奴隷館、そこは男の遊園地
明日は姫様の護衛か…
姫って言ったらあれだろ?オタサーの姫的な?ちやほやされるのが大好きなアレだろ?しかもアレって自覚あるらしいから怖いよね。あはは、オタサーの姫の護衛かー。オタク談についていけるかなー?
「ジャ、ジャンヌ?ユウタが虚空を見てブツブツなにか言ってるぞ…?」
「あれはマスターなりの精神統一です。明日の護衛任務に向けて集中しているのです」
「本当か?なんか半笑いで目が虚ろだぞ?」
「マスターは常に冷静ですから、何か策があるんでしょう」
「そ、そうなのか……」
ていうかこの世界にもオタサーの姫っているんだなー、全く不思議な世界だね?アニメなんてない世界なのにねー。不思議不思議~。
「いやあれヤバくないか?あ、ほら通行人に当たっちゃったぞ?」
「マスターにぶつかるとは…度しがたいですね。処理しますか」
「いや今のはユウタが悪いだろ!?なんでユウタのことに関してはそんなに過剰反応を示すんだよ!?大好きか!?」
「えぇ」
「えぇ……」
不意な衝撃に顔をあげると小さい男の子に当たってしまっていた。これは申し訳ない。
「大丈夫?ごめんね、お兄さん前を見てなかったよ」
「い、いえ!すいません!!僕が前を見てなかったです!すいません!」
「あ、そっか。じゃあお互い様だね」
「え、えと!あの…本当にすみません!」
小さい男の子は何度も頭を下げて謝る。そんなに、気にすることもないんだけどな?
ていうかちょっと待て?この子……片目が開いてないな…もしかして盲目なのか?
「き、君?その目は…」
「あ!僕いかなきゃ!本当にすいませんでした!」
「あっ」
止めることもできず、そのまま走っていく男の子。名前くらい聞いておくんだったか?
「マスター、今の子は?」
「分からない。けど、片方の目が開かないようだった」
「そうですか…もしかしたら何かあったのかもしれませんね」
正直、だからと言って何か出来るわけじゃあないから、突っ込むつもりもないが…大丈夫なのかな?
「ユウタ、どうせ明日この街から出ていくんだから、気にしても仕方ないだろう?」
「それも…そうだな」
でも…うーん……気になるなぁ。
それからはしばらく町をうろつき、夕方になる手前ぐらいになったところで二人に切り出す。
「あ、二人とも、先に宿に戻っていてくれない?俺は少し用事があるから」
「マスター?……分かりました。暗くなる頃には無事に帰ってきてくださいね」
「ん?私は着いていくぞ?」
「レティアさん、私たちは先に戻っておきますよ」
「えぇ?何故だ?荷物持ちくらいならするぞ」
「そういうことではありません」
まるで分からないと顔をしかめるレティアと、それをなだめるジャンヌ。
ま、ジャンヌにはバレるよな。ありがたいことにレティアを抑えてくれるみたいだし、今のうちに行くか。
「じゃ、行ってくるよ!ありがとなジャンヌ!」
「あ!ユウタ!」
「レティアさん、良いから戻りましょう。行ってらっしゃいませ、マスター」
「むぅ……」
不満気に声を漏らすレティア。
まあまあ、今は許してくれって。すぐ帰るからさ、その時は構ってやるから。
よし…じゃあ入るか!奴隷館!!
え……?男の子?ははっ、言ったじゃん?突っ込むつもりはないって。ほら、それよりも奴隷を買おう?
「こんにちはー」
カイドさんに教わった道を辿り、俺は奴隷館に来ていた。少しだけ路地裏へと入ったところにある、布を被ったお店。外から中のようすは見れない。
布を退けて店に入ると、すこし豪華なロビーが広がる。中心には清潔感のある黒い服を着た初老ほどの男性が立っていた。
「おや、いらっしゃいませ。お客様」
「ここの店員さんですか?」
「いえ、オーナーをやらせてもらっております。ジェフともうします。以後お見知りおきを」
深々と頭を下げるジェフさんにこちらも頭を下げる。相手が頭を下げるとこちらも下げたくなるって、日本人の特徴だよね。
「この度は奴隷をお買いに?」
「ええ、そんなところです」
奴隷館に奴隷目的以外に来ることなんてないだろう?買う意思を確認したかったのか?
「それでは、こちらへどうぞ。あ、お客様。名前は?」
「ユウタです。好きに呼んでください」
「ではユウちゃんでよろしいですか?」
「おっと?」
なんか真顔でボケを突っ込んできたぞ?まて待て、え?ボケだよね?確かに好きに呼んでくださいとは言ったけど、客を相手にユウちゃん?いや良いけど…本気か?
「冗談ですよ、真に受けないでください」
「そ、そうですか」
分っかんねぇ!!この人全然わかんねぇ!!ボケるならもっとボケらしくボケてくれない!?
「ご希望はありますか?」
「そうですね、出来る限りは女性が良かったりしますね」
へへへ、とついニヤける。いやなんか恥ずかしいな。別に男でも良いんだよ?ただまあ……ね?
「なるほど、では年齢層はどうしましょう?」
「んー…お任せでお願いします」
「そうですか。では10歳~14歳。40歳~60歳で探しましょう」
「いや絶対おかしいよね!?明らかに外してるよね!?一番重要な年齢層が飛んでるよ!?」
「おや、これは失礼いたしました」
びっくりするわぁジェフさん。どう考えてもこれはボケだわ。流石の俺も突っ込めたぞ今のは。
よし、これで20歳くらいの────
「3歳~8歳ですよね」
「ペドフィリアっっ!?」
「違いましたか?」
「的外れも良いとこだよ!!普通に結婚できるくらいの年齢の女性を見せてください!!」
「分かってますとも。18歳前後で良いですか?」
「最初からそうしてください…」
なんか疲れたわ……3歳から8歳って……幼女じゃん…幼女どころか最早幼児じゃん……びっくりしすぎて敬語を忘れかけたよ。
「ではこちらへどうぞ」
「やっとですか……」
案内された部屋に入ると直線上に長い部屋があり、左右に最低限の布しか身に付けていない女性が鎖に繋がれていた。
「この辺りの奴隷をみな、300万jでございます」
「なるほど」
300万。3人は買えるみたいだな。まあそんな買うつもりもないけどね。
ジェフの後に着いていき、奴隷を見て回る。
彼女らの目付きは三つに別れている。
良いところに買ってもらおうと、目を爛々とさせているもの。この世に無関心なほどに虚ろな目をしているもの。もしくは激しい憎悪の目だ。
「ふぅん……キレイな子が多いな……」
「えぇ、質と量を併せ持つことで初めて儲かるのです。私は常に強欲ですから、両方とも抜け落ちてはならないのです」
「なんだか格好良いですね、それ」
ふふっと笑いながらしゃべるジェフさん。相反するような二つだが、その二つを両立できたならそれは確実に儲かるだろう。ただ、その為の努力がどれ程のものかは、分からないけどね。
「どうでしょうか?一通り見ていきましたが、心に響くような奴隷はいましたか?」
「うーん…そうだなぁ、あんまりいないなぁ」
「そうですか、それは残念ですね」
これだけいるんだから、一人位は気に入る者がいるだろうと思っていたのか、ジェフさんは目を少し開く。
「ねぇ、ジェフさん。さっきこの部屋に入ったときに『この辺りは300万j』と言いましたよね?ということは他にいるということですか?」
「…………そうなりますね」
少し開いた目を更に大きく見開いてこちらを見るジェフさん。ま、そりゃそうだろうな。さっきだって質と量とか言っていたが、そのわりにはここの女性だけでは多くないと思えた。
まあ、この世界の奴隷館なんて来たことないから、あくまでも勘だけどね。
「ほら、障害を持っている子とかを扱っていたりしない?」
「こちらへどうぞ」
目を伏せて背を向けるジェフさん。さて、どんな子がいるかな?例えば、『片目が見えない少年』とかいないかな?
「こちらが、低額の子達がいる部屋になります」
「どうも」
案内された部屋はさっきよりも薄暗い。あまり人を入れないのか、周りの奴隷たちが一様に声を漏らす。視線も怯えたようだ。
「片腕がないもの、片足がないもの、目が見えないもの…色々な障害を持つ者がいます。ここに関しては男女混合ですが、お許しください」
「悪いね、高いやつを買ってやれなくて」
「いえ、この子達も買われなくて困っていたものですから」
ジェフさんが目を伏せる。
ジェフさんは、たぶんだけどこの子たちを心配している。他の奴隷たちに関してはそのまま『奴隷』と言っていたのに、今は『この子達』と言った。それはつまり、この障害を持った子達に対して特別な感情を持ち合わせているということだ。
「見せてもらうよ」
「どうぞ」
長い部屋を歩き、奴隷たちを見て回る。
視線が向かってくるのが分かるが、そちらを見ると必ず視線を逸らす。目を合わせようとはしない。怖いんだろうな。
「すいません、愛想の良くない子ばかりで」
「仕方ないんじゃないですか?みんな、障害があるということは、それだけの過去があるということですから」
「心遣い、感謝いたします」
それぞれが向けてくる視線はみんな一様に『恐怖』だ。怯えている。中には近付くだけで泣き出すなんてこともな。
────と、その中で見覚えのある男の子を見つける。
「昼間の少年だよな?」
「……お、お兄さん?」
ここに来る前にぶつかった男の子だ。肌がかなり黒く、髪が藍色で前髪が長く、そして片目が開いていない。
「もしかして知り合いですか?」
「ええ、まあ。ちょっと前に会ったんです」
「そうですか、なら良かったです。その為に外を歩かせてましたから」
「そうなのか?」
「ええ」
実は、というかやはり、あの子だったらしい。
ジェフさんによると、この子達は本当に売れることが少なく、いつかは『処分』されてしまうらしい。
そうなる前に買ってもらうため、ジェフさんが町を歩かせて、買ってもらえるように、気に入ってもらえるように振る舞ってくるということだったのだ。
「まあ、そんなことだとは思ってたよ」
まず見た目が他の人たちと違って布の面積が小さすぎる。胸と腰を守れるようにしてあるだけで手足は付け根まで見えていた。
そして首につけられた器具のようなもの。明らかに拘束具だった。
更に言えばあの態度もそうだ。なんども下げる頭はここのみんなと同じ『恐怖』を宿していた。それから導きだした答えは、奴隷ということだ
「フラン、こっちに来なさい」
「はい」
フランと呼ばれて、男の子が出てくる。ん?フラン?
「ふ、フラン=トリッシュです…よろしくお願いします」
「えっと……あの、もしかして……女の子?」
「え?はい。そうですよ。フランは女の子です」
「えぇぇ!?」
え?だってお前!……えっ!?マジで!?
「あ、あの……僕…女の子に…見えませんよね」
「えぇぇぇ!あ!いや!そんなことないよ!?見える見える!めっちゃかわいい!気に入った!買う!もう買っちゃう!だから許してください!」
「か、かわっ!?…………プシュウぅ……」
涙目になるフランに全力で謝り、気が付いたら買うなんて言ってしまった。なんかフランは顔を赤くして煙だしてるけど……え?大丈夫なのその煙?
いやまあ、買うつもりだったから良いんだけど、なんかもう、ホントにごめんなさい。
だって!一人称僕なんだもん!前髪で顔を隠してるから上手く目も見えなくて判断つかなかったんです!
「お買い上げになるんですか?」
「はぁ…はぁ……うん、お願いします」
「片目が見えませんよ?」
「分かってますよ、なんjです?」
「ダークエルフですよ?」
「あんたは買わせたいのか買わせたくないのかどっち…………え?」
い、今、ダーク……エルフって言ったか?え、エルフ?
「も、もしかして今、ダークエルフって言ったのか?」
「はい。この子はダークエルフの少女です」
「ま……ま……マジかぁーーーっ!!」
ダークエルフ!!それは褐色の肌にまとった気高い雰囲気がかっこいいダークエルフ!!そしてそのダークエルフの少女だとっ!?こ、これは……お買い得だぜぇぇ!!
「やはり、ダークエルフはダメですか」
「え?」
「すいません、他の子を探しましょう」
「いやまてまて!なんで!?いいじゃん!ダークエルフ!俺は好きだよ!」
「ぴぃっ!?…………しゅ、しゅき……?」
「それは本気で言ってるんですか?」
「当たり前だろう!ダークエルフなんて、人類の宝じゃないか!!」
なんか側で更に顔を赤くして『しゅき……しゅき……』と連呼しているフラン。
そして目を真ん丸とさせているジェフさん。大丈夫?そんなに目を開けたらドライアイに、なっちゃうよ?
「そ、そうですか……ではお買いになると言うことで?」
「あぁ、よろしくお願いします」
これは良い買い物をしたな。ていうか、なんであんなにびっくりしてたんだ?不思議だわ。
結果、100万でフランを買い、宿に連れて帰ることになった。
あぁ、怒られるかなぁ、レティアとかに。でも仕方ないよな。ダークエルフなんて、惹かれない方がおかしいもんな。
俺はフランと手を繋いで奴隷館を出る。外はもう暗くなってきている。すぐに帰らないとジャンヌにまで怒られちまう
「じゃあ、一回宿屋に帰るか」
「は、はい!」
緊張気味のフランを見て笑いをこらえつつ、宿へと二人で戻るのだった。
いつまでも宿屋にいられないし、家とか買っちゃおっかなぁ……。




