7 「青年は夜の農村を歩く」
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アルバートは町の壁の近くに来ていた。
あたりは真っ暗だ。
しかし、アルバートはこの辺りをよく知っている。
壁の上にあがって魔物を見るために、通い詰めていたのが、ここの近くの壁にある衛兵の待機所だったからだ。
ここは、のどかな農村地帯。
町の人たちが食べる食べ物の一部を、ここで作っている。
壁に向かって、町の中央のほうに見えるのが、アルバートの住んでいる街だ。
ここからあまり離れていないため、建物がここからでも普通に見える。
人類が住んでいる<壁の町>は非常に巨大だ。
その中には、人の住む場所以外にも、
湖や川や森、草原に山岳地帯などが存在する。
ただ、アルバートのいる町は、
ほとんどが人の住む幾つかの<街>と草原地帯で構成されている。
ゲートで行ける他の<壁の町>には山の多い町もあれば、
大きな森のある町もあるようだが、
あいにくアルバートは他の町には行ったことが無い。
<壁の町>にはいくつもの人が住まう<街>が点在する。
それは、町の中心に向かうにつれて密度を増す。
町の中央にあるゲートの付近には、巨大な街が存在し、そこには多くの貴族が住み領主の城がある。
アルバートは一度だけそこに行ったことがあった。
そこは、アルバートの住む街とは比べ物にならないくらい、活気のあるところだった。
ゲートからは溢れるように人が行き来し、
そこを囲う様に広がった市では、激しい商売の嵐が吹き荒れていた。
それをすべて囲う巨大な<壁の町>。
それを脅かすのが魔物だ。
魔物学者と呼ばれる者たちがいる。
彼らは、数えきれないくらい様々な仮説を出す。
その仮説の違いで絶えず喧嘩をしているが、
一つだけ全ての学者が意見を同じくしていることがある。
それはたった一匹でも町の中に魔物が入れば、そこにいる人類の全てが殺戮され尽くされるであろうということだ。
アルバートはその魔物の真の強さが見たかった。
このステータスを見る力が本物であれば、その強さが分かるはずだ。
「しかし、おかしいなぁ」
今アルバートの見ている壁では、その上で大量のかがり火が焚かれている。
普段はそのようなことはしない。
魔物相手に警備などしても無駄であるし、
盗賊も壁になど用もないから近づくことは無い。
壁とはまだ距離が離れている。
そして、夜ということもあって、何が起こっているかまるで分らない。
しかし、良いことではないだろう。
アルバートは何が起こっているのか確かめるべく、壁のほうに歩いていく。
夜闇であたりが真っ暗な中、
雨風で風化している農家の間を通り抜けるのは、何か恐ろしく感じるものがある。
すると、目の前を黒い何かが通ったような気がした。
おかしい。
農村部の人間は夜は早く寝て朝早く起きるのが当たり前だ。
このような夜中に起きているわけがない。
夏が近いからか、吹く風がどこか生暖かく感じる。
「おい、誰かいるのか」
おそらく農家の中で寝ているであろう村人を起こさないために、あまり大きな声は出せない。
足を踏み出すと木の軋む音がする。
農家の角を曲がると、そこに何か影が見えた。
大きさは子供の背丈くらいか。
その場からじっとして動こうとしない。
「誰だ」
呼びかけるも、何も反応をしない。
そう思うと、その影からカサリと小さな音が聞こえる。
喉を鳴らして唾を飲み込むと、少しずづ近づいていく。
明かりを持っていないため、月明りだけが頼りだ。
意を決してそばによる、すると。
それは、打ち捨てられたカカシだった。
「なんだ、緊張して損した」
アルバートは腕で額の冷や汗を拭う。
すると突然、後ろの方から金属を引っ掻いたような異音が聞こえた。
バッと振り向く。
後ろには、畑と農家が映るのみだ。
「勘弁してくれ……」
そう言いながらも、アルバートは音の発生源に近づいていく。
どうせまたカカシか何かの音なのだろう。
壁に近づいていく方向だ。
進んでいくと、なにやら生臭いような臭いが鼻についてきた。
アルバートは不審に思いながらも、歩いていく。
匂いが強くなり、顔をしかめるほどだ。
足元に何か模様のようなものがある。
なんだろうとかがんで見てみると、それは赤い血だった。
まだ新しい、指で触ってみると全く乾いていない。
「おい、まさか……」
アルバートは匂いを元を辿っていく。
赤い血は点々と続きそして最後には、血に塗れた衛兵が倒れていた。
※文章を一部改変しました。12/27
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