あれ?本題に全然入ってないね?
あれからまた数日、今日はカイドさんに呼ばれ、ギルドに行くことになった。
まあ、十中八九、邪教についての話だろう。また報酬の話をすると言っていたからな。
「カイド?誰だそいつ?」
「あ、レティアは知らなかったっけ?ギルドの従業員らしいよ。レティアを召喚する前に邪教を解体したんだ。これからその時の報酬の話をしに行く」
「へぇ、ユウタってそんな慈善事業をするんだな」
「頼まれたら断れない性格でね…」
カイドさんとトーナの二人に頭を下げられたからな。カイドさんに至っては大人だ。大人に頭を下げられて意味もなく断るようなことはできない。
「マスターは優しいですから」
「それはわかる、けどあまり危険過ぎることはするなよ?」
「あ、もしかしてレティア、心配してくれてる?」
「当たり前だろう。ユウタに何かあってからじゃ遅い」
「あっ…………そ、そうか。悪い」
ぐぬぬ……くそう、真顔で言うなよレティア……恥ずかしいだろ。しかも俺がおちょくろうとしたの気付いてないし…やっぱり天然か?いや素直なだけか。
「まあもし危ないときは、レティア。それにジャンヌも、助けてくれ。一人じゃ俺は出来ることが限られてる」
「ふん、仕方ないな」
「はい、マスター」
レティアはさっきので少し恥ずかしくなったのか、顔を逸らして、ジャンヌは真っ直ぐこちらを見つめて頷く。
ふふ、なんだかんだレティアが仲間意識を持ってくれてるようだな。これからも仲良くしていきたいものだ。そして…いつかはその体を……
はい、嘘です。そんな勇気ないです。
「レティア、俺を誘惑しないでくれ!」
「んぬっ!?してないぞ!何を言うんだ!」
「マスター」
「ん?」
声が掛けられてジャンヌの方へ振り替えると、ジャンヌが体を屈ませて手を膝につき、二の腕の辺りで胸を絞める。そして一言。
「だっちゅーの」
「「えっ……?」」
ジャンヌ…それは……なんというか…色々言いたいことはあるんだけど……
「古いわっ!!」
パイレーツとか今頃の子は知らないだろ!!誘惑のつもりだったの!?て言うかなんで知ってんのっ!?
●
ギルドの扉に手を掛けて、中へと入っていく。すると目の前を目付きが悪く、大柄な男が俺を押し退けて出ていく。
「おっと…」
急に押されて倒れそうになるが、うまくバランスを取ってなんとか立つ。
うーん、機嫌でも悪かったのかな?何も言わずそのまま言っちゃった。
「マスター、処理しますか?」
「やめなさい」
俺のことを思ってくれるのはありがたいけど、殺すのはやめような?
「ユウタ、貫くか?」
「お前もか!?てか怖いよ!」
貫くってなに!?槍で!?どこを!?
「おうおう、うるさいと思ったらユウタ、来てたのか」
「えっと…すいませんカイドさんっていますか?」
「いや俺だろう!?目の前にいるだろ!?何いってんだ!?」
「マスター、奥の方にいるのかもしれません」
「ジャンヌちゃんっ!?お、おい頼むから無視しないでくれよ!かなしいだろぉ!?」
「あ、カイドさん。いたんですね、気付きませんでした。髪型変えました?」
「変わってるように見えるか!?なぁ!?」
その場で崩れるカイドさん。まぁ、冗談だからさ、気にしないでください。
あとカイドさん、ツッコミが鋭いですね。もしかして慣れてます?
「はぁ…はぁ……とりあえず中へ入ってくれ。事務所へ通すから……」
「分かりました。大丈夫ですか?カイドさん」
「お前のせいだよ!」
はて?なんのことですかね?
カイドさんに着いていき、少し大きめの部屋へ通される。中には長机と、その左右に相対するようにソファーのようなものが置かれている。人が5人は並べそうだ。
「座ってくれ」
「分かりました。ジャンヌとレティアがいても?」
「構わない。というかレティア?こっちの見たことないお嬢ちゃんか?」
「あぁ、そう──」
「私はお嬢ちゃんじゃない!もう立派なレディーだ!あとお前ちょっと臭いぞ!ここまで臭ってる!」
「oh…」
言葉を妨げられ、挙げ句に、何の罪もないカイドさんを射殺さんとばかりの突然の暴言。
流石の俺もびっくりし過ぎて、洋風に声を出してしまった。ていうか臭いってかなり心を抉るぞ?
「ゆ、ユウタ……」
「すいません。これ、本音なんです」
「そんなに臭いかっ!?」
はっ!?間違えた!これはフォローにはならない!?
「ま、間違えました。レティアは素直なんです」
「私は思ったことしか言わないぞ」
「だから俺は臭いんだろう!?くそう!水浴びしてくる!!」
ドタバタと音をあげて出ていくカイドさん。
あれ?俺、選択間違えた?……えへへ。
「あ、あの、ユウタさん?いま、カイドさんが泣きながら走っていきましたけど……」
「あ、トーナ」
開け放たれたドアから恐る恐るといった感じにトーナが茶菓子と紅茶を持って入ってきた。
変なところを見られてしまったようだ。
「なんでもないんだ、気にしないでくれ」
「はい……て、あっ」
「どうした?」
「いえ、あの、ジャンヌさんとユウタさんだけかと思って、二人分、しか紅茶を持って来ず…」
「あぁ、レティアを知らないもんな」
トーナが持っているトレイには俺とジャンヌ、そしてカイドさんの分と思われる紅茶がおかれている。
まあ、それは仕方ないだろ?知らなかったんだし。
「レティアさん、ですね。よろしくお願いします」
「ん?あぁ、レティアだ。お前の名前は?」
「トーナです。ここの受付とカイドさんの臨時秘書をやってます」
「秘書?なぁトーナ、もしかしてカイドさんって何かの重役なのか?」
「え?はい。カイドさんはここのギルドマスターですよ?」
「えええぇぇぇぇえっっ!?」
知らなかったんですかといった表情をするトーナ。
え?マジで?あんな馬鹿そうなのに?あ、いけないいけない。つい本音が。
「でも邪教を解体するときに、戦闘をこなしてたぞ?普通に冒険者か、受付かと思っていたよ」
「まあ、あんまり壁を感じさせるような性格じゃないですからね、カイドさん」
苦笑いを浮かべて紅茶に口をつけるトーナ。
ん?それカイドさん用じゃなくて自分用だったの?あ、そう……
もうすこしカイドさんに優しくしない?俺も意識するからさ。
数十分後、またドタバタという音と共にドアがうるさく開けられる。
「ただいま!!」
「おかえり、カイドさん」
「カイドさん、本当に水浴びしてきたんですね」
「む、帰ってきたのか、重役」
レティア?その呼び方はやめよ?確かにさっきそんな下りあったけどね?名前、カイドさんね、覚えてあげて?
「ふ、ふふ、ふふふ!これで俺はもう臭くないだろ!?」
「お、おぉ……なんか石鹸の匂い……」
カイドさんから柑橘系の爽やかな匂いがする。本当に良い匂いだ。これなら流石のレティアも文句はないだろう……
「んー、なんかもう生理的に嫌だ」
「理不尽っ!?」
「あ、おいレティア!カイドさん泣いちまっただろ!?みんな思ってるのに言わなかったことだぞ!」
「おい!?みんな思ってたのか!?あ!ジャンヌちゃん、そんなことないよな!?」
「すいません、少し離れてもらってもいいですか?」
「そんなに嫌か!?」
「ま、まあまあ皆さん、落ち着いてください。カイドさんを虐めるのは後にしましょう」
俺たちから散々言われて涙目になっているカイドさんを宥めて、トーナがまとめる。
「結局後で虐められるのか!?」
「それで、俺はなんで呼ばれたんです?報酬ですか?」
「無視かよっ!?……はぁ、ああそうだよ。これから報酬を渡す。トーナ。」
「はい」
まだ若干涙目なカイドさんがトーナに合図をすると、トーナがどこからかケースのようなものを出す。
「これが今回の報酬です、確認してください」
慣れた手つきでケースを開け、中身が見せる。
中には虹色のコインが数枚、濃い赤と薄い赤のコインがかなりの数入っている。
「全部で365万だ。かなりの報酬だぞ?」
「凄いな…これだけもらっていいですか?」
「当たり前だ、あの邪教はかなり成長していたしな、緊急度は高かった」
「そうですか、じゃあ遠慮なく貰いますね」
ケースを受け取り、重みを確かめる。コインだが、特殊な材質なのかこれだけ枚数があってもあまり重くは感じない。
もともとあったのが約800万ぐらいだから、これで1100万以上は確実にあるわけだ。
「これだけありゃあ、ユウタも奴隷が買えるな?」
「奴隷?そんなのがあるんですか?」
すこしニヤニヤしたカイドさんの発言に首をかしげる。
あれ?G2Wにそんな要素あったか?いや、ない。スマホなんていう、子どもが使うような機械のアプリで『奴隷』なんて単語、苦情が来るレベルだ。全く知らないぞ?
「お?知らなかったのか?まあ、もし村の出身とかなら知らないかもな。奴隷ってのは要はあれだ。なんでも言うことが聞かせられるって言う……な?」
「マスター、これ以上の話は必要ありません」
「悪いジャンヌ、これは大切なことだ。俺たちの将来に関わる」
「ユウタ!?これそんな大事じゃないよな!?」
何を言う。別に、G2Wにあるとかないとか、そんなことは関係ないんだよ、微塵もね。
それよりも…奴隷だと?奴隷とはつまり……奴隷と言うことかっ!!(謎)
「どこにいけば良いんです?」
「へっへっへ……ユウタ、話が分かるじゃねえか。まずはここをこう行ってだな」
カイドさんがノリノリに町の地図を出して説明を始める。ふへ、俺も変な笑いが出そうだ。まるで初めてエロ本を買ったときと同じ感覚だぜ。
「おいジャンヌ!ユウタの顔!なんだか危なくないか!?」
「これは……レティアさん、諦めましょう。今のマスターは私たちには止められません」
「なんかうへへとか言ってるぞ!」
「マスター……」
ごめん!けどこれは男のさがなんだよ!夢なの!男が思春期には必ず想像してしまうことなの!だから今だけは俺は……修羅になるっ!!
「私はどうすればいいんですか……?」
一人、トーナが呟くのだった。




