6 「青年は不思議な力を得る」
昨日行った遺跡からどうやって帰ったのかは覚えていない。
遺跡に落ちたときの穴に行く道も記憶があいまいで、もう一度あの場所には行けそうもなかった。
それどころか、遺跡での出来事も記憶がぼやけている。
細かいことはあまり覚えていないありさまである。
今日の仕事は休みだ。
昨日ボロボロで戻ったアルバートに、店の親方は恐ろしい顔で今日一日の休みを言い渡した。
そんな体では仕事にならないとのことらしい。
ただアルバートは知っている、親方がそれを言ったとき少し眉が寄っていた。
親方は顔は恐ろしくなるほど怖いが優しい人だ。
ただ、その親方には悪いが、アルバートにはやりたいことがあった。
日中はおとなしくして夜みんなが寝静まった後。
アルバートはベッドから抜け出してドアを開けようとする。
取っ手に手をかけ、同じ部屋で寝ているエドワードのベッドのふくらみを確認する。
そして、廊下に出て扉を閉めた。
「どこに行くつもりだい?」
突然の声かけに、アルバートは驚いて振り向く。
廊下には、エドワードが立っていた。
「なんで、……お前、寝てなかったのか」
「昼間の君はちょっと不審だったからね、もしかしてと思ってさ」
どうやら、ベッドのふくらみは別の何かを入れて偽装していたらしい。
「まったく、さすが十年来の親友だ。お見通しらしい」
アルバートは、そう言っておどけてながら外に出るために横を通ろうとするが、エドワードの手で行く手を阻まれる。
どうやら通用しないようだ。
「それで、どこに行くのかな?」
「ちょっとそこまで。大丈夫、危ないところにはいかないさ、そんなのはもうこりごりだ」
アルバートはそう言って、昨日穴に落ちたせいで傷が付いた頬を指さす。
そうするとエドワードは笑って言う。
「それなら大丈夫だね、君が同じへまを二度としないのは子供のころからだ。それに」
「それに?」
エドワードはアルバートの目を指さす。
「目が輝いてる。そうなった君を止めるのは至難の業だ」
「よく俺のことを分かってらっしゃる」
アルバートはニヤリと笑った。
エドワードは処置無しというように首を振ると、廊下の壁に背中を預けて腕を組む。
「どこに行くかは帰った後に聞くことにするよ、いってらっしゃい」
「ああ、行ってくるよ」
どこに行くのか、その目的は今アルバートの目に克明に映し出されていた。
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固有名:エドワード
種族名:人
Lv:1
HP:110
MP:109
物攻:33
物防:32
魔攻:35
魔防:28
速度:29
スキル:
なし
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アルバートが遺跡から戻った後、これが見えるようになった。
最初は驚いていたが、今はもう慣れた。
半日あれば大抵のことは適当に順応できる。
アルバートは自分のこの特技とも取れない性格を、今ほど感謝したことは無かった。
これが何なのか、詳しいことは分からない。
ただ、昔ボードゲームで似たようなものを見たことがある。
そのボードゲームではこれのことをこう呼んでいた。
ステータス、と。
そのボードゲームは自分が人類の英雄となって、
外の世界に蔓延る魔物たちを倒していくものだった。
ステータスというのは、そのゲームに存在するキャラクター達の力の度合いを測るものだった。
仮にだが、もしこの力が現実の、幻覚ではないホンモノだとしたら。
どうしても、確認してみたいものがあった。
それは魔物。
あの人類では到底太刀打ちできない者たち。
それらの力はいったいどれほどなのか。
それが知りたい。
魔物はそのすべてが凶暴で凶悪だ。
それを証明する話は昔から枚挙にいとまがない。
魔物を討伐するために出動した、領主様の軍三千が、
時計の長針が一周するだけの間に、たった一匹の魔物に全滅させられたとか。
無理を言って馬車と共に町の外に出た男が、
城壁の上の衛兵が一瞬顔を背けたうちにミンチになっていたとか。
全部本当のことだ。
魔物のせいで起きた凄惨な事件はもっとたくさんある。
それを起こしてきた魔物、本当の意味での超越者、それの実態を知りたい。
アルバートはそう思った。
※文章を一部改変しました。12/27
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