8 「青年は出逢う」
「おい、大丈夫か!」
アルバートは、うつ伏せになっている衛兵を抱き起す。
衛兵はまるで、糸の切れた人形のように手足をたれ下げている。
「うわあ!」
衛兵の顔を見たアルバートは、思わず悲鳴を上げた。
衛兵の体を投げ落とす。
それの目は、まるで奈落のように落ち窪んで、赤黒い血を垂れ流し、
歯は幾つも抜け落ちて、ガタガタとなっていて、血が溢れる。
鼻と耳は削げ落ちて、黄色い脂肪と赤い筋肉が見えていた。
地面に投げ出された血まみれの衛兵は、
足元の血溜まりに、ばちゃりと落ちる。
悍ましい光景と鼻を突く臭気にアルバートは吐き気を催す。
「おげええぇっ!」
胃の中のものを吐ききったアルバートは咳き込む。
喉にある空気すら吐き出そうとする。
この死に様は普通ではない、この衛兵には何かが起こったのだ。
そのとき、どこからか金属を引っ掻いたような異音が周囲に響き渡る。
その音に、アルバートはゾッとしたような、嫌な予感に襲われる。
まるで突き飛ばされるように、近くの農家の陰に身を隠す。
アルバートは顔を青くしたまま、
吐いたままの口元を服の袖で拭う。
先ほど異音が聞こえてきた方角を観察する。
しばらくすると、カサカサという音と共に何かの影が衛兵の死体に近寄ってきた。
それは異様な見た目をしていた。
それは眼球の塊だった。
ぬめりとした液体に塗れた巨大な眼球が、
無数に寄り集まって一つの球体を形作っており、
それは家一つほどに大きい。
そしてそこからは昆虫のような黒足が八本生える。
後ろからは人参のような形をした赤い肉塊の尻尾が生えている。
その尻尾には無数の産毛が生え、太い脈が幾つも波打っていた。
アルバートはその異形を目にすると、青かった顔をさらに青白く染め上げる。
「嘘だろ……、魔物じゃねえか……」
それは、金属を引っ掻いたような声を時折上げ、全ての眼球のギョロギョロと動かして、何かを探しているようなそぶりを見せる。
何を探しているのか。
アルバートはそれが自分のことだと分かった。
つい先ほどあの場所でアルバートは大声を出したばかりだ。
それは、次の殺戮対象を殺すべく動き出す。
衛兵の死体の辺りを徘徊しだした。
だがどうやらアルバート方には来ないらしい。
別の場所に向かって行く。
アルバートは、その隙にこの場から逃げ出そうとゆっくり足を踏み出すが、あることを思い出す。
全魔物学者共通の仮説。
魔物が、例え一匹でも町の中に入り込めば、町の人間は全滅するということ。
それはつまり、アルバートが今ここを逃げても逃げなくても、死ぬということに他ならない。
それならば、せめて魔物に立ち向かって死にたいというのは勝手だろうか。
普通なら、今ここで逃げだして衛兵にこのことを知らせるのが賢い選択なのかもしれない。
しかし魔物はたった一匹で<壁の町>を滅ぼせる怪物。
それは、町の戦力である軍や衛兵隊を計算に入れてなお、ということだろう。
ならば衛兵に知らせることに意味はないとアルバートは思った、どうせそれをしても衛兵たちの寿命がほんの僅か上下するだけに過ぎないと。
だとしたら。
今ここで魔物に立ち向かったとして、困ることは何もない。
たとえ、無様に死んだとしても。
前のめりに死ねるならば、
それは誉れと言えるのではないだろうか。
そして、万が一にでも魔物を殺すことができれば。
それは、死ぬ運命にある町の人たちを、
救うことができるかもしれない。
アルバートは遠ざかっていく魔物を伺う。
まだこちらには気づいていない様子でゆっくりと歩き回っている。
すると、アルバートが魔物を見続けたことで、魔物のステータスが表示される。
それはアルバートを、まさに地獄へと突き落とすものだった。
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固有名:
種族名:集合する眼球蟲
Lv:3197
HP:3112
MP:193020
物攻:19364
物防:1
魔攻:56129
魔防:116205
速度:1640
スキル:
魔の眼
魂喰みの声
精神を崩す波
遠見の魔眼
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遂にインフレの片鱗が顔を出す
※文章を一部改変しました。12/27
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