」
ふむ、やはりか。
ゲームじゃ町中では使えないが、この世界だとゲームじゃないから、本当に姿を隠せる。あれ?これ完全犯罪できる?
「ジャンヌ、銭湯へ行くぞ!」
「マスター?」
「はい、すみません」
あれれぇ?ジャンヌは俺に逆らえないんじゃないの?殺気が飛んできたよ?
「あ、アイテム出てるじゃん。それもSRの『凄いぬいぐるみ』」
「ぬいぐるみ、ですか?」
武具以外にも、一応アイテムが出ることがある。
しかし比較的珍しく、SRのアイテムなんて数えられる程度しかない。
『凄いぬいぐるみ』はこれもまたネタアイテムとしてあったやつだな。家具みたいな感じでホーム画面に設置できたはずだ。
この世界じゃどうなるんだろうか?
「ま、持っておくに越したことはねーな」
()俺はジャンヌにスマホを渡して隣に行く。
「マスター?」
「ほら、ジャンヌもガチャ引いてみろって。もしかしたらLR出るかもしれんぞ?」
「いいのですか?」
「今回はジャンヌがいたから順調に進んだしな。俺だけ引くわけにはいかんぞ」
それに、ジャンヌの運も試しておきたいからな。俺より良かったら優先的に引かせよう。あ、でも俺も引きたいからあくまで優先的に、な?
「では、御言葉に甘えさせていただきます」
ジャンヌが10連ガチャのボタンをタップする。
「実はマスターが一喜一憂しているところを見て、私もしたくなっていました」
「そうなんだ、なら良かった」
ふふ、まあゴッドちゃんが出やすくしてるって言ってたしな。もしかしたら出るかも……なーんて
───黄色
───青色
───赤色
───虹色
「はっ!?マジで!?」
「マスター、これは?」
「LRだよっ!!えぇ!?俺でも今まで当てたこと二回しかないのにっ!?」
ジャンヌとユリアの二人だけだぞ!?まさか…ビギナーズラックっやつか!?嘘だろっ!
「……これちょっと楽しいですね」
「ち、調子に乗ったらダメだぞジャンヌ?これでも防具の可能性だってあるんだからな?」
『G2W』はLRの武器とキャラクターが一緒に出てくるが、LRの防具からはキャラクターが出てこないのだ。つまりここでLRの武器を当てなければ意味が…
【R革の鎧 Rフールカバー Rヘアピン Rアイアンベルト UR炎の鎧 SR雪月花 Rアイアンソード R指貫 SR革の盾 LR『灼焔纏う神殺しの槍』】
当てよったぁぁぁぁぁいッッッッ!?
マジかぁ!?ここで当てやがるかっ!?
「ジャンヌ!よくやったっ!レーヴァティンを当てるなんて凄いぞぉよっしゃぁぁあ!」
「ま、マスター…首が痛いです…けどもう少しそのままで構いません」
俺はジャンヌの肩を持って大きく揺する。
凄いぞ!!本当にLRを当てるなんて!そのうえ『灼焔纏う神殺しの槍』はG2Wの中でもエクスカリバーと並ぶトップクラスの武器だ!
「てことは、レティアが仲間になるぞ!」
「レティア?」
「おう!G2W屈指の人気キャラクター!!」
ツンデレとまでは行かない位にちょっとツンツンして、でも天然が入ったデレは俺みたいな奴がぶひぶひ言うほどの逸材だぞ!