眠っている間に
「完全に寝不足だ……」
俺はジャンヌとレティアの武器についての語りを延々と聞いて、本当に丸々1日を使ったのだった。
いやもう後半意識ないから。なんで二人とも徹夜でそんな元気に語ってるの?不思議で仕方ないよ…
「マスター、すいません。少し興が乗りすぎました…」
「わ、悪かったユウタ…大丈夫か?」
「うん、悪いんだけどしばらく休ませて貰える?」
「あ、マスター、部屋がツインのままですが、レティアさんがいますし、どうしますか?」
「あぁ……もう、適当にしてくれ……」
流石の俺も、意識がほぼなくなり、朦朧としたなかで答える。
きっとジャンヌが良い感じに部屋割りしてくれるだろう……もう、無理。
●
【ジャンヌ視点】
マスターが寝てしまいました。如何しましょうか。部屋はまあ、トリプルでいいでしょう。
「レティアさんはどうしますか?」
「ん、私がユウタを困らせたから、ちゃんと寝れるように見てる」
「そうですか、では私は女将さんと話してきますね」
「あぁ」
レティアさん、言うほど悪い方じゃないんですよね。今も気を使ってマスターの寝顔をずっと見てます。
ちょっと近すぎません?
部屋から出て食堂まで足を運ぶと女将さんが朝ごはんを運んでいます。
忙しない足取りに止めるのに少し戸惑いましたが、女将さんの方から声がかけられました。
「あら、ジャンヌちゃん!おはよう」
「おはようございます」
「どうしたの?朝食持っていくかい?」
「いえ、マスターはこれから寝ますので、しばらくしてから頂きます」
「ならジャンヌちゃんだけ先に食べるかい?ジャンヌちゃんは起きてるんでしょ?」
「いえ、私は常にマスターと共にあるので、食事もマスターと」
「へぇ、本当に幸せ者だね、あのお兄さんは」
女将さんが苦笑いしながら言います。
マスターが幸せ者なのではなく、マスターに仕えられる私が一番の幸せ者なのですが…いえ、マスターがそれで幸福に思ってもらえるのなら、私は嬉しいです。
あ、忘れていました。部屋について聞くのでした。
「女将さん、実は」
「そういえばジャンヌちゃんは昨日、ずっと話してたみたいだけど、もしかしてお兄さんと何かあったのかい?」
「そうなんです、昨日は一瞬も寝ることなく、マスターに私の武器について熱く語っていました」
「へぇ!良かったじゃないかい!」
「はい、マスターも最後の方には私の気持ちの熱さにクラクラとしていました」
「おぉ!ジャンヌちゃんの魅力に気付いたのかねぇ!?」
「そうかもしれません」
頭をカックカックとなんども相づちをしていました。これでマスターは剣の魅力に気付いたことでしょう。
はて……?何か忘れていますね?しかし、忘れることですから、さして大事でもないのでしょう。それよりも女将さんとの話です。
●
【レティア視点】
昨日は熱く喋りすぎてしまった…私もユウタが話を聞いてくれるのが嬉しくてつい話しすぎた……
「すまなかったなユウタ」
寝ているユウタのサラサラな髪をかき撫で、聞こえるはずもない謝罪を投げる。
スースーと軽い寝息を立てるユウタの寝顔を見つめていると、なんだかイタズラをしてみたくなる。
「すー…すー……んがっ!?ん…んぅ」
「あはは、んがって言ったぞ!」
鼻をつまんで息を止めさせる。ふふふ、面白いな、これ。
「んぅぅ……」
「あ、悪い」
体を大きくよじらせて逃げるユウタを見て我に帰る。危ない危ない、寝ているのを起こすところだった。
眠いなら眠いと言ってくれたら良かったのに、私やジャンヌが話すのをちゃんと最後まで聞いてくれて、ユウタは本当に……
「レティア……」
「ひゃい!?」
不意にユウタが名前を読んで、体を震わせる。
なんだなんだ!?もしかして起こしてしまったか!?
「す、すまないユウタ!起こすつもりは…」
「レティアのレは……レバニラのレ……」
「は?」
どうやら寝言だったみたいだ。
くそう、驚かせるなユウタめ。あとレバニラって何なんだ。ムカつくからもう一回鼻を摘まんでやる。
「ん…んぅ?」
「ユウタが悪いんだぞ?全く…」
ユウタの顔を覗き込み、鼻で息が出来ず少し苦しげな顔をしているのを見て笑う。
「まあ、今日はしっかり寝てくれ」
「…」
あんなに私の話を聞いてくれたんだ。今度は私がユウタの話を聞いてやらなきゃな。だから、今はゆっくりしてほしい。
「私もジャンヌのところに行ってみるか……うあっ!?」
体をドアの方に向けようとした瞬間、足元にある荷物に足を取られ、後方に倒れる。
やばい!?
「……?」
思っていた衝撃よりも軽い、ポフッという感触に疑問を感じる。
なぜこんなに軽いんだ?まるでベッドに倒れ込んだような……!?
不意に体に少し逞しい手が絡み付き、引き寄せられる。
「あっ!?ゆ、ユウタっ!?」
なんだ!?もしかして本当にベッドに倒れ込んだのか!?
そ、それにユウタの顔が目の前にっ!?な、なんだこの状況は!?
「ん、ふぅ」
「いひぃっ!?は、鼻息が耳にぃ……」
だ、ダメだ……なんだかクラクラしてきたぞ……ゆ、ユウタ?そろそろ止めてくれないと…変な気分に……
「ゆ、ユウタ……」
「ん…」
「ただいま戻りました」
あっ!?
●
「ふぁぁあ……んー、よく寝た」
心地良い眠気と共に目が覚める。
外はもう赤く染まっていて、もう夕方になってるみたいだ。半日ほど寝てしまったらしい。
「ジャンヌ、レティア、おはよう」
「おはようございます、マスター」
「お!?お、おはようユウタ!よく眠れたか!?」
「え、うん。どうしたんだ、そんな慌てて」
「そんなことないぞ!別にユウタと添い寝したからと言って…」
「レティアさん」
「はっ!?な、なんでもない!なんでもないからな!ユウタ!」
「うん?」
なんだかよく分からないけど、ジャンヌが怒ってるオーラを出している。しかしその矛先は俺じゃなくてレティアに向いているな。
一体俺が寝ている間に何があったんだ?それにレティアも挙動不審だ。あと顔が赤い。
「ん、お腹空いたな」
朝から夕方まで寝ていたお陰で空腹だ。
もう夕食に近い時間だ、少し早めの夕食としようか。
「二人ともご飯はどうしたんだ?」
「私はマスターと共に食事をとるので、朝食と昼食は食べていません」
「わ、私も食べてないぞ!」
「え、大丈夫なのか!?二人とも、俺に気を使わなくて良かったんだぞ?」
俺は寝てたんだし、お金ならジャンヌに渡しているから食事程度なら買えるはずなのだが…全く、可愛いやつらめ!
「じゃあ三人で飯を食べに行きますか!」
「はい、マスター」
「おぉー!」
「レティアさん、今日のことは、マスターには秘密ですよ」
「わ、分かってるぞ!でもまさかジャンヌがあれから私と同じようにユウタと添い寝するとは思いもしなかったぞ…」
「レティアさんだけが添い寝するのはズルいです。それに、近い未来それが当たり前になりますから」
「ど、どういう意味だ!?」
「ふふ、マスターは誰にも譲りませんよ」
「おい二人とも?何を話してるんだ?早くご飯食べに行こうぜ、すっかり腹が減った」
ボソボソと話している二人に問いかける。
いつの間にあんなに仲良くなったんだ?




