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画面越しの世界

今回は短めです

「夕食、美味しかったな」

「あれは猪の肉ですね。癖がありますが、私は好きです」


 夕食を食べて皿を持っていき、部屋へと帰る途中、俺たちはそんな会話を交わす。


「マスター、部屋はこっちです」

「あ、あぁ」


 そうだった!部屋がツインになってるんだったっ!

ジャンヌの先導に着いていき、少し大きな部屋に入る。


 中は普通のデスクと椅子、明かり代わりのランプ、それに二つのベッド。


「ツインってだけでそれ以外は特に変わらないんだな」

「はい、じゃあ。寝ますか?」

「う…」


 ジャンヌが首をかしげてこちらを見る。うーん…まあすることもないし、寝るのは寝るで良いんだけど、なんだか気になってしかたがないな。


「なあ、ジャンヌが寝るまで外にいるから、しばらくしたら俺も寝るってことで…」

「ダメです」

「いやでも一緒にって」

「ダメです」

「…………」

「ダメです」

「なにも言ってないじゃん!?」


 またNPCになりかけてるよジャンヌさん!?

 はぁ、もういいや。寝よう。なにも意識しなければ俺だって寝ることぐらいは出来るさ。


「電気を消しますね」

「う、うん!」


 ジャンヌがランプの灯火を消して、周りが真っ暗になる。ごそごそとジャンヌがベッドに入り込む音が聞こえて、すぐにまた静かになった。


「……」


 二人ともなにも喋らない。ただ沈黙が続く。そりゃあそうだ、寝るだけだからな。でもなんだかこの感じ、むず痒い。


「マスター、ちょっといいですか?」

「ん?」


 すると俺の心を知ってか知らずかジャンヌが話しかけてくる。


「マスターは、私と会えて…嬉しかったですか?」


 少し声が震えている。


「私は、嬉しかったです。いつも、画面越しに、ただマスターを見つめていました。私はマスターに触れることも、こうした意識があることも伝えられませんでしたから」


 でも、と付け加えて続ける。


「私は、今日。マスターに会えました。モンスターに襲われていて、急な状況だったので、言えませんでしたが私は、マスターと会えたことに物凄く、感謝しています」


 淡々と綴られる言葉に耳を向けて集中する。暗闇からジャンヌの表情は見えないが、きっと穏やかな顔をしていると思う。


「マスター。私は、マスターにとっては機械のシステムの一つかもしれません。暇潰しに使っていた只のゲームのキャラクターかもしれません。今この場で会ったばかりの信用できないような人物かもしれません。でも私は」


 ジャンヌが一呼吸置いて、鈴が鳴るような綺麗な声で言う。


「私は、マスターが好きです」


 俺に向けられた、純粋で真っ直ぐな好意だった。何度かそれらしい行動はあったけど、どれも確信出来るようなものではなかった為に、踏み込めなかった。

 けれど、ここまで純粋な好意を向けられたのは初めてだ。日本に居たときを含めても。


「ジャンヌ」


 隣のベッドからガサっと音が鳴る。ピクリと体を震わせたのだろう。


「俺はこの世界に来て、まず最初にゴブリンと戦った」

「はい」

「一対一の状況で、ギリギリ切り抜けたんだ」

「はい」

「でもな、そのあとにガチャを引こうと思ったらゴブリンの大群が襲ってきた」

「はい」

「その時の、俺の絶望感は凄かった」


 あのとき、俺は必死に逃げ惑った。目の前にある恐怖が、群れを成して襲ってきたのだ。


「頭のなかを一瞬死がよぎったよ。でもなジャンヌが出てきてくれた」


 ジャンヌは何も言わず、俺の次の言葉を待っているようだ。


「死の渦中から、助け出してくれたのは、ジャンヌなんだ。どういうことか分かるか?」

「…分かりません」

「ジャンヌが俺を救ってくれたんだ。俺には、ジャンヌが女神に見えたよ」

「そんな…」

「見えたんだよ、俺には」


 ジャンヌが謙遜をしようとするが、有無を言わせない。


「この世界に来て右も左も分からなかったけど、ジャンヌが居てくれたから俺は安心できた。ずっと一緒にいた仲間だから、1年間連れ添ってきた仲間だったから。」

「…はい」

「俺が信頼できるのは今、ジャンヌしかいないよ。頼りにしてるし、出来るならこれからもずっと一緒にいたいと思ってる。これがジャンヌを好きってことかどうかは分からないけど、でも」


 俺もジャンヌのように一呼吸置いて話す。


「ジャンヌが俺を好きって言ってくれたことが今、とんでもなく、嬉しい」

「……はいっ」


 ジャンヌが震える声でしっかりと返事をする。少し曖昧になってしまったけど、これが今の俺の本当に感じていることだ。

それからしばらくは、俺たちの思っていたことをお互いに話した。

 眠気もあり、うつらうつらだったから、どんな話をしたのか、いつまで起きていたのかは分からないけど、確かに俺たちの仲は深まっていった。




 あれから数日、俺はジャンヌと一緒に森でゴブリン相手に戦闘練習をしていたり、時にはジャンヌと語り合いながら、日々を過ごしていた。


 そして明くる日の朝、不意に部屋の扉が騒がしく叩かれる。

ジャンヌが何も言わずに先に行き、扉越しに問い掛ける。


「誰ですか?」

「あ、この声はジャンヌちゃんだな!?ユウタもいるよな!?」

「はい、お待ち下さい」


 騒がしい声に、ああ、カイドだなと見当がつく。案の定、ジャンヌがカイドが来たと言う。まあ、分かりやすい声してるもんな。主に声量的な意味で。


「はいはい、お待ち下さいな」


 俺は服を整えて、扉を開ける。


「あ、ユウタ!邪教の本拠地が見つかったぞ!ギルドまで来てくれるか!?」

「はい、分かりました。けどカイドさん、邪教の場所が見つかったのが嬉しいのは分かりますが、まだ日の出の直後ですよ?流石に早すぎでは?」

「あぁ!すまねぇ!じゃ、ギルドで待ってるからよ!」

「分かりました…て、もう行っちゃった」

「忙しない方ですね」


 カイドがさっさと走り去っていき、背中を見送っているとジャンヌから声がかかる。

 ほんとにな。ま、でもあれがカイドさんの良いところでもある気がするけどね。元気がもらえた気がするよ。


「邪教ですか。あまり戦いたくはありませんね」

「そうなのか?」

「はい。勝てないとかではありませんが、邪教を崇拝している人というのは、大概特攻してきますから」

「特攻?」

「はい、救われると、報われると信じて、死ぬことを恐れないのです。これが邪教の怖いところですね」


 ジャンヌは表情を変えずにそう言う。

 邪教というのは、まあ本当に偏った考えをしているものだからな。何しても神様がなんとかしてくれるって信じきっちゃってるんだろう。あぁ怖い怖い。


「とりあえず、朝食食べよっか?」

「はい」


 俺たちは邪教の壊滅のために、朝から精をつけるのだった。





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