第一話 家族①
シスターネットワーク。
文字通り、シスターのネットワークであり、全国に情報網を持つ。非公式な治療法であるとはいえ、そのシスターネットワークを介して多くの患者が治療を待っていることを知ることが出来る、便利な手段であるといえるだろう。
「……今日は、ラルスピークにもいかないといけないのか。仕事が多いことは結構だが、困ると言えば困るな」
僕の病気は、シスターとしての仕事を続ければ続けるだけで悪化する。
しかし、その病気であるということは外に出てこないから、だから誰にも分からない。
僕が、黙っていれば健康であることに変わりないのだから。
外に出た頃には、もうその病気は末期で、助からないのだから。
でも、僕はそれで構わない。
それでみんなの命が救われるならば――僕は構わない。
「ああ、聖なる神様。どうして我らにこのようなことをさせるのですか。私たちがどんな罪を犯したというのですか。そしてその罰は、いつまで続くのですか」
呟くように、ロザリオを握りながら、言った。
神への懺悔も、最早日常茶飯事と言ってもいいだろう。仕事と仕事の合間にやることだから、忘れたくて忘れられないことだし、それについてはシスターのみんながやっていることだ。
シスターは、神が人間に与えた罰を少しでも和らげるために存在する集団である、という認識が強いし、その通りだと思う。
実際問題、シスターの管理を執り行うシスター協会のトップは常に祈祷を続けているという。寝食を忘れて行うそれは、もはや苦行に近い。けれど、いつか必ずその祈祷が神に届くと信じて、トップは祈祷をし続けているのだという。実質の管理はトップから神託を得た元老院が執り行うため、トップがシスター協会にあれこれ言うことはないし、言う余裕も無いのだろう。
ラルスピークの町では、直ぐにシスターだとばれた。
というのもこの町に入るためには自分の存在証明をする必要があるためだ。その為には、自らがシスターであることを否定せず、肯定せねばならなかった。
シスターであることを、自らが言うことはしない。
理由は単純明快。シスターであることを、咎められるからだ。
もっと早く来てくれれば、助けられた。
もっとたくさんの人が来てくれれば、間に合った。
何でシスターだけがそんな贅沢な暮らしが出来るのか。
シスターは病にかかっているから絶対に触れてはならない。
そんな人間の、愛のない言葉が降り注ぎ、やがて心を閉ざしていく。
目的地に到着するまで、そう時間はかからなかった。僕の予定していた時刻の通りだったので、少し安心した。もし遅れて手遅れなんてことになってしまえば、批判は免れない。
無意味な不安は、意気消沈するに等しい。そもそもその論議に、利益は生じない。無駄な行為だといってもいい。
にもかかわらず。
彼らは目の前の事象しか確認しない。
彼らは目の前の事象しか黙認しない。
彼らは目の前の事象しか容認しない。
ならば世界は、神は、我々人類に何を望むというのだろうか。僕は考える。考えたところで何も分からないし、何も変わらない。変わることを知ると言うことは、知ることによって変わるということだ。僕たちは、シスターとして、世界の膿を排除しているだけに過ぎない。僕はそうやって生きてきて、きっと死ぬまでずっと人間の発展の礎となるのだろう。
礎と言えば聞き心地の良い発言になるかもしれないが、もっとシンプルに単語を解説するならば、それは礎よりも――犠牲だ。
犠牲の上に成り立ち、犠牲の上に人類は発展していく。
僕たちは元々、消費されゆく生き物なのだから。