新たな任務
「あ、そういえばユウタ、お前今日からCランクの冒険者な?はい、ギルドカード」
「え?あ、はい。ありがとうございます」
部屋を出る直前に軽く渡される鈍い灰色?銀色?くらいの薄っぺらなカードを渡される。
ふむふむ、なるほど、これがギルドカードか。よっしこれでクエストを受けられるぞ……
「ってバカぁぁあ!!」
「な、なんだよ!?」
「なんだよじゃなくて!これこんな簡単に渡していいやつなんですか!?」
「別に良いんじゃね?ほら、俺ギルドマスターだし」
「そ、そうかも知れないですけど…!まあ、貰えるものは貰っときますよ……」
別にいらないわけじゃないけど、何も言わずに作られたことにすこし驚いた。いや、良いんだよ?
「ん?なあユウタ、それ貰うのか?」
「え?まあな。貰わなきゃ損だろ?レティアは反対なのか?」
「だって、貰ったらクエストを受ける義務が発生するぞ?」
「は?」
俺は首をゆっくりと動かしてカイドさんへと視線を向ける。
「そ、そんな見るなよ……照れるだろ?」
「気持ち悪いわっ!!え!?そんな義務が発生するんですか!?」
「そ、そんなこともあったっけなぁ……?ヒューヒュー」
「口笛吹けてませんよ…誤魔化すの下手すぎじゃないですか」
完全に利用する気だったなカイドさん。
「べ、別に義務じゃあねえよ!ただ、俺から直接頼んだりして、それを断ったら評判が下がるって言う……」
「ダメじゃん!?つまりカイドさんの言うことを聞く人形になれと!?」
「そ、そんなこと言ってないだろ!?ただちょっと、ほんのちょっと働くだけじゃねえか!」
「俺はスローライフを送りたいんですよ!平凡で!楽しくて!ちょっとエロい感じの!」
「マスター?」
「おいジャンヌ、こいつ今ちょっとだけ本心が混ざったぞ」
あ、やべやべ…うっかりしてたよ。
ていうか良いじゃん!エロいこと期待したって!だって俺は男だよ!?普通に思うよ!わりかし健全だよっ!?
「まあ、程々にしてくれるんなら良いですけど…」
「えっ本当か!?よっしゃ!さすがユウタだ!話が分かるじゃねえか!」
「だから言ってるじゃないですか、俺は頼まれたことは断れないタイプなんですよ」
カイドさんから肩を組まれて背中を叩かれる。いたいって……
ま、何かあっても、なんとかなるだろ?
「あ、じゃあとりあえずユウタ。護衛頼める?王都まで」
「は?」
「マスター、今マスターが言ったこと、もう忘れてますよカイドさん」
「程々にの意味が分かってないんだな。可哀想なやつだ」
「い、いやそれは悪いけどよ!頼むって!大手の方なんだよ!」
カイドさんが手を合わせて頭を下げる。
ああもう…だから俺に頼み事はしないでくれって…断るのは嫌いなんだから。
「仕方ないな」
「おいユウタ、やるのか?まあ私は構わないけど」
「マスターは優しいですから、頼まれたらやっちゃうんです」
「難儀な性格してるな、ユウタは」
「放っといてくれ、レティア」
俺もいつも思ってるさ、断れるなら断ってる。
「カイドさん、詳しく聞かせてください」
「本当か!?よっしゃよっしゃ!」
しめしめといった感じで笑みを作るカイドさん。もしかして分かってて頼み込んだのか?……まあ別に良いけどさ。あんまり使われるのも嫌だなぁ。
「カイドさん」
「ん?なんだジャンヌちゃん」
「申し訳ありませんが、あまりマスターを困らせないでくれますか?」
「うっ……やっぱり…ダメか?」
「ジャンヌ…」
ため息をついてカイドさんに話を聞こうとすると、横からジャンヌが出て来て俺をフォローしてくれる。
「マスターは優しい方ですから、頼まれたら断れません。しかし疲れはします。カイドさんはカイドさんで都合があるかもしれませんが、それはこちらも同じです。マスターをご自分の都合で使い潰そうなんて思っているんでしたら……殺しますよ?」
「ん、ジャンヌが言うなら私も言うが、ユウタは良いやつだ。なんだかんだ言って最後までやり通してくれるからな。だけど、そんなユウタを困らせるなら、誰でも許さない。私は本気だからな。私だけでもこの町くらい吹き飛ばすことくらいは出来る」
ジャンヌとレティアが厳しい表情をして俺を庇護してくれる。
二人とも、俺のためにそこまで思ってくれてるのか…それはなんというか、すこし恥ずかしいが嬉しいな。でも、それは言い過ぎだ。え、ていうか本気出せばこの町吹き飛ばせんの?なにそれ怖い。
「そう、だよな……すまない!悪かった!ジャンヌちゃん!レティアちゃん!」
「謝るならマスターに」
「悪い!ユウタ!すこし調子に乗りすぎた!」
「い、いえ。そんなことは…」
実際、カイドさんに悪気はないのだろう。俺に謝るときもしっかり目を合わせて、頭を下げている。悪意は微塵も感じない。
「それとジャンヌ、レティア。言い過ぎだよ。カイドさんだって、俺たちを助けてくれた時があっただろう?ほら、囮になってくれたし」
「そ、そこなのか?」
「すいません、マスター。言い過ぎました」
「わ、私は悪くない!ユウタが心配だったから……っ」
ジャンヌは素直に謝るが、レティアはそっぽを向ける。
もちろん、レティアが悪い訳じゃあない。というか誰も悪くない。ただ、それにしたって言い方があるってだけだ。
「レティア」
「な…なんだよぅ……?」
少し涙目になって反抗気味に呟く。
俺に怒られると思ってるみたいだ。ふふ、可愛いじゃんか。別に怒るつもりなんてないんだけどな。
「心配してくれてありがとうな?」
「ん……」
「でも言い方ってのがあるんだ。それは分かるだろ?」
「うん……」
「じゃあどうするんだ?」
「わ…悪かった。私も…言い過ぎた」
「うんうん、よしよし。そうだよな」
俺は軽く頭を撫でて肩を震わせているレティアを慰める。
レティアとジャンヌは純粋に俺を心配してくれて言ってくれた。それにカイドさんについても、少し言いたいことはあった。
でもレティアとジャンヌが言ってくれたから俺の気も晴れた。二人とも、本当に優しい子だ。悪いと思ったらしっかり謝れてる。
「レティアは良い子だぞーよしよし」
「うん……レティアは……良い子…………」
「そうだぞー、よしよしよしよしよしよしよし……」
「って撫でてんじゃねえよっ!?」
おぉ、悪い。ついやってしまった。
「マスター」
「ん?」
「私も、よしよししてください」
「マジで?」
レティアはどっちかっていうと、可愛い感じで、頭を撫でるのも抵抗がないけど、ジャンヌは完全にキレイ系の美人さんだ。モデルみたいだと言っていい。そんなジャンヌの頭を撫でるというのは…すこし気恥ずかしいのだが。
「マスター、ダメですか?」
「う……分かった分かった。よしよし」
「ん…気持ちいいです……マスター」
そうか、なら良かったよ。ていうかそろそろ止めない?今も一応カイドさんやトーナさんの前だよ?トーナさんに至っては今回一言も喋ってないよ?……もっと自己主張しても良いんだよ!?
「んぅ……ふっ……あ……マスター……ん、もっ…と…………気持ち……いい…です」
「うーん!!その声の出し方はちょっとどうかなぁぁ!?」
ダメじゃない!?なんか変な気分になってくるよ!?ほら、レティアがうわぁ…みたいな顔してこっち見てるじゃん!トーナだって……
「わ、私は見てないです………チラ」
「見てるじゃんか!!」
手で顔を隠してるけど指の間から見てるのモロバレだよ!?チラとか言っちゃってるし!?
「じーっ」
「そんでカイドさんはガン見かよぉっっ!!」
少しは遠慮しろよ!?仮にもギルドマスターでしょ!?ほらもうやめだやめ!恥ずかしすぎるんだよ!
「あっ……」
「そんなに目で追っかけないでくれ…俺が悪いみたいな気持ちになってくるだろ……」
ジャンヌが退けた手を寂しげに見つめる。
はぁ…だからなんでこうも話が逸れるんだよ……
「で、護衛ってのは、具体的に誰の護衛ですか?」
「姫様だ」
「は?」
ひめ?……ひめ、ひめ…様?えーっと、漢字で書くと、姫……?なるほど、姫か。姫様?それはつまり……姫様なのか!?
「なんだかこんがらがっているようだな」
「当たり前ですよ!姫って、どこの姫ですか!?桃ですか!?ピーチですか!?俺は赤い服を着て髭をつければいいんですか!?」
「王都の姫様だ。なんでそんな錯乱してんだ?お前はお前のままで姫様を王都まで護衛してくれ。王都までの護衛って言ったろ?」
「そういえばそんなこと言ってましたね!」
くそう!俺はスローライフを送りたいって言ってるはずなのに!姫様とかほぼ対極じゃねえか!!正反対じゃねえか!!
「ていうか、俺たちなんかが姫様の護衛ってどうなんですか?良いんですか?」
「お、行く気になったのか」
「もうやるって言っちゃったんですから、今さら撤回なんて出来ませんよ…」
「本当に良いやつだなお前は!」
感極まったようにして抱きついてくるカイドさん。あぁもう!暑苦しい!
「分かりましたから!質問に答えてください!」
「おう!まあ護衛ってのは念のためと言ったところだ。もちろん国お抱えの親衛隊もついている。だが、頼まれたんだからしょうがねえ。こっちとしては絶対安全にしたい。姫様を怪我させたなんて知れたら俺のギルドが潰れちまう」
「そんなの知りませんよ……てことは俺たちが働くことはほとんどないわけですね?」
「そういうことだ。それだけで金額もある程度弾んでくれる。条件は好条件のはずだ。な?だから頼むよ!」
「はいはい。行くって言ってるじゃないですか。いつからですか?」
なんだか調子の良い人だなぁカイドさんは。
まあ、この街にもそんな長いこといた訳じゃないが挨拶できるところにはしておきたいし、最低3日も空いてれば……
「明日だ!」
「マジかぁ……」
なんか分かってましたよ。えぇ、分かっていましたとも。護衛任務かぁ、魔石が増えるといいなぁ。
良ければブクマ、感想、評価下さい。作者が小躍りします。
えんやーこーらさーのどっこいどっこいこーらさ!




